第一話 猫の国からの招待状
「どうして……どうしてこんな事に
なってしまったんだろう……」
舞い上がる火の粉……
顔を赤く染め上げる炎……
ぱちぱちと燃える木の音……
小さくため息を吐くたび
ポニーテールが微かに揺れる。
私は目を瞑り……
今までの事を思い出していた。
どこで間違えたの?
そもそも、この悲劇は回避できたの?
自業自得と言われれば
それまでかも知れない。
ただ、そう理解は出来ても
納得は出来ない。
私はこれから自分の身に起こるであろう
“運命”を悲観し、大きくため息を吐いた……
始まりは1日前の朝
「今日は全国的に快晴に恵まれます。
絶好のお洗濯日和!
夜には東の空に流星群が見えるでしょう。
さて、お天気の次は今世間を騒がせている不倫の……」
私はそこでテレビを消した。
朝から騒がしく話題を伝えているテレビ。
「あのハイテンションが眠気覚ましには丁度いい……
とは言いがたいんだよねぇ……」
そんな独り言を、私以外に誰もいない家の中で呟いてしまう。
母親は既に仕事に出ていて、家の中には私一人……
ボッチな為か、つい独り言が多くなってしまう。
現在の時間は7:20。
今から家を出れば余裕で学校に間に合う時間だ。
「行ってきます」
まあ、返事なんて返ってこないのはわかってるけど……癖みたいな物です。
そして家の外に出ると日課となりつつある門の所にあるポストのチェックをすると
中に入っている封筒取り出した。
そして手に持った物を見て
「はぁ」っとため息をついた。
猫が書かれた可愛い封筒。
表には「都子お姉様へ」とか書いてある。
学校に向かって歩きつつ封を開けて中身を確認する。
「毎日毎日、良くこんな長文が書けるわね……」
今日は便箋3枚分。
差出人は学校の後輩だ。
半年ほど前の剣道部の帰り道。
その後輩が暴漢に襲われてる所を助けた事が始まり。
ただ、別に助けようとして助けたわけではない。
その日、私は母親と喧嘩し朝からイラっとしていた。
そんな中、悲鳴と襲われている人を見たものだから、
相手も確認せず、手に持っていた竹刀で暴漢の脳天に渾身の一撃を浴びせた。
半分八つ当たりの様な行動だった。
「あっ」と思った時には暴漢は既に倒れていた。下手すると過剰防衛だろう。
いや、下手しなくてもそうだったかも知れない。
しかし、その後輩が「怖かった」「お姉様が助けてくれた」と
泣きながら必死に現場にいた野次馬や警察に訴えてくれ、私は事なきを得た。
それから毎日のように続く猛烈なアプローチ。
初めは感謝から始まり
自分が如何に私の事を尊敬しているか
そして愛しているか……
最近は「昨日のお姉様はこんなに素敵でした」と
見られているはずがない出来事まで添えて書かれている。
元々ボッチ気質だったから良かったものの……
下手にクラスメイトと仲良く会話しようものなら何が起こるか考えただけでもゾッとする。
「ってボッチで良いわけ無いじゃん……私」
と自分自身にツッコミを入れ、ため息をつきながら目線を下に落とす。
そうすると、足元で一匹の猫がこちらを見ているのに気がついた。
薄い灰色に独特の縞模様……
アメショーかな?
私はそんな事を思いながら、その猫の目をじっと見つめた。
見つめ合う猫と私……
そんな猫とジッと見つめ合っていると“撫でたい”と言う欲求が湧き上がってくる。
取り敢えず、逃げるかどうかの反応を伺うために、猫に向けて、手を少しだけ伸ばしてみる。
しかし、その猫は私の事をジッと見つめたまま動こうとしなかった。
よし! これは、なでなでタイムだ!!
そう心の中で歓喜しながら、私はゆっくりとしゃがみ
首輪も何もつけていない首の辺りを撫でた。
「可愛いね。どこから来たのかな?
うちに連れて帰りたいなぁ」
私は三度の飯より猫が良いぐらいの猫好き。
ただ、家は一戸建てだがペット不可な賃貸。
必然的に猫は飼えない。
「実家を出たら君を飼ってあげられるんだけどねぇ。本当に残念だよ」
私は少しの間、撫で続けていたが猫は何かを思い出したかの様に一瞬目を見開いて、私から離れてしまった。
あ……もう行っちゃうのか……
もう少し撫でて居たかったのにな……
その猫が歩いて行くのを私は、少し悲しそうな顔をして見送った。
しかし、その猫は5mほど歩いた所で立ち止まり、首だけでこちらを振り返ったかと思うと、またジッと私の事をジッと見つめてくる。
あれ? どうしたのかな?
そんな事を考えながら、見つめ合っている私と一匹の猫。何かを待っている様にも見え、一向に立ち去る気配が無かった。
「もしかして……
ついてきて欲しい……とか?」
そんな自分に都合のいい解釈をして、腕につけている時計を確認した。
7時35分……
ここから歩いて10分ぐらいだから……
少しぐらい寄り道しても余裕だね!
そうであれば私の次の行動は決まったようなものだ。
私は猫について行く為に立ち上がり、猫の方に足を進めた。
すると、猫は私が後を付いてくるのを確認し、満足したかの様にゆっくりと前を向いて歩き始めた。
そして、猫の後を歩き始めて5分ほどの時間が経った。
それまで、猫は私の足音で判断しているのか、振り返る事もなく、目的の場所に向けて歩いて居た。
私もその後を追い、付いて歩いて居たんだけど……
「君ねぇ、ついてきて欲しいんなら、もうちょっと歩きやすい道を通ってくれないかな?」
この猫は「家と家の間」や、「ここって人の家の庭じゃない?! 」という住宅街の道無き道ばかり進んで来ていた。
文句の一つも言いたくなる。
「って勝手についてきたのは私か」
っと言いつつ、フンっと自分自身を鼻で笑う。
そうこう独り言を呟いているうちに猫が歩くのをやめた。
その場所は、住宅街の入り組んだ場所にあり、駅からも遠い為、殆ど利用されることの無い駐車場の一角。
こんな所に駐車場なんてあったんだ……っと言っても車は一台も止まってないけど……
まあ、変わりに猫がいっぱいいるからここはパラダイスだね!
そんな事を考えながら、集まっている猫を見渡した。
先ほどのアメショーにシャム、メイクーン、ロシアンブルー……色んな種類の首輪のない猫が20匹ほど、この場所には集まって居た。
「もしかして、これって猫の集会?!
一回猫の集会に参加してみたかったんだよね!!」
私は興奮気味にそういうと、さっきのアメショーの方に近づこうとするが……
「「「「にゃー!!」」」」
アメショーも含めた周囲の猫たちはまるで私が動くのを制止するかの様に、一斉に鳴き声を上げた。
その鳴き声と、少し異様な光景に驚いて動きを止め固まってしまう私。
もしかして動くなってこと……かな?
そう思い、立ち止まったまま、周囲を見渡してみると
私はいつの間にか20匹の猫に囲まれて居て
私の足元には、私を中心にした水色の円が描かれていた。
あれ?
こんな落書き、来た時あったっけ?
そんな事を考えながら、足元の丸を見ていると、ここに連れてきてくれたアメショーが……
立ち上がった。二足の足で……
私は一瞬何が起きているか分からず、目を見開き、口をあんぐりと開けたまま、思考が停止してしまう。
そんな私が固まっている間も、その猫は私に構いもせず、近くに置いてあった風呂敷の中から水筒と紙切れを取り出して、何かを始めていた。
「立った?! 猫が立った?!」
漸く思考は回復したが混乱はしている私は、そんな某山の少女みたいな事を叫ぶぐらいしかできなかった。
そんな時、私の周りに描かれていた円から強い青い光が溢れ、円全体に広がっていく……
「えっ?! 何?! 何が起こってるの?!」
さらに混乱の度合いを強めた私だったが、溢れ出した青い光が眩しすぎて目を開けることができなくなった。
「にゃにゃにゃ にゃ にゃーーー!!」
突然、猫の声が周囲に響き渡る。
すると、私は重力に反する様な……
体が宙にフワッと浮く様な感覚を感じ……
それに合わせて体の感覚を失い……
どんどん暗く、漆黒になっていく……
それはまるで、突然足元の穴が出来て……
落ちていく様な……感覚……だった……
私が最後に聞こえたのは……
「ねこの国にようこそ♪」
そんな……言葉に……
聞こえた……気が……し……た……
続けて5話まで投稿予定です。
2018/01/31 改行を修正
2018/02/26 全面改稿
2018/03/01 脱字修正
2018/03/09 サブタイトルから章を削除