表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高所恐怖症なのに竜騎士になりました  作者: 矢島 零士
第〇章:転生
1/69

異世界転生した(改)

2019年2月15日、主人公が転生する前の部分を加筆し、既存部分にも少し手を入れました。

 僕の名前は高井野古和位。名前の読み方は「タカイノコワイ」だけど、高所恐怖症ではない。

都内在住の中学二年生だ。


 一歳年下の妹の名前は射矢。読み方は「イヤ」。

 妹は自分の名前を気に入っているけど、僕は自分の名前が好きではない。初対面の人にも覚えてもらいやすいけど、やっぱり、変な名前だと思う。


 僕と妹の名前を考えたのは、父だ。

 以前、古和位という名前に意味があるのか訊いてみたら、当て字ということだった。

 父は面白い名前と思ったのだろうけど、変な名前を付けられる側にとっては迷惑なことだ。



 同居している家族は、両親と父方の祖父。祖母は亡くなっている。


 祖父は元公務員で、何年か前に定年でやめてからは自宅で武術の稽古に励んでいる。


 祖父は古武術の伝承者だ。一子相伝の武術で、神話の時代から伝わる暗殺術とのことだが、祖父は大風呂敷を広げるところがあるので、僕は信じていない。


 僕は幼い頃から祖父の指導を受け、多分、大抵の格闘家よりも強くなっている。


 祖父によれば、父には武術の才能はないそうだ。それでも、祖父は父が世間の大抵の人より強いことは認めていた。



 僕と妹への名前の付け方からでも分かる通り、父の感性は世間一般とは違っている。

 髪型はモヒカンで、革ジャンがお気に入り。

 好きな言葉は「兄より優れた弟など存在しない」。ちなみに、父は一人っ子だ。


 幼稚園や小学校の父兄参観にもモヒカンと革ジャンの姿で来るものだから、周囲の父兄からは警戒されたと思う。同級生の一部からは意外な高評価だったけど。


 武闘派の外見にもかかわらず、父はオタクだ。

 自宅には何台もパソコンがある。趣味が高じて、学生時代にゲームを自作するようになり、大学卒業後はゲームのプログラマーになった。

 在宅勤務だけど、週に一度くらい、会社に出勤している。


 父の影響か、僕もゲーム好きで、小学校の高学年の頃から自分でも作るようになった。

 ゲーム作りを仕事にするのも悪くなさそうだ。

 ハーレム願望もあるけど、実現は難しいだろう。



 ある日、学校から自宅に帰る途中、僕はいつものように近道のため、近所の神社の境内を通り抜けようとしていた。

 何か争うような物音が聞こえ、次に悲鳴が聞こえた。


 僕は神社の本殿に向かう長い石段を駆け上る。

 他人のケンカに巻き込まれたくはないので、状況を確認したらすぐに立ち去るつもりだ。場合によっては警官を呼ぶくらいのことはしてもいい。


 いかにも悪そうな五人の若い男たちが二人の女子中学生を囲んで、逃げられないようにしている。

 中学生のうちの一人は、僕の妹の射矢だ。おびえた表情。


 考えるよりも先に、僕は飛び出す。

 妹の肩に手をかけている男を殴り飛ばし、隣の男を足払いで倒し、驚いて振り向いた男の目に(つば)を飛ばして目つぶしした。


「射矢、逃げろ!」

「お兄ちゃん!」

「お祖父さんか誰かを呼んできてくれ」

「わかったわ」


 射矢が駆け去る。


 残る敵は二人。キツネ目の男とタヌキ目の男。

 二人とも、男としては小柄で、僕の実力なら倒せそうだ。


 ところが、思いがけない邪魔が入った。

 妹と一緒にいた女子が、「たすけて」と叫びながら抱き着いてきたのだ。

 助けに来た人間を邪魔してどうする?


 あわてて振りほどこうとするが、必死の人間の力は意外に強い。


 キツネ目のパンチが僕をとらえようとしたとき、ようやく自由を取り戻し、僕は間一髪でかわす。


 でも、次の瞬間、僕の目の前が白くなった。

 スプレーか?


 すぐに目を閉じたけど、少し目に入った。また、息をとめる前に少し吸い込んでしまった。

 目が痛み、涙が出る。息が苦しい。


 僕は男達に取り押さえられた。


「よくも邪魔してくれたな。この落とし前はつけてもらうぞ」


「くっ、殺せ!」


 次の瞬間、僕の体は宙に舞った。おそらく、男達が僕を石段の上から放り投げたのだろう。

 それから、僕は転げ落ち、打ちどころが悪かったか、そのまま意識を失った。



 誰かに呼ばれた気がして目を開けると、そこに天使がいた。天使のような人ではなく、天使そのもの。


 僕が呆然としていると、天使は手慣れた様子で僕に教えてくれた。


 まず最初に、僕が死んでしまったこと、そして、これから生まれ変わることを、だ。


 自分自身が死んでしまったことを受け入れるのは難しい。

 でも、最後に意識を失ったときの状況を考えると、無事に済んだはずはなく、やはり、僕は死んだのだろう。


 死んでしまったものはどうしようもない。

 僕は未来に目を向けた。


「どのようなところに生まれ変わるのですか?」


「あなたは、ああ、運がいいですね。割と裕福な家ですよ」


「教えてしまっても問題ないんですか?」


「生まれるときに前世の記憶は消えますから、問題ないです」


「そういうものですか。分かりました。ありがとうございます」


 天使は親切で、僕が魔法の素質を持って生まれることなど、僕が聞いてもいないことまで教えてくれた。


「魔法、使えるんですか?」


「はい。魔法の素質を持つ人は滅多にいないんですけど、その中でもあなたはスゴイですよ。大賢者とか大魔導士なみの素質です」


「それは嬉しいな。ハーレムとか作っても問題ないですか?」


「まあ、頑張ってください」


 ハーレムをつくるのは問題ないらしい。


 僕の心が落ち着いたと判断したのか、天使は僕に、近くに見える列に並ぶようにいった。

 たくさんの人が並んでいる。



 僕の番がきた。

 光が僕を包み、意識が消失する。

 気が付くと、僕は母親の胎内に宿っていた。母親の心音が聞こえている。


 前世の記憶は残っている。


 母の胎内にいた頃、僕は眠っていない時間の大部分、意識を無にするよう心掛けた。こうした訓練が魔法を使う上で役に立つかどうかは分からない。けれど、何らかの役に立つことはあるかもしれない。



 母の胎内から外界に生まれ出てくる直前、体中が痛く、苦しく、僕は意識を失った。


 気が付いてみると、僕は生まれていた。驚いたことに、前世の記憶は残っていた。



 赤ん坊の体に大人の心。自由に動き回ることは出来ず、退屈だ。

 周囲で話されている言葉は理解できない。日本語ではないし、英語でもない。


 生まれたばかりの赤ん坊は視力が弱く、周囲はぼやけて見えるものらしい。最初、僕は両親の顔が分からなかった。

 そのうちに視力が発達し、人の姿をはっきり認識できるようになった。

 両親とも金髪で青い目。鏡に映った姿を見て、僕も同じであることが分かった。


 家の中には使用人が何人かいるので、貧乏ではないようだが、家電製品は見当たらない。


 家族は、両親の他に兄が一人。兄は僕より十歳くらい年上に見える。


 毎日、母が絵本の読み聞かせをしてくれる。

 僕の言語能力は順調に発達していく。



 生まれてから半年ほどの間に、いろいろなことが分かってきた。


 僕にとって衝撃的だったのは、ここが異世界だということだ。

 日本以外の国に転生したというだけでなく、僕が名前を知っている国がまったく存在しない世界。


 魔法の素質があると天使から言われた辺りで、転生先が異世界だと想像するのが自然だったのかもしれない。

 でも、死んでしまったばかりだったことを思うと、冷静になれなかったのも無理はない。



 世界は三つの大陸に分かれている。

 北半球にあるアルスラ大陸には、百を超える国家が存在している。

 赤道直下にあるゾナ大陸は三大陸の中では最も面積が狭く、三つの国がある。

 南半球にあるサザン大陸は、面積はアルスラ大陸と同じくらいあり、アルダラン王国が大陸全体を支配している。


 これらの知識の多くは、母が読み聞かせしてくれる絵本から学んだ。


 僕が生まれたのは、アルスラ大陸の中央部に位置するカルナー。

 二千年あまり前に建国された王国で、伝統はあるが、大陸の中でも小国の部類に入る。



 父は貴族で、爵位は男爵。王都近郊に領地があり、普段は領内で過ごしている。

 父方の祖父はアルダラン王国の貴族だそうだ。次男だった父は爵位を相続することはできず、自らの腕と才能で道を切り開き、カルナーで貴族になったのだ。



 母はカルナー出身だ。王都リエンで商人の娘として生まれ、国を出たことはない。

 幼い頃に魔法の才能を見出され、王都の学校で魔法を学び、魔法使いになった。

 父とは仕事で知り合ったのだそうだ。



 兄のカイルは普段、自宅にはいない。王都にある軍学校の寮で暮らしていて、長期休暇のときに帰ってくるだけだ。

 カイルは温厚で堅実な性格。将来、カイルが父の爵位を継ぐことになる。

 次男の僕は、家を出て他所で仕事することになるだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ