モモ太郎と鬼ヶ島。一話目
はじまりはじまり♪
むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんにポイ捨てされ村人にも見捨てられたモモ太郎(38)がいました。
モモ太郎は、『くそが!拾い親の癖に見捨てやがって!ニートのどこが悪い!おら働けよ!オレを養えよ!それが義理ってもんだろ!!』
などと宣い、この言葉を聞いたおじいさんおばあさんをはじめ、村の人々にも更にボコボコにされながら モモ太郎は、『いつか絶対仕返ししてやっからな!!』
とか捨て台詞を残したので、最後のドロップキックをおばあさんから繰り出されながら、村をあとに×追い出されて〇しまいましたとさ。
そんなモモ太郎は、旅の途中で出会った妖怪少女三匹を伴い。今はココ、瀬戸内海の上で恐怖におののいているのでした。
「うぇ、あれが噂の鬼が島かな」
「あぅぅ…。もう着いちゃったよぉ…」
「鬼強い…。とっても恐ろしい…」
「そうやそうや。あれらはえげつないんやで…」
瀬戸内海の真ん中で時折モヤに覆われながら浮かぶ、まさに鬼の角ようにとんがった二つの山を持つ通称【鬼が島】を臨みつつ、オレたちは恐怖に慄き震えていた。
まあ、当然と云えば当然である。オレをはじめココに居る仲間は皆、戦闘なんか生まれてこの方したことも無ければ、ロクすっぽ働きもしなかった怠け者たちばかりなのだから。
「ねえモモ太郎くん帰ろうよ。命は一つだけだよ?あたし無くしたくないよう」
と、つぶらな瞳でオレに訴えかけるコイツは、力強い猛犬どころかタダの子タヌキの化身で、名前はタヌ子という。コイツはオレが一人勇敢なる旅に出て、一番最初に出会った妖怪少女《ちっちゃ可愛い》で、道端で腹を空かせて死んだように転がっていたところを優しくしたら勝手についてきた厄介者だ。
「そ、そうだよモモ太郎。帰ろうぜ?帰ってとっとと寝ようぜ?」
気が強い癖に泣きべそかきながら帰りたがるコイツは、どうやって日本にやって来たのかは全く見当がつかないが、ハチドリの化身の妖怪少女《気が弱くてボーイッシュ可愛い》で、名前は女の子なのにハチベエと云う。たまたまオレが川辺で水浴びしていたら、空腹の余りいきなり空から降って来て、オリンピックなら金メダル確実な水ハネが極端に少ない飛び込み(墜落)を川に決めてみせた厄介者だ。
「みなが言う事はもっともやよ。そう思わはりませんか?モモ太郎はん」
怪しさ満載の京言葉らしき物言いを使ってオレに話しかけてきたのは、よりにもよって山の中で野宿していたオレの血を吸おうと近付いたところを見つけ、くんずほぐれつ、とっ捕まえた腹減り山蛭の化身の妖怪少女《キモイ山蛭なのになんでかスッゴイ美人》で、名前はチイスウタロカと云う厄介者だ。
「な、チイスウタロカ」
「ちょいとあんさん!ちがはりますよ!!」
えっと蛭なのに鬼の形相で睨まれたので訂正。本当の名はヒルナンダスだ。
「もう!間違えんといてや」
ヒルナンダスはプリプリしながらそっぽを向く。
うん。まあ、これら仲間たちの名前からも滲みだすかの様に、どう考えても本物の鬼には絶対勝てそうもない面子なのだが、それを率いるオレも大概だから何も言うまい。
だってオレ、生まれてこのかた三十八年。育ての親の爺さんと婆さんの脛をかじり続けてきたお陰で、ついに愛想を尽かされて勘当されて、村のみんなからも無駄飯食いの穀潰しの阿呆《以下略》……って言われまくった挙句、村からも追い出されてしまい……。
くっそ!今思い出しても腹が立つ!川から拾って育てたんだったら死ぬまで面倒見ろや!それが仁義ってもんであろうが!こんちくしょう!!
なんでオレがこんな目に遭わなければいけないのか、今もって謎なんだが。なんにしても僅かばかりの路銀《一貫文=三万円》と、せいせいした顔の婆さんが、オレの顔めがけて投げて寄こした甘くないキビ団子のみを当てに長旅なんざできる訳もなく、村への出入り口である木戸を入らさないように塞ぐ若衆どもに向かい「ふざけんな!」と、力いっぱい抗議したが、そんなオレに対してコイツらは無慈悲にもあざ笑ってこう言い捨てやがった。
『死ねばいいのに』と。
「ねえ、オレなんにもしてないのにヒドくない?」
「ホントに生まれてずっと、なんにもして来なかったのが敗因だと思うよ?モモ太郎くん」
「タヌ子の意見はもっともだな」
「ほら、働かざる者喰うべからずとか言いますやろ」
「それについては、お前らだって同じ穴の狢だろ?」
「「「どういうことかな???」」」
「独り立ちしてこの方、自分たちの食扶持もろくすっぽ獲得できず餓死寸前だったお前らより、オレの方が全然マシだわ!」
途端にオレたちはギャアギャア、ギャアギャア。言い争いをはじめる。
『あ~あ~。聞こえますか?そこの社会不適格者のアホ共、大変申し訳ありませんが、すこーし御静かに願えますかね?』
騒ぐオレたちの眼前に、ギラリ月夜に光る刀が慇懃無礼な言葉と共に人数分振り下ろされ突き付けられた。
『あのなアンタ、だったら巷で騒がれている鬼を退治して、しこたま大金でも稼いで、爺さんと婆さんを安心させてやったらどうだなんだ?ああん!』
『それに妖怪のお嬢さんたちも、自分の食扶持くらいは自分で稼がないとお前さんら、妖怪の名が廃っちまうぞ?へへへ♪』
『言うても、鬼退治する以外に生き残る道は無いんだがな!うはははは♪』
『まあ、お前たちの様な腰抜けの脳無し連中には絶対に出来ないだろうけどな!ぎゃはははは!!』
などなど、彼らが的確で誠実な意見を率直に述べてくれたことに、オレたちは感謝する。するしか……なかった。
だってオレたち全員囚われの身なんだもん。だから進んで鬼退治しようなんて気はこれっぽちもないんだもん。
にも拘らずオレたちは、理不尽にもムサイ親父たちによって小舟に乗せられ、あろうことか鬼ヶ島に連れて行かれようとしているのだ。
「なにかがおかしい。オレほどのイケメン知恵者の勇者であれば今頃は、どこかの裕福で可愛い少女に気に入られ、頼みのしないのに左団扇の身分に落ち着いてウハウハの筈なのに。くそっ!アホで使えない娘ばかり抱えさせられてからに、世の中絶対まちがっている!」
「「ちょっ黙れ!!!そこのキモハゲデブ!!!」」
「えっと、言い過ぎだよ。モモ太郎くん」
小舟に揺られ目前に迫った鬼が島を見据え、オレは自分の不幸を呪い深く嘆息した。もちろん、三匹の役立たずな少女妖怪の抗議は断然無視することにしてだ。
『『『『おいコラ!ハゲのモモ太郎おっさん以下のアホ集団』』』』
「てめえコラ!ハゲ言うなや!頭が開拓し放題の新天地状態ですね♪って云え!!」
「「「ハイなんでございましょう御主人様方!!!!」」」
こいつらァー!いきなり主人であるオレを差し置いて服従の態度やつらに示しやがった!
だが今はそれを云うまい。だって小舟を操る船頭様と漕ぎ手の皆様たちが、とっても下賤で愚かな私共に怒声交じりの御声を掛けてくださったので、怖くて今更うちのアホ妖怪どもをどうする事もできやしない。
というか、ものスッゴイ睨まれてる。えーと、皆々様の御尊顔を拝し奉り、いやはやなんとも有り難いことでございます。
そしてオレは引きつった笑みを浮かべながら、荒縄でキツク結ばれた手足をフルに使い見事な土下座を敢行した。
「よく立場が分かっているようで宜しい。ところで頭が新天地」
「いえ、私めは醜いザビエルハゲで御座います」
「あ、そう。ならザビエルハゲ、お前も含めてすっかり忘れているようだから、もう一度いうがな」
少女妖怪たちも一斉は綺麗な正座をして畏まり、貴い船頭様の御言葉に素直に耳を傾け拝聴の姿勢を取った。
「もう帰れないから」
「「「「なんですとぉぉォオオオーーーー!!!!」」」」
驚き慌てるオレたちを、今更かよと、まるで腐って蕩けた生ゴミを見るような目で睨み付けながら、船頭様はこうおっしゃられた。
「あのなココに来るまでに何度も言ったが、もとはと云えばお前らが鬼退治に向かう誇り高い勇者の一団とかウソ吐いて、儂らを騙して村に居付き飲み食い三昧した挙句、バレそうになったら闇に乗じて逃げ出そうとしたからこの始末になったんだろうが、ああん??」
はい。その通りで御座います。新鮮な魚に御飯にお酒、とってもおいしかったです。ありがとうございます!すいません!ごめんなさい!だからおうちに帰して!!!!
ざざっと、きつく縄で縛られた手足を物ともせず、正座したまま深々と丁寧な土下座をかましてみせた。
『ああ、帰すのムリ、解くのもムリ。そんじゃまあ、今から鬼ヶ島に遺棄していくからヨロシクね♪♪』
「「「「ええっ!オレたち、あたしたち、自由になっておうちに帰りたいだけのにぃー!!!!」」」」
『『『『だから帰れないから!!!てか、お前らそもそも家なんかないだろうが!!!じゃ、そういう事でいってら~♪』』』』
いやだァァアアああーーーー!!!!
ざばん!ざばん!ざばん!ドボン!!
ゴババババァ…バア!!!!
アホの子らはともかく、オレは全然悪くないのに何でこんな目に遭ってるんだろう。おかしいよ神様。あの世に行ったら先ず神様の弱みを探って輪廻転生的な手段を使い、今より全然楽で可愛い女の子にすっごい囲まれた、実り豊かな人生を送らせてもらうよう説得するしかないよう。
オレは海に仰向けで揺蕩いながら眼を閉じ手を合わせ、来世への期待に夢はべらせた。
ここまでお読みいただきまして、誠にありがとうございます♪