第四話 我輩はメスである
目を覚ますと3度目の低い天井が見えた。
窓から差し込む朝日が目に入って思わず目を細めてしまう。外では雀?がチュンチュンと鳴いているのも聞こえた。
そして、私の腕の中ではミケが気持ちよさそうに寝息を立てている。
至福の朝チュン体験。
そんなミケを見ていると無意識の内に背中を撫でてしまっていた。
寝てるミケも可愛いなぁ……
この顔でご飯3杯はいけるよ!
などと考えていると、反対の手にミケの尻尾が当たっているのに気がついた。
猫は尻尾を触られるのが嫌いなんだったけ……
確か尻尾の付け根あたりが気持ち良さそうにするとか聞いた気がする。
そう思った私は尻尾の付け根あたりを触って見た。
「んっ……アァ……あ……みゃーこ様……」
少しビクッとした後に目を覚ました。どうやら起こしてしまったようだ。
「起こしちゃったかな?
ミケ、おはよう」
「おはようございます……
さ、昨晩はお、お楽しみでしたね……」
照れた顔をしたミケに良く分からない事を言われてしまった。
「可愛いミケと一緒に寝て楽しむなと言う方が難しいからね。」
そう言うと、より一層赤くなったミケ。照れてる表情もやっぱり可愛いなぁ。
「えっ、あっ、その、あっ!
今日は父上、母上に紹介しないと行けませんので!
ちょっと確認してまいりますね!」
顔を真っ赤にしたままのミケはそう言うと部屋から慌てる様に出て行ってしまった。
それを暖かい目で見送った私。
しかし、姫の父上、母上って事は王と王妃だよね。
身だしなみは整えた方がいいかな……
そう考えた私は、中腰で姿見の前まで移動し、制服を正したり、ポニーテールを結い直したりし始めた。
本当はお風呂に入りたいんだけど……
家具を見る感じでは小さくて入れないだろうなぁ……
取り敢えず、顔だけでも洗おうかな?
そう思いながら辺りをキョロキョロすると、持ち手の部分まで、木製の引き戸が目に入った。
そう言えば、お手洗いに手を洗う為の水が甕に貯めてあったっけ……
あれを使おうかな。
再度、中腰で移動しようと腰を上げた時、丁度ミケが戻ってきた。
流石にもう顔は赤くないか……残念。
「父上、母上が一緒に朝ごはんを食べたいそうです。
みゃーこ様がよろしければご案内しますが、どうでしょうか?」
「あぁ、ちょっと待ってね。
今から顔を洗おうと思って……
顔を拭く物ある?」
「か、顔を洗うなんて辞めてください!
大洪水が起こってしまいますよ!!!」
そう言って必死の形相のミケが急いで駆け寄って来た。
私は今までにないミケのその様子に圧倒される。
「えっ? 洪水?」
「そうですよ!
顔を洗う神事は水不足の時に雨を降らせるために行うものなんです!
通常は巫猫100匹ぐらいで行いますが……
でも、勇者のみゃーこ様が行ってしまうと1人でも数ヶ月は雨が続いてしまいますよ!!」
あれって猫の業界では神事だったのか……
しかし……巫猫100匹以上の力を持つ私はミケの中では一体何者なんですかね?
「でも、寝起きの顔で人に会うのは流石に……ね?」
「絶対にダメです!!
毛繕いなら私がして差し上げますから!!」
「…………毛繕い?!」
「も、勿論みゃーこ様がよろしければですが……」
そう言いながらもじもじと恥ずかしそうにしているミケも可愛いが、なんと言う魅力的な提案……
「あ、はい。じゃあ、それで。」
断るなんて勇者が廃るよね。
この後、滅茶苦茶毛繕いされた。
(※顔だけです)
とりあえず意外と綺麗になった事とだけ……言っておきます。
そして、毛繕いが終わった後、私は囲炉裏のある部屋に案内された。
囲炉裏の向こう側には猫が2匹……
ミケの両親かな?
1匹はヒョウ柄の模様が特徴的な猫、ベンガルだったかな。
もう1匹はぺたんと折れた耳が可愛いスコティッシュ。
そして、私の隣にはミケが座っている。
そして問題なのが……
何故か隣の部屋との仕切りが取られていて
隣の部屋に20匹ほどの見たことある猫が集まっていた。
しかも、そのミケの両親を含む、ミケ以外の猫は私の事を値踏みするかの様にジロジロと見てきている。
正直……居心地が悪いんですが……
なんだか娘さんを下さいとか言わされそうな空気……
そんな空気を打ち破るかの様にミケが大きな声で宣言する。
「父上、母上! 私、みゃーこ様と番いになります!」
「「「はい?!」」」
開幕早々、思わぬ方向から発射された爆弾発言に、思わずミケのご両親とハモってしまった。
「みゃーこ様は私の事を連れて帰りたいと言ってくださいました。
可愛いと言いながら一晩中私のことを撫で回してくれて……
さらには……尻尾の付け根まで……
それに、毛繕いもさせてくれて私の事を確かに受け入れてくれたのです!
私たちは相思相愛なのです!」
身に覚えがありすぎて頭痛い……
さて、どうしたものか……
そう考えていたが……
「おぉ、そこまで関係が進んでおるとは……
ミケよ。意思は固いのだな?」
「はい! 父上!」
「相、分かった。
みゃーこ殿、娘をよろしくお願いします。」
ベンガル改めミケの父親とミケのそんなやり取りは
私が意見を言う暇もなく、何故か終わっていた。
なんなのかこの両親は……
ミケの話をすんなり受け入れすぎでしょ……
私が唖然としながらそんな事を考えていると、ミケは嬉しそうに抱きついてきてるし、ミケの母親は嬉し泣きしちゃってしまっている。
それに、隣の部屋の猫は宴会始めそうな勢いだ。
さっさとツッコミ入れないと……
「えっと、言いにくいんだけど……
私、女なんですが……」
「「?」」
あかん、これ伝わってへんやつや。
思わず変な言葉使いになってしまったけど、みんなキョトンとしてる。
何故か、女じゃ伝わらない様だ。
「生物学上、メスなんですよ? 私。」
「「えっ……?」」
隣の部屋の猫も含む多くの視線が私の顔より下…………
胸のあたりに集中した!!!
「胸を見るな! 胸を!!
貧乳で悪かったですね!
これでも少しはあるんです!!!
私はれっきとした女!!
いや、メスなんですよ! メス!!!!」
そう言いながらバンバンと床を叩いて抗議した!
本当に、失礼すぎるでしょ!!
「え……ってっきりオスのゴリラだと……」
どこからとも無くそんな声が聞こえた!!
おう、やんのか!
喧嘩か?! 喧嘩なのか?!
よし! 喧嘩ならいくらでも買ってやんよ!!
「誰がゴリラだ!!
人間だ!! 人間!!
メス!! メス!!!!」
私がそう絶叫すると猫は誰も喋れなくなった。いや、一人例外がいた。
「みゃーこ様! 落ちついてください!! 私は分かってました! 人間のメス、いや女だって知ってましたから!!」
そう言いながらミケが私にしがみ付いてきた。知ってて番いになるって言ってたの?!
それはそれで問題が……
「それにしても!
父上! 母上! それに皆さん!
私のみゃーこ様になんと失礼な事を言うんですか!!
私のみゃーこ様に謝ってください!!」
すでに私はミケのものらしい。
「いや、しかし……」
「謝ってください!」
ミケのあまりの剣幕に少し冷静さを取り戻した私は、ミケを止めようとしたが……
「えっと……ミケさん?」
「みゃーこ様は少し黙っててください!!
ほら! みんな早く謝って!!」
無理でした……
「「「「本当に申し訳ございませんでした!!!」」」」
20匹以上の猫の土下座は圧巻の光景でした。
ミケは私の隣でうんうん頷きながら
「流石、私のみゃーこ様」
とか言っちゃってるが……
流石なのはミケさん、貴方の方です……
何となく、両親がミケの宣言を受け入れた理由がわかった様な気がする……
今後はミケを怒らせない様に気をつけよう。
2018/01/31 改行位置の修正
2018/02/01 一部にルビ追加
2018/02/27 全面改稿