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ねこの国の勇者様  作者: かなぎ
プロローグ
7/46

第七話 これが私の勇者様


 ミケに連れられて元いた部屋に戻ってきていた私。

 ミケは嬉しそうに姿見を持ってきたりして、私が着替える為の準備を着々と進めている。


 嬉しそうに準備している姿は可愛いんだけどねぇ……


 そんな事を考えながらミケを見ていると、ある疑問が、ふと頭の中に浮かんだ。


「そういえばさ、なんで私と番いになろうと思ったの?」

「みゃーこ様だからですよ」


 そんな事を恥ずかしげもなく即答で返すミケ。

 そう言い切って貰えるのは嬉しいけど、聞きたいのは、そう言う事じゃない……


 そう思った私は質問を変えて聞き返した。


「いや、そうじゃなくて、私は女だし、ミケも(メス)でしょ?」


「えっ? 人間の方って普通に男女オスメス関係なく猫と(つが)いになってるじゃありませんか」


 ミケはそう言うと「何を今更?」と言う表情をして、私の事をキョトンとした顔で見ている。


 この()はまたよくわからない事を言い出した……

 


 そんな事を思いながら、私は顎に手を当ててミケの言葉の真意を考えていたが、その答えはミケの方から話し出してくれた。


「人間の方って、元々は家族でもない猫と一緒に暮らしていますよね?

 あれが(つが)いじゃなくてなんだと言うんですか?

 もしかして……誘拐……ですか?」


「ゆ、誘拐?!

 勿論、番いとして連れて帰ってるんだよ!!

 そうだそうだ! うんうん!」


 ミケに誘拐扱いされて、慌てて肯定する私。


 そうか、猫目線で見るとそう見えるのか……


 そんな事を考えていたが、どうやら私はミケの変なスイッチを押してしまったみたいだ。


「私は夢だったのです!

 運命の人と出会って番いになる!

 そして遂にその時が来ました!

 あの時、そう、みゃーこ様が私を連れて帰って番いにしたいと言った時!

 この人しかいない! この人が私の勇者様だ!

 そう、私の第六感が告げたのです!

 あれは運命だったのです!」


 まるでミュージカルのようにクルッと回ったり、手を広げて天を仰いだりしてる恋に恋する乙女。


 番いにしたいとはいってないけど……

 とは言えない。

 この天使を前にして、絶対に言ってはいけない。


 そう心の中で硬く決意した私だったが、ミケはまだ止まらなかった。


「私はみゃーこ様と出会えて本当に幸せです!

 ちょくちょく家を抜け出してあっちに行ってた甲斐がありました!」


 そう言うと、ミケは詰め寄って来て目をキラキラさせている。


「良く抜け出してたんだね……」


 何という、トラブルメーカーでおてんばな姫様なんだ……

 ん? ちょくちょく行ってた?


 私が帰ろうとしてもいつでも帰れるってことかな?

 なら……帰るのはいつでもいいかな。

 私はこの世界の勇者! 使命がある!


 そう、心の中で誓を立てていた私だったが……


「さあ、みゃーこ様! 準備ができましたよ!」


 ミケが憂鬱になる様な事を言い出した……

 急に帰りたくなってきた……


 さっきとは違い急にやる気が半減していた私だったが、ミケ前にしてそう言うわけにもいかない。


「ささっ! こちらへどうぞ!」


 そうミケに促され、姿見の膝立ちで立ってメイド服を自分の体に当てて見る事にした。


 鏡の中にメイド服姿+猫耳姿の自分が写っている。


 ダメ!! これはいけません!!

 これ恥ずかしくて、直視できない!!


 恥ずかしさの限界に達した私は、姿見から顔を背け自分の手に持っているメイド服を眺める。


 ロングスカートなのは幸いだけど……

 なんだ、この無駄にヒラヒラが付いたエプロンみたいなのは……

 こんなもの着れるわけがないじゃん……

 何とかして着なくて済む方法はないだろうか……


 そう思いつつも、脳裏に先程の鏡の中にいたメイド服姿の自分が浮かんできて……

 喜びの様な物がフツフツと湧いてきているのもわかった。


 自分に可愛い服は似合わない……

 でも、一度は着てみたかった……

 今なら着る大義名分がある……

 でも恥ずかしい……

 

 そんな考えが頭の中でグルグルと回っていると、ミケの方は待ちきれなくなってしまった様だった。


「脱がすの手伝いましょうか?」


「だ、大丈夫だよ。何たって私!

 勇者だからね!」


 色んな思いが混ざり合って少し混乱していた私は、よくわからない返事をしてしまったが……


「流石、みゃーこ様ですね!」


 何故かミケには好評だった。


 ミケにああ言った手前、もう引き返せないか……

 いや、勇者になった時点で既に決められた運命……

 この試練を乗り越えて私は真の勇者となる!


 そして私はメイド服に着替える覚悟を決めた。


 着ていたブレザーとブラウス、スカートを脱ぎ、メイド服に袖を通す。


 これはメイド服じゃない……

 これはメイド服じゃない……

 そうだ。これはエプロンだ。

 私はパン屋の店員だ。

 

 そう自分に言い聞かせながら、何とか着替え終わった私。


 目の前の鏡にはメイド服姿の自分が立っている。

 そして、鏡の中の自分をジーっと見つめる。


 着てみると……

 意外と恥ずかしくない……

 いやむしろ……


 念願が叶ったせいもあるのか、恥ずかしさより喜びの方が湧き上がってくるのを感じた。


 そして心を埋め尽くさんとする喜びの感情。


 そうだ! 私はずっと、こういう服を着たかったんだ!


 心の中でそう叫んで、ミケの方を向いた。


「私はミケの勇者! もう何も怖いものはないよ!」

「そうです! みゃーこ様は私の勇者様です!」

「さあ、みんなに見せに行こう!」

「民にお披露目ですね! 流石、私のみゃーこ様です!」


 二人を止めることのできる人はもういない。

 むしろ止めれる物なら止めてみせろ!!

 勇者の私が相手になってやる!!


 そんな事を思いながら私とミケは部屋の外に出る。


 そして、私は……この後の事を……

 何も覚えていない……


次は一週間以内に更新します。


2018/01/31 改行位置の修正

2018/02/03 一部にルビ追加

2018/02/27 全面改稿

2018/03/14 消し忘れ修正

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