英雄の介添人
武術大会の1年1組のクラス代表を決めるための予選には、二つのチームが参加する。僕らのチーム以外では、貴族派のチームだ。
平民派は団体戦には参加せず、腕に自信のある何名かが個人戦に出場する。
ちなみに、「ジャンヌ派」は現在、僕、ジャンヌ、ジェシカ、アスカ、ケインの他に、貴族が一人、平民が一人で、全部で七人いる。
1組の人数は二十人。1組だけに限ればジャンヌ派が最大派閥だ。
昼休み。ジャンヌ達と一緒に学校の食堂で食事した後、僕は一人で学校の裏門の辺りに向かった。
屋外の練習場もあるけれど、校内武術大会の予選前は混雑しているはずだ。
静かな場所で軽く素振りするつもりだ。
ところが、そこに同じ1組のユイ・ダヴェンポートがいた。
ユイは美少年だ。男装の麗人と言われたら、誰もが信じると思う。
病弱らしく、剣術の授業は常に見学で、僕はユイが剣を振るのを見たことはない。
ユイは、右手と左手、それぞれに練習用の木剣を持ち、剣舞のように美しく動いていた。剣には強い力が感じられる。
ユイが病弱というのは本当だろうか。
僕は声をかけることも忘れ、ユイに見とれていた。
突然、ユイが動きをやめ、僕の方をみた。
「ユイ、君が剣を使うのを初めて見たよ。巧いな」
ユイは恥ずかしそうに微笑んだ。
「たいしたことないよ」
「いや、そんなことない。予選で君と戦ってみたいよ」
「それは無理じゃないかな。僕は名前だけ参加の補欠なんだ」
「そうなのか。それにしても、君の動きは凄かった。剣術、好きなんだな」
「好きというより、家業だからね」
「え?」
意外なセリフだった。
ジェシカの調査によれば、ユイの親は領地を持たない下級貴族で、文官として王都で働いている。
「まあ、正確にいえば、遠い先祖の家業だ」
「君の先祖は騎士か軍人だったのかい?」
「『英雄の介添人』って、知ってるかい?」
「いや」
「そうだろうね。『風のラファエル』の名前は有名だけど、彼の相棒の名前はほとんど知られていない。僕の親によれば、僕の先祖はラファエルの相棒として魔王と戦ったんだそうだ。本当かどうかは分からないけどね」
「凄いご先祖様なんだな」
「僕もそうなりたいものだよ」
「それが夢か」
「ああ。でも、かなわぬ夢さ」
ユイは空を見上げた。
僕は何も言えなかった。ユイにはユイの事情があるのだろう。
夢ならば叶うなどと、無責任に言う気にはなれなかった。
「アレク、君とはあまり話したことなかったけど、楽しかったよ。じゃ、お先に」
ユイは校舎の方に去っていった。
2019年3月2日、ユイが二刀流であることを分かりやすくするために記述修正しました。




