第二話 勇気ある者
お腹のあたりに重みを感じた私はハッと目が覚めた。
目を開けて初めに見えたのはやけに低く見える木の天井。そしてコタツ。なぜか私はコタツの中いた。
私……どれくらい気を失っていたんだろう……
そう思いながら体を起こそうとした時、お腹のあたりで猫が寝ているのに気がついた。
それと同時に、寝起きの様な凄く気だるさを感じた私。
気を失ってたというより……熟睡していたのかな……
そう考えながら、眠い目をこすりその猫をよく見てみる。
ん……? この黒い縞模様は……
さっきのアメショーかな?
それにしても安心しきった感じで熟睡してる……
って寝てたのは私も同じか……
そう自分自身に苦笑いを浮かべ、お腹の上で寝ている猫を撫でてあげる。
「添い寝されてたら起きられないよ」
そんな事を呟き、起きる上がるのを諦めた私は、首だけで周囲を確認した。
床は畳、部屋の中には和風のタンスに本棚、後は姿見が置いてある。その他、見えるのは襖に障子、木の引き戸。
なんだか懐かしい感じのする和室……
でも、なんか全体的に小さい様な……
立って見ないと分からないけど
本棚とか、私の半分ぐらい?
私の身長は160cmと平均より少し高めだけど、それにしても小さすぎる気が……
コタツは普通の大きさなのに……
そう色々考えているうちに寝ぼけた頭が徐々に覚醒してきて、漸く自分の置かれた状況が理解出来てきた。
「って、えっ?! ここ、どこ??」
頭の中がはてなマークで埋め尽くされていた私。
「ふにゃー」
そんな時、私が大きい声を出してしまったからか、胸の上で寝ていた猫が目を覚まし、蹴伸びをし始めた。
もしかしてこの子が知ってるかな?
何となく、そう思った私はその猫を撫でながら優しく話しかけた。
「猫さん、どこに連れてきてくれたの?」
「あぁ、勇者様、おはようございます。
良く眠れましたか?」
一瞬、理解が追いつかなかった。
猫が話してる? 聞き間違い?
むしろ私も猫?
そんな混乱している私と、そんな私を見て困惑している猫。
そしてお互いに目が合い、見つめ合う私と猫。
「あ、あの……大丈夫ですか……?」
数十秒の静寂の後、困惑したままの表情で猫の方から再度話しかけてきた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっつ!!!!
喋ってる?! 猫がしゃべってる!
話できてる!! すごい!! すごい!!
凄い!! 念願! 念願の!
猫との会話!!!!!!!!!!!!」
居ても立っても居られなかった私は、猫を抱きしめ勢いよく立ち上がった。
ガンッッッ!!!
私の頭に激痛が走った。
あぁそう言えば……ここの天井……
低かったんだっけ……
そんな事を考えながら……
私はまた意識を手放した……
今度は、ズキッとする頭の痛みで目が覚めた。
初めに見えたのは、またやけに低い天井。
先程とは違い部屋の中は薄暗くなっている。
ただ、私がいるにはさっきと同じコタツの中だった。
右側に気配を感じ首だけで横を見ると先ほどのアメショーが心配そうな顔でこちらを見ていた。
「気がつきましたか? 勇者様……」
「はい……」
私は先ほどの事もあり、少し恥ずかしくなって、伏せ目がちにそう呟いた。
「びっくりしましたよ?
何もお話にならないと思ったら
いきなり爆発したようにお立ちになられて
また気を失うなんて……」
「そ、それよりさ」
「あ、話を逸らしましたね」っと聞こえた気がしたが、私は聞こえてないふりをして話を続けた。
「ここはどこ? それに、勇者って何?
なんで猫と話ができてるの??」
「ここは猫の国です。申し遅れました。
私はこの国の姫でミケと申します」
そう言いながら、三つ指をついてお辞儀をする猫改めミケ。
1回目に気を失う前に聞いた言葉は気のせいじゃなかったのか……
それにこの国のお姫様……?
流石に寝たままだと失礼かな……
そう思った私は、体を起こしてミケの方に向き直る。
「これはご丁寧に。私は桜 都子と言います」
「みゃーこ様ですね。
この国は今ちょっと困った事になっていて、お力をお借りするためにこちらにきていただいたのですが……」
「名前の発音が違うような気もするけど……
まあいいか。それで困った事って?」
「えっとそれは……」
そう言ったミケは窓の外に目線ををやっていた。窓の外は真っ暗で、部屋の中蝋燭の灯りが壁に当たってゆらゆらと揺れているのが見える。
気を失う前はまだ明るかった様な……
私2回目はどれぐらい気を失ってたんだろう……
まあ、どっちにしろ、夜になったのは私のせいかな……
「あぁ、詳しい話は明日で構わないよ。
なんで話ができるのかは知っておきたいけどね」
頭をぶつけたお陰で冷静になったと言っても、夢だった猫との会話。
理由が知りたくなるのも当然だった。
「それは、勇者の兜のお陰です」
「勇者の……兜……?」
そう聞き返したが、ミケの目線が私の頭の方に行っていることに気がついた。
(あれ? そういえば頭になんか乗っている気が?)
そう思い、頭のあたりを触って見るとふわっとしたものが手に当たった。
「みゃーこ様、それは外さないでくださいね。
話が出来なくなってしまいますので。
では、こちらの姿見でご確認ください」
そう言われて用意された姿見で頭を見てみると私の頭の上には……
カチューシャ…………
いや猫耳が有った。
長身、猫目、無愛想、貧乳。
今は貧乳は関係ないけど、どちらかといえばキリッとしていると言われる部類の顔立ち。
間違っても可愛いと言われる顔ではない。
そんな頭に……猫耳が……のってる……?
自分の顔が一気に熱くなるのがわかった。
「これ大丈夫?!
私の頭にこんなのついてて大丈夫?!
これ放送できる?!
モザイク処理とかできてるの?!」
そう興奮のあまり意味のわからない事を叫びながら、ミケを掴んで前後に揺さぶる。
「みゃーこ様、苦しい! 苦しいです!」
ミケのその言葉に、私ははっと冷静になり
なり手を離した。
「ご、ごめん」
「し、死ぬかと思いました……
でも大丈夫ですよ、みゃーこ様。
偉猫キティ様の様に良くお似合いです。」
偉猫キティって、仕事を選ばない事で有名なあの人(猫)か……
「それ、褒めてる……?」
「まあ、それは置いといて……
その兜は我々猫族に伝わる、勇気ある者。
そう勇者にしか着ける事の出来ない由緒正しい兜なのです。
みゃーこ様なら装備出来ると信じてました!」
そう言いミケは、ドヤ顔をして胸を張った。
「そりゃ、勇気ある者にしか着けれないよねぇ……
恥ずかしくて……」
私の場合は、勝手に着けられていたから勇気とか全く関係ないんだけど……
そう思ったがドヤ顔しているミケが可愛かったので言うのを辞めた。
猫耳は恥ずかしいけど……猫と話が出来るんなら勇者を演じるのも悪く無いかな。
グゥゥゥ
そんな都合のいい事を考えていると、私のお腹から大きな音がなってしまった。
「あぁ、気が利きませんでした。
それでは食事に用意をしてまいりますね。
少々お待ちください。」
そう言い、ミケは2足でスクッと立ち上がり足早に部屋から出て行った。
「やっぱり……立てるんだね……」
そう呟きながら私はその姿を呆然と見送る事しか出来なかった。
2018/01/31 改行の位置を修正
2018/02/27 全面改稿
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2018/03/14 消し忘れ修正