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高所恐怖症なのに竜騎士になりました  作者: 矢島 零士
第二章:軍学校編
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敗北感と怒り

 僕は今、武術大会の試合場の真ん中付近でユイ・ダヴェンポートと向かい合っている。

 これから、武術大会・団体戦の予選でユイと戦うのだ。



 貴族派チームと僕らのチームの実力差は圧倒的で、僕らが優勢だったのだけれど、貴族派チームの選手たちは辛抱強く、降参するものは誰もいなかった。


 結局、大将戦を終わった時点での対戦成績は五戦とも引き分け。大会規定によって、決定戦が行われることになった。


 僕らのチームの代表者は、僕だ。

 貴族派チームは、先発メンバー全員がボコボコにされ、試合に出ることができない状態だったため、大会規定により補欠のユイが決定戦に出ることになった。


 ユイは二刀流だ。二本の木剣を下段に構える。二本の木剣は先の方で交差している。

 『ジャルト十字法』。ジャルト流の中でも守備重視の構えだ。ただし、受け一方ではなく、強烈な返し技の狙いを秘めている。


 力で潰すのは難しそうだし、安易に攻め込むのは危険だ。


 僕は木剣を中段に構えた。


 決定戦の時間は五分で、延長はない。試合終了までにどちらも降参しない場合、三人の審判によって勝敗が決まる。

 当然、攻めに回る方が審判の印象や採点は良くなるはずだ。



 試合場の広さは、十一メートル四方。

 まず、僕は短い時間に何度も攻撃を仕掛けてみた。ボクシングのジャブのように、力をあまり入れず、攻撃によって相手の動きを制限する狙いだ。


 ユイは的確に防御し、ときには返し技で攻めてくる。

 やりにくい相手だ。なんとか、ユイの構えを崩したい。


 僕はスピードを上げた。手数で圧倒して相手にミスさせる狙い。

 だが、ユイは僕のスピードについてきた。

 その後、剣速を増減させても無難に対応する。


 スピードで駄目ならば、技だ。

 ユイが見たことのないような技がいい。


 僕は、わざと大振りし、ユイの攻めを誘った。ユイの返し技に対する返し技を狙う。


 ユイの左手側の木剣が僕の方に向かってくる。しめた!

 僕は木剣の軌道を変え、ユイの左手首を狙う。


 次の瞬間、木剣が宙に舞った。僕の木剣だ。

 ユイの右手側の木剣が僕の木剣を弾き飛ばしたのだった。


 すかさず、僕は後ろに跳ぶ。

 ユイは、二本の木剣を下段に構える姿勢に戻った。



 剣の腕では負けた。でも、勝負はこれからだ。


 ぶちかましが決まるとは思えないけれど、僕はユイの方に突進した。

 もちろん、ユイの対応によってはユイをぶっとばすつもりだ。

 二本の木剣を一度に受け止める自信はないが、一応、それも選択肢の一つ。



 ユイの表情が変わった。

 緊張した表情だったのが、穏やかな微笑みに。

 ユイは、僕の突進を余裕でかわし、僕に攻撃してこなかった。


「アレク、降参だ」


 ユイは木剣を二本とも床に置き、両手を上げて審判に降参の意思を表示した。



 ユイが降参した結果、僕らのチームは貴族派チームを破って1年1組のクラス代表に決まった。


 クラス代表になったことは嬉しい。けれど、僕にはユイへの敗北感が残った。そして、試合を途中で放棄されたことへの怒りも。

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