夕暮れ
アスカが僕を竜騎士認定した後、僕はジャンヌ、ジェシカ、アスカの三人と一緒にブリーズ商会に行き、コスプレ用品の仕事をしてきた。
いつもの仕事を済ませた後、ジャンヌたちに先に帰ってもらい、祖父と今後のことについて話し合った。
ブリーズ商会からゼピュロス商会に応援要員を出向させてもらえるよう、祖父に頼んだ結果、快く了解してもらえた。
魔法コンピューターの開発については、画期的な発明であることは理解してもらえたものの、祖父は開発費用が巨額になることを懸念し、慎重な態度を崩さなかった。
それでも、調査・研究を進めることの了解は取れた。当面は僕一人で作業することになるけど、今後、祖父を納得させることができれば、専任の研究者を雇うつもりだ。
祖父と話し合った後、僕は徒歩で寮まで戻る。
今のところ、仕事は怖いくらいに順調だ。軍学校での生活は楽しい。
剣の腕は軍学校の同学年で上位三人に入ると自負している。
魔法については、初級レベルの無属性魔法ができるようになっている。今の世界で、人間の魔法使いとして上位の実力かもしれない。
でも、これでいいのだろうか。これで満足していていいのだろうか。
スウの命を奪った者への復讐。このことを忘れた日はない。
僕は強くなってきている。でも、もっと強くなりたい。
そして、ここに生まれてくる前にいた世界のことも忘れられない。
日本で暮らしていた僕も助けたい。
寮の部屋に戻ってみると、誰もいなかった。多分、夕飯を食べに行っているのだろう。
気配を感じて振り返ると、ジャンヌがいた。心配そうな顔だ。
「どうした?」と、僕。
「アレク、何かあったの?」
「何も」
「嘘。怖い顔してた」
ジャンヌには、敵わないな。僕は転生のことをジャンヌに話すことにした。
「ジャンヌ、生まれ変わりって信じる?」
「そういう人がいるって聞いたことはあるけど…」
「僕は転生者なんだ。ここで生まれる前の記憶がある」
ジャンヌは黙っている。ひどく驚いているに違いない。
「前の人生で、僕はこことは違う世界の日本という国にいた。アスカの生まれ故郷でもある。僕は十四歳まで日本で暮らし、そこで死んだんだ」
「病気だったの?」
「いや、妹を助けようとして殺された」
「家族に会いたい?」
「うん。でも、会っても分かってもらえないだろうね。顔は別人だから」
「行くつもりなの、その日本って国に?」
「そのつもりだ。実は、僕は死んだときより過去に転生したらしくて、前世の僕が死んだ事件に介入できそうなんだ」
「でも、それって、アレクが生まれてこないってこと?」
ジャンヌは僕を抱きしめた。
「それは困るな。ジャンヌと一緒にいたいし、スウ姉さんの復讐もするつもりだから。でも、前の僕も助けたい」
「欲張りね」
「ああ、僕は世界一の欲張りで、誰よりも君を愛してる」
僕もジャンヌを抱きしめた。
「ご主人様、ボクのことは?」
アスカ、いつから聞いてたんだ?
アスカの隣にはジェシカもいて、笑いをこらえていた。




