第五話 勇者の試練
何事もなかったようにみんな元の位置に座っていた。いや一点だけ違う点がある。
それは、ミケが私の膝の上にいる事。
「番いになったのだから当然ですよね!」とか言いながらミケの方から乗ってきた。
猫カフェだと、猫が自ら膝の上に乗ってくると言うシュチュエーションは最終目標であり、餌を使わずに達成した者は周囲から羨望の眼差しで見られるシュチュエーション。
なので、私も満更では無いんだけどね。
「みゃーこ殿、自己紹介がまだでしたな。
私はミケの父親で、この国を収めているレオと申す」
「私は、ミケ母親でメイと申します」
よく考えたらご両親の名前も知らないのにミケと番い(仮)になったのか……
「私は、桜 都子です。レオさん、メイさん、よろしくお願いしますね!」
「あらいやだ。そんな他人みたいな呼び方じゃなく、お義母さんとでも呼んでくださいね」
「おお! それがいい! お義父さんと呼んでくれたまえ」
なんだこの家族……
外堀を埋める気満々じゃないか……
そう考えていたら、内堀を埋めた張本人が膝の上でキラキラした目で私を見ているのに気がついた。
いや、そんな目で見られても流石に無理ですよ?
「あぁ、そんなことより!朝ごはんを一緒に食べるん……痛い! 痛い! 足を引っ掻かないで!」
ミケに引っ掻かれ、話を逸らすのに失敗した。
「あぁ、その子一度言い出したら聞きませんので……」
「言い出した張本人が言うな!
って痛い! 本当に痛いから!
わかった! わかったからやめて!
お義父さん! お義母さん!
ご飯を食べましょう! ご飯を!」
私が半ばヤケクソ気味にそう言うと、ミケは納得したのか血が滲み出した膝をペロペロ舐め出した。
いや、貴方がしたんだからね?
「おぉ、そうだった、そうだった。みゃーこ殿が勇者の力をお見せしてくれるんでしたな!」
え? 何それ? そんな事、一言も言った記憶が無いんだけど?
「え? なんのはな「もちろんですよ! 私のみゃーこ様に不可能などありません! それでは準備してきますね!」
私の話を遮った暴走娘は嵐のように部屋を出て行った。
「…………」
「娘を……ミケをよろしくお願いしますね……」
そう言うとため息を吐くミケのお義母さん。
さっきの番い宣言をすんなり受け入れた理由が完全に理解できたよ……
「これまでのお義父さん、お義母さんの苦労が偲ばれます……」
そして10分後
「どうして……どうしてこんな事に
なってしまったんだろう……」
舞い上がる火の粉……
顔を赤く染め上げる炎……
ぱちぱちと燃える木の音……
小さくため息を吐くたび
ポニーテールが微かに揺れる。
私は目を瞑り……
今までの事を思い出していた。
どこで間違えたの?
そもそも、この悲劇は回避できたの?
自業自得と言われれば
それまでかも知れない。
ただ、そう理解は出来ても
納得は出来ない。
私はこれから自分の身に起こるであろう
“運命”を悲観し、大きくため息を吐いた……
そう、私の前には、煮えたぎった土鍋inおでん が置かれていた。
あの後、10分ぐらいしてミケが戻ってきた。
大きな土鍋を抱えて……
「みゃーこ様、遅くなりました!
さあ!とびきりの物をご用意しましたよ♪」
そう嬉しそうにそう言いながら、囲炉裏に薪を大量投入して「熱々が食べたいとみゃーこ様が仰っていましたので♪」とのたまった小さな悪魔。
ミケのお義父さん、お義母さんも熱い視線を送ってきているし、隣の部屋の猫たちは
「あんな熱いものを……?」とか、終いには「勇者! 勇者!」と意味の分からないコールを送って大騒ぎをしている。
“何とか倶楽部”がやりそうなリアクション芸をリアクションしてはいけない縛りで披露させられる……
なんなのこの拷問……
「さあ、みゃーこ様! どうぞお召し上がりください。」
ミケの勇者発言を否定せずにいたツケが回ってきた……
なら、私は今こそ本物の勇者になろう!
そう、覚悟を決めて箸を伸ばしたのだった。
次回は、一週間以内に投稿予定です
2018/01/31 改行位置の修正
2018/02/03 一部にルビ追加
2018/02/27 全面改稿
2018/03/14 消し忘れ修正