第七話 これが私の勇者様
ミケに連れられて元いた部屋に戻ってきていた私。
ミケは嬉しそうに姿見を持ってきたりして、私が着替える為の準備を着々と進めている。
嬉しそうに準備している姿は可愛いんだけどねぇ……
そんな事を考えながらミケを見ていると、ある疑問が、ふと頭の中に浮かんだ。
「そういえばさ、なんで私と番いになろうと思ったの?」
「みゃーこ様だからですよ」
そんな事を恥ずかしげもなく即答で返すミケ。
そう言い切って貰えるのは嬉しいけど、聞きたいのは、そう言う事じゃない……
そう思った私は質問を変えて聞き返した。
「いや、そうじゃなくて、私は女だし、ミケも女でしょ?」
「えっ? 人間の方って普通に男女オスメス関係なく猫と番いになってるじゃありませんか」
ミケはそう言うと「何を今更?」と言う表情をして、私の事をキョトンとした顔で見ている。
この娘はまたよくわからない事を言い出した……
そんな事を思いながら、私は顎に手を当ててミケの言葉の真意を考えていたが、その答えはミケの方から話し出してくれた。
「人間の方って、元々は家族でもない猫と一緒に暮らしていますよね?
あれが番いじゃなくてなんだと言うんですか?
もしかして……誘拐……ですか?」
「ゆ、誘拐?!
勿論、番いとして連れて帰ってるんだよ!!
そうだそうだ! うんうん!」
ミケに誘拐扱いされて、慌てて肯定する私。
そうか、猫目線で見るとそう見えるのか……
そんな事を考えていたが、どうやら私はミケの変なスイッチを押してしまったみたいだ。
「私は夢だったのです!
運命の人と出会って番いになる!
そして遂にその時が来ました!
あの時、そう、みゃーこ様が私を連れて帰って番いにしたいと言った時!
この人しかいない! この人が私の勇者様だ!
そう、私の第六感が告げたのです!
あれは運命だったのです!」
まるでミュージカルのようにクルッと回ったり、手を広げて天を仰いだりしてる恋に恋する乙女。
番いにしたいとはいってないけど……
とは言えない。
この天使を前にして、絶対に言ってはいけない。
そう心の中で硬く決意した私だったが、ミケはまだ止まらなかった。
「私はみゃーこ様と出会えて本当に幸せです!
ちょくちょく家を抜け出してあっちに行ってた甲斐がありました!」
そう言うと、ミケは詰め寄って来て目をキラキラさせている。
「良く抜け出してたんだね……」
何という、トラブルメーカーでおてんばな姫様なんだ……
ん? ちょくちょく行ってた?
私が帰ろうとしてもいつでも帰れるってことかな?
なら……帰るのはいつでもいいかな。
私はこの世界の勇者! 使命がある!
そう、心の中で誓を立てていた私だったが……
「さあ、みゃーこ様! 準備ができましたよ!」
ミケが憂鬱になる様な事を言い出した……
急に帰りたくなってきた……
さっきとは違い急にやる気が半減していた私だったが、ミケ前にしてそう言うわけにもいかない。
「ささっ! こちらへどうぞ!」
そうミケに促され、姿見の膝立ちで立ってメイド服を自分の体に当てて見る事にした。
鏡の中にメイド服姿+猫耳姿の自分が写っている。
ダメ!! これはいけません!!
これ恥ずかしくて、直視できない!!
恥ずかしさの限界に達した私は、姿見から顔を背け自分の手に持っているメイド服を眺める。
ロングスカートなのは幸いだけど……
なんだ、この無駄にヒラヒラが付いたエプロンみたいなのは……
こんなもの着れるわけがないじゃん……
何とかして着なくて済む方法はないだろうか……
そう思いつつも、脳裏に先程の鏡の中にいたメイド服姿の自分が浮かんできて……
喜びの様な物がフツフツと湧いてきているのもわかった。
自分に可愛い服は似合わない……
でも、一度は着てみたかった……
今なら着る大義名分がある……
でも恥ずかしい……
そんな考えが頭の中でグルグルと回っていると、ミケの方は待ちきれなくなってしまった様だった。
「脱がすの手伝いましょうか?」
「だ、大丈夫だよ。何たって私!
勇者だからね!」
色んな思いが混ざり合って少し混乱していた私は、よくわからない返事をしてしまったが……
「流石、みゃーこ様ですね!」
何故かミケには好評だった。
ミケにああ言った手前、もう引き返せないか……
いや、勇者になった時点で既に決められた運命……
この試練を乗り越えて私は真の勇者となる!
そして私はメイド服に着替える覚悟を決めた。
着ていたブレザーとブラウス、スカートを脱ぎ、メイド服に袖を通す。
これはメイド服じゃない……
これはメイド服じゃない……
そうだ。これはエプロンだ。
私はパン屋の店員だ。
そう自分に言い聞かせながら、何とか着替え終わった私。
目の前の鏡にはメイド服姿の自分が立っている。
そして、鏡の中の自分をジーっと見つめる。
着てみると……
意外と恥ずかしくない……
いやむしろ……
念願が叶ったせいもあるのか、恥ずかしさより喜びの方が湧き上がってくるのを感じた。
そして心を埋め尽くさんとする喜びの感情。
そうだ! 私はずっと、こういう服を着たかったんだ!
心の中でそう叫んで、ミケの方を向いた。
「私はミケの勇者! もう何も怖いものはないよ!」
「そうです! みゃーこ様は私の勇者様です!」
「さあ、みんなに見せに行こう!」
「民にお披露目ですね! 流石、私のみゃーこ様です!」
二人を止めることのできる人はもういない。
むしろ止めれる物なら止めてみせろ!!
勇者の私が相手になってやる!!
そんな事を思いながら私とミケは部屋の外に出る。
そして、私は……この後の事を……
何も覚えていない……
次は一週間以内に更新します。
2018/01/31 改行位置の修正
2018/02/03 一部にルビ追加
2018/02/27 全面改稿
2018/03/14 消し忘れ修正