モモ太郎と鬼ヶ島。六話目。
真打登場です♪
紛い物との〝差〟をお楽しみください♪
「がぷっ!がぷっ!新鮮な、すっごく新鮮な空気吸わなくちゃー!」
「だからって人の尻まさぐんな!そこからは不浄な空気しか出てこねー穴しかねーよ!アホタヌキ!!」
「ぶふぇっ!ぶふぇえ!鼻に塩水痛いのぜ!!」
「だからってオレの顔に海水交じりの鼻水吹きかけんな!アホハチドリ!!」
「なんかわかんないえふぉ!でも無性に血が欲しいんやよ!」
「首筋にかみつくな!お前がこの世で一番わかんねーよ!!どこでも吸血鬼かアホヤマビル!!」
「「「ちょっとモモ太郎!あたしたちの為に踏み台になって死んでぇー!!!」」」
「なんでだよ!!!」
じゃぶじゃぶ、ジャバジャバ。実際はヒザくらいしかない、とっても浅い波打ち際でくんずほぐれつ、自分が生延びる為にオレを足蹴の上で踏み台にしてでもと、一方的な攻撃を加え続ける三匹の少女妖怪。
もしも地獄というのが有ったら、ここはまさにそれであったろう。極楽に通じる蜘蛛の糸を我先にと争う亡者的な意味合いで…な。
『そこで暴れておるのは誰じゃ!』
「「「よし生き返ったよ!って…。ん?」」」
「ララァー。オレ…なんか時が見えそう…ブクブク」
きっちりオレを踏み台にして海面上に仁王立ちした三匹の少女妖怪は、突如響いた問いかけに気付いたが、その時のオレは、黄色っぽいクリーム色的なスモッグみたいなものを着た、どこかインド系っぽい美少女と【光る宇宙】で運命の邂逅しそうになっていたので、当然声の主を知るすべはなかった。
『重ねて尋ねる。お主らはいったい何者で、ここで何をしているのだ。率直に応えよ』
やっと三匹のアホ妖怪どもを力任せに押しのけ、海面に顔を出して新鮮な空気を胸一杯に吸って一息ついたオレの、その目線の先には、見るからにやたらと強そうな猛犬。いや筋骨隆々とした化け物じみた白い犬の妖怪が、鑓の穂先をオレたちにズイッと向けて、如何にも訝し気な様子でこちらを窺っていたのだ。
「ねねモモ太郎くん。あの人怖くない?」
「まあ腰に討ち取ったらしい、三匹の鬼らしい生首をぶら下げているしな」
「えっ!?あっホントだ!」
「「怖っ!!」」
この人《正体は犬の妖怪だけど》ヤバい。絶対にヤバい!!えっ、ちょっと待てよ。つまりさっきの雄叫びってまさか、この人が凶暴な鬼を一人で退治したってこと??
頭は悪いのに妙に察しがいいモモ太郎は、彼の着込む大鎧が血に塗れまくっているのまで確認して、さらにこの事実を三バカ妖怪たちに伝え、彼女らが戦慄し怯える様を指差しざまにゲハゲハ嗤い、お腹を抱えていた。
兎に角、現れたのが【鬼】じゃなくてよかった♪いやー。ホントに良かったわ♪ゲハゲハッ!!
『どうかしましたか、陸将』
すると今度は背が高く鎧姿も美々しい若武者が、流麗な筆跡で【日ノ本一】と書かれた立派な旗指物を背負い、笑顔だが鋭すぎる眼光でオレたちの前に現れた。
やべえ、犬が小者に思えるくらい圧がハンパねェ。コイツもただ者じゃねえな。それによく見たらコイツも腰に幾つかの生首をぶら下げてるし、左手には血が滲んだ大きな白い大きな袋までもってやがる。
察するに、あの袋の中には名のある鬼の生首が入ってるんだろうな。うん決めた。この人強そうだし怖いから絶対逆らわないし、からかったりしないでおこうっと。
『はっ!拙者。どこかに打ち損じ、逃げ遂せた鬼が居らぬかどうか島内をくまなく探索しておりましたところ、波打ち際にて鬼の女子三人を相手に乱闘に及んでおるきったならしい男の鬼をみとめ、誰何したところに御座ります!』
とっても強そうだけど、所詮はタダの犬っころを陸将と呼んだ若武者に対して、折り目正しく片膝を付き、慇懃に頭を下げて畏まって言上しているところを見ると、なるほどこの若武者が犬の親分だなと容易に判断が付いた。
『左様ですか』
『御大将どうなさりますか。なんなら鬼であるこやつらを、直ちにこの場で切り捨てに致しましょうか?』
「「「「ちょっ!!!!」」」」
いうのが早いか犬っころ。いえ御犬様は物凄い形相で槍を構えジリジリと、コッチににじり寄って来だしたのだ。
「待って!待って!待ってって!!オレまだ死にたくないから!やるならこいつらからにして!!」
「モモ太郎くん!ひどい!!」
「お前最低だな!是非コイツからやってくれ!で、うちだけは助けろ!!」
「あんたも大概やな!犬はん後生や、あちきだけでも助けて呉れたら何でもするえ!!」
「何言ってんだ!ついさっきまでオレを水攻めにしといてからに!ここはオレが助かるん番なんだよ!!」
ギャアギャア!!ギャアギャア!!
あはははははは♪
突き出された犬の鑓の前に誰かが誰かを押し出すという、実に醜い争いを続けるオレたちのみっともない行動がツボに入ったのか、若武者はひとしきり大笑いした後、にじり寄る犬の肩を叩いて動きを止めさせた。
『空将に山将、彼らが争っていたのは間違いはありませんか?』
『『ははっ!間違い御座いません!!』』
一体どこから声が聞こえたのだろう?
オレがヒルナンデスとハチベエの陰から顔を覗かせ辺りを見回していると、バッサバッサ羽音を轟かせて闇夜の空から如何にも屈強そうなキジの妖怪と、風のようにさらりと山際の大木から下りてきた猿の妖怪が姿を現し、揃って砂浜に着地し瞬時に若大将のそばに控えたのだ。
彼らもまた御多分に漏れず腰に幾つもの鬼の首をぶら下げており、若武者を中心としてより固まる姿は、まさに一騎当千の強者共と云った面々であった。
筋骨隆々だしね。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました♪