モモ太郎と鬼ヶ島。七話目。
本家本元のイケメン桃太郎と、彼率いる一騎当千の神獣の犬猿キジ。
はたしてキモデブでブサ面のモモ太郎と、ユカイで頭がアレな三バカ妖怪は対抗できるのか!
おかしい。この説明だと一戦に及び出しそうだけど…。
うん。こいつらにはそういうの、無理(嗤)
『ところであなた方は巻貝の角を頭に付けてまで、一体こんな海辺で何をしておいでなのでしょうか?』
『『『御大将、こやつらは鬼ではないと云われるのですか???』』』
ビックリした様子の三匹の妖怪に若武者はそうですよと、コクリ頷いた。
まあ、分かりますよね。てか、何で他の妖怪の人たちは気付いてないの?
『ああ、それは彼らはちょっと、今のような夜向きの神獣ではないので…』
「ああ、そういうこと…。【昼戦専用機か。なるほど】てか、この人たち神獣なの?」
『ええ、そうですよ』
「ふーん、だから異様に強そうなのか…」
『かく云う私も、八百万の神が遣わし賜いし神果。桃から生まれた桃太郎と申します』
「へえーーすごいね」
コイツのありえない自己神格化妄想は放っておくとして、奴に従う三匹の強面神獣が、仕えているのが妄想癖持ちである欠点以外は確かにこう、うちの役立たずバカ妖怪共とは根本からして何かが違うと、オレは両者を見比べながら妙に納得してしまっていた。
『それであの、大変失礼ながら。あなたたちからは何と言いますか…。生まれながらの闘争心と申しますか、敵愾心の様な大いなる気概や野望じみたものが一切感じませんでしたので、我々の敵ではないと判断させてもらいました』
すいませんね。オレたちの念頭にあるのは、如何に毎日を何もせずに豊かに適当に過ごすかってことくらいだからね。てか仮に戦っても即全滅するだろうしね。戦う気は毛頭ないけどさ。
なんか自分で言ってて嫌になるが、事実だから仕方がないし生活態度を改めるつもりもないから、うん。これは仕方がないね。
「はい!」
そんな自分的にヤナ空気の中、タヌ子がやたら元気のよい声を突如発して右手で挙手した。
『あの、いきなりなんでしょうかタヌキのお嬢さん?』
「お兄さんたちここで何してたの?鬼ヶ島観光?」
『は?』
「はえ?」
オレと若武者は、未だに状況が判っていない奴がいたことにビックリして顔を見合わせた。
「どうしようモモ太郎くん。なんかこの人、あたしにちょっとだけ引いたように見えたんだけど気の所為かな?」
「うん、心配するな。引いたのはあの人だけじゃないから…」
「ええっ?なんで?みんな意地悪だよ!」
「意地悪ってなんだ!?その意味不明な発言を繰り返すお前にオレもびっくりだわ!!」
「あ~うっさい!あ~うっさい!!モモ太郎よ、いいからさっさと頭脳が土嚢で出来てるタヌキに答えてやれよ!」
「そうやそうや!あんたが全責任とって頭がポリバケツなタヌ子におしえてやりーな!」
「ええっ?ハチベエちゃんもヒルナンダスさんもなんかひどいよう!よくわかんないけど!」
「お前らも似たようなアホな生き物だろうが!お前らこそ状況が分かるなら教えてやれよ!あとタヌ子、よく解らないのに、それでコイツらにヒドイこと言われてるってわかったな?」
またもギャアギャア、ギャアギャア。頭の悪い争いを始めたオレたちを見て、眉間に微かな皺を寄せた若武者が、苦悩の表情を浮かべ額に手を当て暫し沈思黙考、眼前で繰り広げられている頭の悪い事態の把握に努めている様子だ。
まあ、優れた頭脳を持つオレには、絶対関係ない話だけどな。絶対にだ!
『『『お主ら!若様の御前でバカ騒ぎを致すな!退治いたすぞ!!!』』』
「「「「申し訳ありませんでした!!!!」」」」
あまりの頭の悪い言い争いが怒り心頭に達したらしい三匹の妖怪×神獣〇は、それぞれ自分の得物を構えて盛大に威嚇してきたので、致し方なくオレたちは一斉に土下座して許しを請うた。
『皆の者おやめなさい』
『ははっ!』
こちらに迫っていた三匹の妖怪×神獣〇は、若武者の物腰の柔らかい一喝で、即座に得物を引き彼の足下に畏まる。
よくペットを躾けてんな、マジで感心するわ。あとでこっそり秘訣を教えてもらおうっと。
『それにあなたちも、仲間内での争い事はおやめなさい。傍から観ていても大変見苦しいですよ』
「「「「ホントすいませんでしたあ!!!!」」」」
即座にオレたちも「「「「へへぇ~~~」」」」と、土下座したまま畏まった。
ここはひとつ。此の偉そうで基本上から目線だがガチで強い方々に逆らわない方がいいという、オレたち全員一致の共通認識があったからである。
『よろしい。皆仲良くするのですよ』
「「「「はっ!!!!カッコいい若様!!!!ぼくたち、わたしたちは。今日から大の仲良しになりました!!!!」」」」
『『『なんと、あからさまに現金な奴らだ……』』』
神獣たちが声を揃えてなんか言ってるが、ここは盛大に無視することにする。こっちはちっぽけな体面や体裁より、長いものには巻かれまくってでも楽して生きるのが一番なんだよ!
『仲良くなられたところで、あなた方に一つ質問があります」
「はあ、何でございやすでしょう?」
「私が思うにあなたたちは鬼退治に来た者たちなのでしょう?』
今度はオレが代表して質問に答える。
だがホントの事を言える訳ねぇーーー!!
対岸の魚村に《鬼退治》を名目としてタカってウソがばれて掴まって、島流しよろしく無理やり鬼退治に行かされたなんて絶対に言えるわけねぇーーーー!!!
「は、はあ、まあ一応は…。そのつもりではあったというかなんと云うか……。へへへ」
ですのでココは、そうですとはハッキリ答えず言葉を濁しておくことにする。オレってやっぱ頭いいな!
『でしたら命がけの試みであった筈。もっと皆さん仲良くしないと命が幾つあっても足りませんよ』
ゆっくりと発せられた若武者の優しい言葉に、オレたち四人のパーティーは「へぇー。ですよね。ホントすんません…」と、上辺だらけの心のない同意の声と、お互いの手を取り合う臭い芝居で対応して〝誠意〟を示してみた。
『ただ残念ながら、鬼ヶ島の鬼は既にこちらで退治してしまいました。でも、これからも四人仲良くしていくというのであれば、鬼が貯めた宝物を私が特別に御分けしても宜しいですよ?』
「「「「はい!今から無二のマブダチである事をココに誓います!!!!」」」」
オレたちは眩いばかりの笑顔でお互いを力一杯抱きしめ合い、真剣な表情で固い握手を交わし合った。
『それはそうと皆さん、いい加減その頭の貝殻を御取りになってはどうですか?特に御美しい女の子妖怪さんたちには、禍々しい鬼の角は似合いませんよ?』
「「「「あっ???」」」」
おバカなオレたちは、頭に巻貝の角を生やしたままにしていたのをすっかり忘れていたのだ。
「仲良しのみんな!…と、取ろうか…いっちょに」
「「「え???え…ええ……。あっ!そうそう仲良しこよしだからね!!!いっちょに取ろうね!!!」」」
訳の分からない仲良しアピールをおったてた後、タヌ子をはじめハチベエもヒルナンダスも髪に巧く巻き付けていた貝殻を簡単に取り払った。が、困ったことにオレのは新天地の頭皮にぶっ刺さっているのである。そう、コイツを取るにはかなりな勇気が必要とされる代物なのだ。
あと、さっき最初に「えええ…」っていった事。オレ絶対に忘れないからな!!
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