シゲンの占盤
道場の応接室に使っている和室で、祖父と僕はテーブルをはさんで向かい合わせに座っている。
祖父はあぐらで、僕は正座だ。
「さて、何から話したものかの」
祖父は、十秒ほど黙考した。
「アレク、おまえと会うのは初めてだが、わしはお前の祖父トーマス・ゲイルだ。そして、おまえの前世での祖父でもある」
僕は驚愕した。目の前にいるのが父方の祖父ゲイル公爵で、しかも僕の転生のことまで知っていることに。
ただ、ゲイルの一族が金髪碧眼が多い白人なのに対し、目の前にいる祖父の外見は黄色人種。前世での僕も当然、黄色人種だった。
すぐには信じられない。
「お祖父さん?」
「信じられないだろうな、今のわしの姿では。では、トーマス・ゲイル本来の姿に戻そう」
祖父の姿が一瞬で変わり、僕が肖像画で見たことがある祖父の姿になった。
驚くべきことに、魔法を使った気配が感じられなかった。
「魔法を使った気配がなかった。どういうことです?」
「魔法ではない。竜が人化するのと同じだ。人化している間の竜の肉体は人間そのものだ。わしが黄色人種の人間に変化している間に子供を作れば、わしの子は黄色人種としての形質をわしから受け継ぐことになる」
話の内容が見えない。
「アレク、ゲイル家の先祖が『風の一族』というのは知っているか?」
「いいえ」
「そうか。ジョセフの奴、何も教えていないのだな」
ジョセフというのは、僕の父のことだ。
「アレク、我々、ゲイルの者は竜の末裔なのだ。今では竜の血が薄くなって、一族でも変化の能力を持つものは少ないのだが、わしは先祖返りというやつでな」
納得したわけではないけれど、一応、信じておくことにする。
「魔法の気配がないのに姿が変わって、驚きました」
「わしは、おまえが二度も我が孫として生まれてきたことに驚いたよ」
「僕が転生したことを、なぜ知っていたのですか?」
「リリー殿下からだ。殿下は過去見の能力の能力があって、アレクが未来の日本から転生してきたことを知っておったよ」
「スウ姉さん、いや、リリー殿下は、なぜ、僕の家に来たんでしょうか?」
「敵から逃れるだめだ」
「やはり、敵がいたんですね。何者なんですか?」
「わからんが、政権の中枢にいたことは確かだ。魔王のような存在が黒幕かもしれないと殿下は考えていたが、結局、確証はみつからなかった」
「魔王ですか」
現在の世界で、魔王は伝説上の存在とされているが、存在を否定されているわけではない。
「殿下から聞いたことだが、殿下は大昔、『風の一族』の族長だったことがあり、そのとき、過去のアレクを養い子にしていたそうだ。殿下がジョセフの家でアレクに会ったとき、過去世で関りがあった者だとすぐに分かったそうだ」
「そんなことがあったんですか」
「アレクを教えることができたことを殿下は喜んでいたよ」
「僕は、殿下の墓前で復讐を誓いました。今、僕は何をするべきでしょうか?」
「力をつけることだ。そのために役立つものがある」
少し待っているように言い、祖父は部屋を出ていった。
五分くらいして、祖父が何かを持ってきた。
「これだよ」
祖父がテーブルの上に円形の物を置いた。
中央に穴のある円盤が何枚か連結されたもので、円盤には文字や記号が書いてある。
「これは?」
「『シゲンの占盤』と呼ばれるものだ。占いの道具だけれど、占いの方法については伝わっていない。でも、もう一つ、使い道があるんだよ。分かるか?」
「いえ、想像もできません」
「変化の能力の育成に役立つのだよ。わしも、これで変化できるようになった」
祖父は笑った。
「父も変化できるんですか?」
「わしの子供たちにも教えてみたのだが、素質がなかったようだ」
ここまで言われると、祖父の話は信用できそうだ。
「僕に出来るかどうか分かりませんが、ぜひ、変化の仕方を教えてください」
「もちろんだ。そのつもりで持ってきたのだから」
その後、ジャンヌ達には先に帰ってもらい、僕は夜まで祖父の指導を受けた。
2019年2月24日、人種の形質を受け継ぐ旨の記述を追加。




