販売ルート確保へ
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はげみになります
その後、ジャンヌの手持ちの布や糸を全て使い、付け耳と付けしっぽを百個ずつ作った。
放課後から夕食前までの時間の大部分を、コスプレ用品の作成に費やしてしまった。
夕食後、僕は一人で外出し、母方の祖父トーマス・ブリーズに会いに行った。
祖父は商人で、いくつかの国にブリーズ商会の店を出していて、王都リエンに本店がある。
祖父は現在、本店の建物の二階で一人暮らししているのだが、午後7時頃なら店の方にいるはずだ。
魔法を使っているところを他人に見られたくないので、軍学校から祖父の店までは走って移動した。
三キロの距離を五分弱、つまり百メートルを9秒台で走るペースだ。僕としてはジョギングのつもりだけど、通りを歩いている人の何人かは驚いた顔をしていた。
百メートル走で9秒台を走ることができれば、前世ではオリンピックで入賞を期待できるレベルだけれど、転生後の世界では特別なことではない。軍学校の学生で足が速い方ならば、この程度は余裕だ。
ブリーズ商会の本店は、商店街の入り口付近の目立つ場所にある。
店の中には多くの人がいて、繁盛しているようだ。
僕は建物の裏側にまわり、従業員や取引先業者のための出入り口から建物に入った。
受付の職員は知らない人で、僕は軍学校の学生証を見せ、会長の孫であることを言った上で面会希望の意向を伝える。
しばらくして、祖父の秘書がやってきて、応接室まで案内された。
僕が部屋に入ると、祖父は椅子から立ち上がり、喜色満面で僕を迎えた。
「アレク様、大きくなられましたな」
僕が祖父に会うのは三か月ぶりだったが、成長期なのか、僕の身長は三か月で五センチ伸び、現在、百七十センチだ。
父と兄は百八十センチ以上あるので、僕も同じくらいになるかもしれない。
祖父には何度か、呼び捨てにしてほしいと言ったのだけど、貴族の家柄への遠慮があるのか、祖父は僕をアレク様と呼ぶのをやめない。
挨拶を済ませ、僕自身や家族の近況を話した後、本題に入る。
「お祖父さん、こういう物を作ってみたんだけど、どう思う?」
僕は、カバンから付け耳と付けしっぽを出した。犬・猫・キツネの三種類すべてだ。
祖父の目が真剣になった。
「これは?」
「動物の耳としっぽの形のアクセサリーだよ。パーティーでつけることを想定している」
「私には、こういうのはよく分かりませんな」
「これを売ろうと思ってるんだ。今、友達を通じて、社交界で流行らせようとしている」
「明日、店の服飾関係の者に見せてみましょう、明日の午後、おいで願えますかな?」
「午後二時では?」
「では、午後二時に」
翌日、軍学校は休日。
僕は、ジャンヌ、ジェシカ、アスカを連れて祖父の店に行った。
前日同様、建物の裏側から入り、祖父の秘書に応接に案内された。
祖父にジャンヌたちを紹介すると、既に祖父は僕とジャンヌが婚約同然の仲ということを知っていて、会えたことを喜んでいた。
ブリーズ商会の服飾部門の人が何人か呼ばれた。
プレゼンは僕が行った。商品のコンセプトを説明し、ジャンヌたちに実際に付け耳と付けしっぽを装着してもらった。
プレゼンの後、質問に答える。
「確かにカワイイですね」と、ハクルさんが言った。
ハクルさんは、本店の服飾部門のトップの女性だ。
若い女店員たちの間で、コスプレ用品は好評だったそうだ。
質疑応答は順調に終わり、後は祖父の決定次第だ。
祖父は、ビジネスに私情をはさむ人ではない。
「アレク様、商品化してみましょう。具体的な条件については、ハクルとお話しください」
まだ楽観はできないが、状況は商品化に向けて大きく進展した。




