作者との会話
ある夜、僕はネット小説「高所恐怖症なのに竜騎士になりました」の作者である矢島零士の仕事場を訪問しようとしている。
いうまでもなく、僕がこれから会おうとしている矢島零士は本当の作者自身ではない。本当の作者は生身の人間であり、小説の中で活動はできない。
僕がこれから会うことになるのは、作者が自身を投影した作ったキャラクターで、本当の作者から見れば僕と同格の存在だ。
ちなみに、僕は今、夢を見ているという設定だ。
夢の中でだけ、僕は矢島零士と会うことができる。
「こんばんは、矢島先生」
「こんばんは」
「いくつか、教えていただきたいことがあるんですけど」
「却下!」
「意地悪しないで教えてくださいよ。先生の好物の柿ピーも持ってきましたよ」
「じゃあ、ちょっとだけ」
「僕の名字を教えてください」
「ない」
「え?」
「まだ考えてない」
「ジャンヌは名字があるのに、主人公の僕が名字なしなんて、ひどいですよ」
「アレク、君の両親よりはましだろ?」
確かに、僕の両親は現時点で名前さえ出ていない。
兄のカイルと僕は、名前があるだけましなのだろう。
「必要になったら考えるから」
「では、次にいきます。軍学校の入学試験以降、僕が変な人になってるんですけど、どういうことでしょう」
「君も作者の分身だからね、そういうこと」
「じゃあ、ジャンヌやスウ先生、アスカとかも作者の分身なんですか?」
「あれは、願望だな」
「女性になりたいんですか?」
「いや、そういうことじゃなくて、元気でかわいいタイプが好きなんだよ」
「僕も同じ意見です。では、次。モンスターがあまり出てこないんですが、どうしてですか」
「初期設定ではモンスターのいない世界だったから。でも、ドラゴン出しちゃったし、題名に竜騎士を入れたから、これから出るんじゃないかな、多分」
「そうですか」
「もう終わりかい?」
「僕はこの先、どうなるんですか?」
「決めてない」
「でも、作品の構想とか、アイデアとか、ありますよね」
「まあね」
「ちょっとだけでも」
「ダンジョン作成、校内武術大会、敵討ち、世界征服、転生」
「キーワードだけですか。それにしても、転生って何ですか、僕、死ぬんですか?」
「まだ考えてない。適当に言ってみただけだから」
「からかってるんですね」
「うん」
僕は頭を抱えた。
「悩まない方がいいぞ。悩むとはげるから」
僕は暗い気持ちで矢島零士の仕事場を去った。多分、夢での会話はすべて覚えていないだろう。




