第六話 勇者の鎧と靴
痛い……
何処が痛いのか感覚が麻痺するぐらい……
痛い……
私の口の中は色々と酷いことになっていた。
私は我慢して食べた。
例え自分の嫌いな物が出てきてもここまでは無いだろうというぐらい我慢した。
そして、我慢しすぎたのか最後には涙を流しながら食べていた。
それを見たミケが、「泣くほど美味しいなんて! 流石私のみゃーこ様です!」とか何とか言っていたのを覚えている。
これはお仕置きが必要ですね!
そう思った私は膝の上のミケを両手でムニムニしたり尻尾の付け根を触ったりしていた。
「あぁっ……みゃーこ様……みんなが見てます……」
とか言った様な気がしたが、聞こえない。
これはお仕置きなので聞こえないのです。
「流石はみゃーこ殿。お見事な勇気でしたな。」
囲炉裏を挟んだ向こう側に座っているお義父さん。
無事(?)、“ご両親との食事会”と言う名の拷問をクリアした私はお義父さんにも勇者として認められたようだ。
「私のみゃーこ様ですからね!
こんなの朝飯前です!」
私にムニナデされてるミケがそんな事を言い出した。
朝飯にもあんな物を出されたらたまらないんですが……
流石に当分熱いものは食べれない……
そう思った私はミケに釘を刺しておくことにした。
「ミケ、当分熱いものは要らないからね!」
「そうですか……」
私が語気を強めたのに対し、ミケは残念そうな顔をして、少しションボリとしている。
そんな顔されても、口の中が火傷だらけで熱い物は当分食べれません……
「貴方……アレを……」
「そうだな、おいアレを持ってきてくれないか」
ミケとそんなやりとりをしていると、お義母さんが何かを催促したようで、お義父さんは隣の部屋の猫たちに何かを取りに行かせた。
そんな光景を見ていた私は、お義父さんと目があった 。
「それでは、戻ってくるまでの間、みゃーこ殿にこの国に来ていただいた理由をお話しするとしましょう」
私は一瞬、何の事だっけ?
直ぐにハッとなって思い出すことができた。
そう言えば、ここには理由があって呼ばれたんだっけ……
ここが猫天国(一部地獄)すぎて忘れてたよ。
そんな事を頭の中で思っているとは露知らず、お義父さんは話を続ける。
「この国には代々伝わる勇者装備がありましてな。
勇者の兜、鎧、靴は手元にあるのですが、剣を盗まれてしまいまして……
それを取り戻してほしいのです。」
あ、以外にまともな依頼だ……
でも、盗んだ犯人が猫だとまずい。
流石に猫は殴れないからなぁ……
「それで犯人は分かっているの?」
「はい。鼠です。」
「ん? 鼠? 猫なのに?」
そう聞き返したが、伏せ目がちに目をそらされてしまった。
お義父さんはなんか震えているようにも見える。
「色々美味しい思いさせてもらってるから、別に良いけどね」
それに、そもそも猫の頼みを断るなんて私には無理ですし。
何たって、私は試練を乗り越えた“勇者”だもの!
「引き受けてくださいますか!」
「はい、わた「あたり前じゃないですか!
私のみゃーこ様は、神をも超える力を持った勇者なんですよ!
断るなんてありえません!
ですよね! みゃーこ様!」
ミケさんは今も平常運転でした。
でも、神越えはいくらなんでも言い過ぎだよ……
まあ、依頼自体は引き受けるつもりだったし良いんだけど……
そう心の中で感上げていた私は、肯定の意味を込めて、私は優しく微笑んで、ミケを撫でた。
そして、その私の行動にミケは安心したのか、私の膝の上で再度丸くなって気持ち良さそうにしている。
うんうん。盲目すぎるのは、たまに怖いけど……
基本的にミケは可愛いんだよね。
そんな事をしていると、“シャッ”っという音と共に障子が開き、大きな葛籠を持った猫が2匹現れる。
どうやら、先程何かを取りに行った猫たちが帰ってきた様だ。
「それは、我ら猫族に伝わる勇者の鎧と靴です。どうぞお使いください。」
私の前に葛籠が置かれるのを見届けたお義父さんが、そう私に言ってきた。
勇者の鎧と靴……?
凄く嫌な予感がするんですが……
兜は猫耳カチューシャだったし……
「あっ……はい……」
そんな気の無い返事をしてしまった私は、右側に置かれた葛籠から開けて見る。
見た目通り、植物のツルか何かを編んでできた大きな葛籠……そして中から出て来たのは……
これは……服かな?
そう思い、手に取って広げて見る私。
袖とスカートの部分は黒色で、白色のヒラヒラがいっぱい付いたエプロンの様な物が付いている。
そして、ひっくり返して裏側を見ると長く黒色尻尾の様な物が……
えっ? これ……もしかして……
猫の尻尾付きメイド服……?
「勇者にしか装備できない鎧!
そう、みゃーこ様専用の鎧ですよ!
絶対によく似合いますよ!」
服の全容を理解し、固まっていた私にミケが凄く嬉しそうな顔をして、そんな事を言い出した。
「いやいやいやいやいや!
流石にメイド服は無理! 無理だから!」
“シャキッ!”
「って!? 着る! 私着るよ!
絶対着る! だからその爪閉まって!!」
私は大きな声を上げて否定していたが、話している最中に、膝の上のミケが爪を出したのが見えて、慌てて肯定に切り替えた私。
ただ、勢いで肯定してしまったとはいえ、そんなにすんなり諦めきれるものでもなく、細やかな抵抗を試みる。
「でも、こんな貴重なものをお借りするのも……
申し訳ないというかなんというか……」
「みゃーこ様、大丈夫ですよ!
それは洗い替えに色違いが何着もありますので!」
「色違い?! 何着も?!」
勇者の鎧の希少価値とは……
しかも、汚して着替え作戦すら通用しないとか……
八方塞がりの状況に追い込まれ、諦めるしか無くなった私はもう一つの葛籠を開けてお茶を濁す事にした。
大丈夫。私はもう全てを諦めてる。
そう、何も期待していない……
そんな自分に言い聞かせる様に心の中で考えながら、もう一つの葛籠を開けた。
そして、出て来たのは、確かに靴だった。
でも、明らかに猫の足の形をしている黒い靴……
うん。これは想定の範囲内……
メイド服に比べたらなんて事ないヤツだ……
これで最も酷い物が出てきたら、危うくお嫁に行けなくなる所だ……
って、ミケと番いになったんだから、私お嫁に行った事になるんだっけ……
いやいや……相手は姫のミケだし、私は婿役かな……
「さぁ! 私の部屋で勇者装備に着替えましょう!
ささ! 行きましょう、みゃーこ様!」
そんな自分の世界に入って現実逃避している私は、ミケに無理矢理現実に引い戻され
更に、裾を引っ張られてミケの部屋まで連行される事になった……
所詮、人間は猫の奴隷みたいなものなんでしょうか……
一週間以内(当日じゃないとは行ってない)
次回も、一週間以内に投稿予定です
2018/01/27 一部誤字修正
2018/01/31 改行位置の修正
2018/02/03 一部にルビ追加、脱字修正
2017/02/27 全面改稿