観光大国シンガポールと私
インドネシアには「ナゴヤ」という町がある。そこを訪れた時の話。その2。
研修の事前オリエンテーションで、シンガポール出国に関して、してはいけないとか、そういった言及はなかった。
それは恐らく、引率の先生がそんな事態を想定してなかったからだと思う。
我ながら、シンガポールで満足できないなんて、なんて贅沢なんだろうと思う。
というのも、シンガポールは、国家規模の割に、観光資源をたくさん持っているからだ。
マーライオンにがっかりしている余裕はない。行くべきところが沢山ある。
例えば、シンガポールの住人は、中華系、マレー系、インド系、アラブ系の子孫から構成される。
それぞれに合わせて、異国人街があり、また、それぞれが立派な観光地になっている。
横浜が四種の中華街を持っているようなものだ。人や街の多様性に応じて、食も多様性に富んでいる。
また他の観光資源としては、日本にはまだ無い賭博場カジノが絶賛営業中だ。
ユニバーサルスタジオをはじめとするアミューズメントパークが幾つかあるし、動物園は東京ほどの大きさの街に3つもある。
街の中心部には豪華絢爛なビル群があり、その高層階で飲む高いマティーニは、
ちょっとした富豪気分を体験させてくれて絶対楽しいだろう。
南国なので、ビーチはあるし、軽いサイクリングが楽しめる小島もあるそうだ。
選り取り見取りなシンガポール。対して、われらの研修内容は、日系企業への訪問が主だった。
駐在員の方々から、海外勤務事情を聞いてまわった。
そして連日、日夜、企業オフィスで過ごし、観光禁欲を続けた我々にとって、
数日しかない自由行動には十分すぎる選択肢が残ったわけだ。
また、20人近くの研修参加者のほとんどにとって、この研修が海外デビューだった。
そんな彼らが、先進国シンガポールから、周りの発展途上国に出て行こうなんて思うわけがない。
引率の先生は、そう思っていたに違いない。
かく言う私も、高校卒業までは北海道から出ることすらあまり無く、海外に関しては完全にド素人だった。
そんな私が海外事情で知っているリアルと言えば、例えばニュースで見聞きして治安の違いとか。
海外を一括りにして、漠然と怖いイメージを持っていた。
しかし、大学入学後に、海外に何度か行くことで、その感覚がちょうど麻痺し始めた頃だった。
どんどん色んな国にいってみたいと思いの方が強くなっていたのだ。
小船に乗れば異国に行ける。日本ではあり得ない手軽さに、心が躍った。
それに比べると、シンガポールでのエンターテイメントは、日本でも出来る事も多く、
貴重な自由行動日の使い道としては勿体ない、なんて思い始めていた。
そんな事を考えていた矢先に見つけたのが、この「ナゴヤ」地区だったのである。