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続・崖っぷち

作者: 灯宮義流

 男の崖っぷち



 俺は今崖っぷちに立たされている。

 荒波が押し寄せる崖に、俺一人と若い女が二人。つまり三人いる。

 二人の殺気を一身に浴びて、俺は今にもチビりそうになっているが、あくまで強気を気取って話を続ける。

「まあまあ、落ち着こうよ。あのカモメのように」

 指差してみたが、空にはカモメがいなかった。気まずい。

「能書きはいいのよ」

「私か、コイツか、どっちを選ぶか早く選びなさい」

 俺は命令されるのが大嫌いなんだ。と冗談を言う隙も無い。というか、そんなこと言ったら崖から突き落とされて殺されてしまう。

 こうなったら、俺は女を選ぶしかないのか。

 思えば、右で俺のことを虎のような形相で睨んでいるのが美々みみこ。年は二十四歳で、美人というより可愛いタイプの女だ。

 だが、今のコイツからはまるで可愛さを感じない。今のコイツはさっきもいったように、虎だ。

 か細いはずの腕が、今は虎のような、やたら屈強な腕に見える。あの腕で俺を持ち上げて、崖に投げ落とすのだろう。

 さらに、後ろに控えさせている巨大な岩をドカドカドカドカ海にぶち込んで、俺が二度と浮かんでこないように追い討ちしてきそうだ。

 海の一部にされるのか、俺は。

「勿論ワタシよね?」

 と言いながら迫ってくる美々子の手には、俺の部屋にあるダンベルが不釣合いに収まっていた。なるほど、まずはそれで俺を殴り倒そうというらしい。

 うん。やはり、俺にはコイツしかない! 虎、恐るべし。

「何言ってるの。私しかあり得ないに決まってる。ねえ?」

 と睨んでくるのが、夫を持つ二十七歳の浮気者、鈴子りんこだ。

 どこからどう見ても美人という類の大人びた奴で、だからこそこんな大人の恋愛を続けてきたのかもしれない。

 ある時、鈴子の夫の写真を興味本位で見せてもらったが、これがまたとんでもなく冴えない童顔男だった。

 彼女曰く「それが良い」とのことだが、すぐに飽きたからこうして浮気してるんだとか。

 何はともあれ、夫を尻に強いてそうな彼女のことだ。きっと俺のことを崖から蹴り落とすつもりだ。

 おまけに彼女の背後には、どこから手に入れてきたのか、ニトロ爆弾がたくさん控えていた。

 あんなものぶち込まれたら、もはや俺は骨すら残らないかもしれない。

 海岸の砂と同化する羽目になるのか、俺は。

「どうなの?」

 海岸と同化するのもゴメンだ。俺には鈴子しかないのか。

「はあ? オバサンが何言ってるのよ?」

「オバサン? 小娘が大人の女に嫉妬したいのはわかるけど、それはちょっと僻みすぎじゃない?」

「……」

「……」

 キッ! と、また二人の視線が俺に向いた。

「さあっ!」

「さあっ!」

「うう、うわああああああああああああ!」

 絶叫した俺は、気づいたら昔習っていた柔道で二人を崖に投げ落としていた。

 断末魔がしばらく俺の耳にこびり付いていたが、ブシャッという音とともに、それは途切れた。

「はあはあ。これが一番幸せな判断だよね」

 俺は、女とのイザコザの始末を終えて、家に帰ろうとした。

 目の前には、真っ赤な目でウルウル泣いている妻がいた。

 俺と同い年の二十五歳の静子せいこは、フライパンをもちながら佇んでいた。

 昔からおっとりしていた彼女は、いつも俺のことを困らせていた。

 だけど、それがどうしようもなく可愛くて、俺はずっと彼女のことを愛していたのだ。

 にも関わらず他の女にも手を出していたのは仕方ない。親の血だ。

 妻から殺気は感じられない。ただ、ヤケっぱち臭い感じをすごい感じた。

「あなたの、バカーーッ!」

 フライパンを振りかざしながら、俺に向かって突撃してきた静子を、俺は身を軽く移動させて避けた。

 その勢いで突っ込んでいった静子は、「あっ」と間の抜けた声を出すと、緊張感の無い悲鳴をあげて、弾けた。

「静子ーーーーーーーーーーーっ!」

 ああ、やっぱり俺は妻を愛していたんだ。なんでこんなことになってしまったんだろう。

 ドジで間抜けでバカで、何やらせても駄目だったけど、頑固で意思が強くて、俺のことを愛してくれていたのに。

 俺は、静子以上の大バカヤローだ。チクショウ、チクショウ!

「……」

「おとーさん?」

 後ろから女の子の声がした。

 振り返ったら、そこには自分の娘がいた。

 娘は、涙する俺の顔を見て首を傾げたあと、俺によちよちとおぼつかない足取りで近づいてきた。

「……喜子きこ

 ドンッ。

 俺は、突然しかめっ面の娘に突き飛ばされた。

 ひぇっ? という素っ頓狂な声をあげる俺に、娘は鼻を摘んでこう言った。

「おとーさん、お口くさーーーい!」




 崖っぷちの会社


 うちの会社は、崖っぷちにある。

 業績はすごいし、社員の連帯感もすごいし、上司も良い人ばっかりだし、言うことのない会社環境。

 だけど何故かうちの会社は、危ないことか崖っぷちにあった。

 どうしてかと社長に聞くと「常に背水の陣の思いで会社を運営したいから」だそうだ。

 よく理由はわからないが、とりあえずこの場所は危ない。

 今まで、休憩時間に何人もの社員が釣りをしては、オオクジラを釣り上げようとして、海に引きずり込まれている。

 しかし社長は頑固なので、ここから動こうとしない。

 もし地震があったりしたら、どうするつもりなのだろうか。耐震強度は一級でも、崖が保てるかはわからないのだ。

 ため息をついていると、新入社員の米田よねだが大慌てでやってきた。

「大変です。ライバル会社のムゲンプチ会社が、崖を木槌でぶっ壊そうとしています!」

 何? それは一大事だ!

 社長にそのことはいち早く伝えられた。そして、社長は車内放送で社員達に命令した。

「総員、直ちに敵会社を迎え撃て! 火器の使用を許可する!」

 俺達は、会社のデスクの下にある武器を抱えて、社屋から飛び出していった。


 あれから三年、戦争はいよいよ膠着状態に移ったところで、戦況に変化が起きた。

 我々の会社だけが、警察にそろって逮捕されたのだ。




 崖っぷちにある椅子


「なあ、あれ見てみろよ」

「うん?」

 僕が友人の吉村よしむらに言われて見てみたら、崖っぷちに椅子が置かれていた。

 どうしてあんなところに椅子が置かれているのか、サッパリわからない。

 疑問に思っていると、好奇心旺盛な吉村が、僕に無茶を押し付けてた。

「あれに座れよ、お前」

「えー」

「ちゃんと十秒間座れたら、お前に一億円やるよ」

「マジで!」

 僕は食いついた。

 所持金が今わずか二十七円しかない俺には、とても嬉しい話だ。

 でも、それで命を失ったら元も子もない。

 それに僕は高所恐怖症なのだ。その場が高いという認識をしただけで、脳みその血が全部爪先に集約してしまうくらいに血の気が引いてしまう。

 そう考えると迂闊には出来ない。どうしたものだろうか。

「おい、あれ見ろよ」

 そういわれてまた崖っぷちを見ると、ジイサンが椅子に座っていた。

 何のために座っているかは、未確認生命体の是非並に謎であるが、とりあえずジイサンは座っていた。

 そして、三十秒くらい座ったところで、「よっこいしょ」と立ち上がって、どこかへ行ってしまった。

「ほら、大丈夫だろ。行って見ろよ」

「仕方ないなあ」

 僕は、嫌々椅子に座ることにした。

 案外座ってみると、波の音が心地よく聞こえる。ザッパーンという音がやけに良い感じに聞こえるのだ。

 そうこうしているうちに二十秒が経った。感慨に浸りながら、僕は椅子から立ち上がった。

「ほら、これで良いだろう。一億円くれよ」

「……」

 友人は、突然足場をゴスゴスと踏み始めた。まさかコイツ、殺す気か僕を。

「待て、おーーーーーいっ!」

 ペキンッ。

 崖っぷちは崩れて、僕は椅子と一緒に崖の下へと落下した。

 ああ、金銭欲に目がくらんで、取り返しのつかないことになってしまった。

 きっとアイツも、取り返しのつかないことをしてしまったと思っているだろう。

 だがもう遅い、遅いのだ……。


「はあはあ。危うくオレオレ詐欺で稼いできた俺の一億が奪われるところだったぜ。お遊びで変な賭けをするのは良くないな」

 チョンチョン。

 吉村は肩を叩かれて、ひいっ! と呻いた。

 もしかして、アイツが生きていたのか? それとも幽霊?

 ビクビクしながら、彼は後ろを振り返った。

「一億円、クレ」

 そこには、さっき椅子に座っていた老人が立っていた。


結局、わけわかめになってしまいましたね。

ライス先生に触発されたというか、調子に乗りすぎて書いたようになってしまった。反省。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「崖っぷち」シリーズっていいですね。発想の訓練になる。とりあえず、煮詰まってきたら、崖っぷちを書いてみます。
[一言]  はじめまして。コメント好きの佐藤ともうします。  内容、面白かったです。『灯宮』というPNが印象的で、ナンカ伝説のシリーズっぽいので、「コメディ書く人は読んでおくようにー」と、学校の課題に…
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