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トライ・ステップ! -this story is game fantasy-  作者: 豚煮真珠
QUEST6. 絶望と希望の玉手箱
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望まぬスローライフ

 青海の幼王を討伐し、一月ほどが経過した。

 暑い時期がそろそろ終わる。日が暮れる時が些か早くなり、砂浜は島に訪れた当初と比べ、目に見えて寂しい。そんな足跡も(まば)らな浜を、あなたが窓越しに眺めていた。

 あなたは、右脚を()った状態でこの一月ほど寝ていた。幼王に右脚を潰されたあなただが、直ちに街の病院に運ばれて医者が脚を洗浄、それから傷を縫合したことで何とか事なきを得ていた。

 切断などにならなくてあなたはほっとした。ただし、右脚の骨が折れており、これが治るまであなたは入院、医者から安静を命じられていた。


 よって、やることがないあなたが、枕に頭を(うず)めて天井を仰ぐ。

 入院生活は退屈だった。ギプスで固定した吊られる右脚を見て、早い退院をあなたが願う。

 それにしても幼王、よくも三人で倒した。敵は幼くともドラゴンだ。特に右脚を潰されたのを知ってから幼王が剥いた牙を臨んだとき、あなたは死を覚悟した。

 あの時、幼王が先に力尽きてなければ体を裂かれていただろう。まさに紙一重で、つくづく運が良かった、などとあなたが戦いを振り返っていると、

「アンター。お薬の時間だぞー」

 ジュリアとワラビがあなたの元へ訪れた。

 二人だが、あの戦いでは軽傷で済んだ。あなたの剣と鎧を含めた武具の錆落としが中々に大変だったそうだ。

 この一月ほど二人は、毎朝あなたの見舞いに来てから海に行っている。もう水泳は飽きたようで、ここ暫くは塰に混じって海に潜り、あなたは二人から海の底での出来事や、獲った貝や魚の話を聞かされて羨ましく思っていた。

 おかげでワラビはこんがりと焼けてしまった。対してジュリアは日焼けに強いようであまり変わっていなかった。


「はいキミ、今日の新聞」


 ワラビがあなたに新聞を手渡した。

 この新聞は日刊で、名を「ラルンダ」と言い、これの購読をあなたは毎日楽しみにしていた。と言うより、入院生活を送る今のあなたには、新聞を読むくらいしか娯楽がなかった。

 二人が行ったらさっそく読むか、などとあなたが新聞を枕元に置く。その間にジュリアが、あなたの右腿に両手を置き、

「隔てなく銀の腕を造ろう。――“霊癒(レイシオ)”」

 日課の治癒魔法を唱えた。本来なら患部である(すね)に直接唱えて欲しいところだが、それはギプスで固められている為にできなかった。


「アンタ、もうそろそろ退院できそうなんだよな?」


 ジュリアの問いにあなたが頷き、

「絶対におかしいよね。ふつう足の骨を折ると治るまで長いって聞くじゃん? 第一あんなの喰らって骨折程度で済んでるし、キミって絶対ニンゲンじゃないよね」

 ヒトじゃない、とワラビにからかわれ、あなたがワラビには言われたくない、などと不満を抱く。

 あなたの治療経過だが、医者はあなたの回復の早さに驚いていた。通常、脚の骨を折ったなら早くても三ヶ月くらいは完治まで必要で、骨の癒合でも一月半は要る。それが医者の見立てでは、もう骨がくっついているらしい。

 ジュリアの霊癒(レイシオ)があるにせよ、あなたの丈夫さに医者は目を見張っていた。そんな訳であなたの退院はもう直ぐである。しばらくは(まつ)()(づえ)の世話になるが。


「じゃ、今日も海に行ってくるよ。また明日な」

「“オトヒメ”様にもし逢えたら、玉手箱をキミにあげるね、ふふっ」

「ワラビ、なんだそのオトヒメ様って」

「ウチの方にね……」


 二人が病室を後にした。

 あなたが新聞を手に取る。あなたの入院費だが、これはただであり、また、ワラビとジュリアも無料で、この島のヒトが経営するそこそこ高級なホテルに寝泊りしていた。

 あなたたちが(ただ)で滞在できる理由。これは、あなたたちがドラゴンを見つけ、そして倒したからだ。もしあなたたちがドラゴンを倒していなかったら、この島を取り巻く岩礁地帯全域が棲み処とされ、町など瞬く間に全滅、よくても荒廃しただろう。

 あなたたちは滅びの芽を摘んだ上、島を襲っていた不況の原因も除いたのだ。ついでにムルアヅルも倒して干潟も活用できるようになり、島の人々はあなたたちに感謝した。よってあなたが退院するまでは滞在費を請け負ってくれた。

 ちなみに、ムルアヅルが潜んでいた干潟だが、あそこには入り江に繋がる洞窟の他にも穴があるらしい。幾つも穴があり、その内のどれかが海底へ向かうのではないか、とあなたは医者から聞いていた。


 また、指輪は結局見つからなかった。あなたは病院に運ばれた為に行かなかったが、あの戦いのあとワラビとジュリアは、セルマを連れ出した事と指輪を見つけられなかった事を謝りに行った。

 しかしセルマの母親、名を「メイサ」というのだが、メイサは娘の態度から勘付いていた。よって指輪を失くした事に関しては不問とし、それよりも娘が指輪の紛失を隠していた事が許せず、セルマはあの後、こっ酷く叱られたそうだ。

 尻を何度も何度も叩かれたらしい。そしてワラビとジュリアは、逆に指輪捜索に付き合った礼を言われ、この一月のあいだ毎日ニライカナイでただ飯を食らっている。

 もっともそのただ飯も、二人が自分で獲った貝や魚ではあるのだが。メイサは二人を気に入り、自らの漁に連れ可愛がっていた。

 二人とセルマの関係だが、メイサの仲介あって多少は和解した。だが、懸命にラブコールしているが避けられている、とジュリアはぼやいていた。


 そしてドラゴンだが、あなたたちはドラゴンを退治した。

 前述しているが、ドラゴンを退治した戦士には札が戦士会から配られる。これはドラゴンが幼かろうが関係なく、あなたたちは戦士会の者の確認次第、ドラゴンスレイヤーの称号を受けるはずだった。

 ドラゴンを倒した日の未明、地震がこの島を襲った。揺れはそう強くなかったが、間もなくして起こった津波がドラゴンの死骸を(さら)っていってしまった。

 入り江という地形、狭まっている所為で波が高くなる。こうしてあなたたちはドラゴンを倒したのだが、ドラゴンスレイヤーの称号はお預けとなってしまった。


 ***


 退院の日。松葉杖を突くあなたが病院を発った。

 このまま出発する。セルマにメイサ、医者に島の人々と沢山のヒト達に見送られ、あなたたちはマリーナ・デル・リーチを後にした。

 ワラビとジュリアだが、二人は履物を新調していた。ワラビはヤスリにも使われることがあるサメの革を使った足袋(たび)を履き、ジュリアはムルアヅルの皮をなめして造られた涅色の軽くておしゃれな靴を履いていた。

 あなたは靴を新調していない。だが二人は新調した。これについてあなたが問い詰めたが、二人は苦笑を浮かべただけだった。


 次の目的地はまずカンガス・デオニズまで戻り、あなたが楽しみにしている機関車に乗る。それから北上、「ハレーシャン」という街を経た後、東に進路を変えて世界最大の商都「エイダラート」へ向かう。

 三角江に位置するエイダラートは、昼夜問わず貿易船が引き切りなしに訪れ、国際的に名の知られた企業が(いらか)を争うように拠を構える、世界の中心地である。

 金融、情報、芸術など、エイダラートという都市はあらゆる分野で世界をリードする。なお王都のレヴァルツィアだが、ここへ行く気はなかった。ハレーシャンを更に北上、スネークロードと呼ばれるノースウォールの間を蛇行するような(あい)()を進めば着くが、ワラビが「寒い所はイヤ」と嫌がった。

 ちなみにレヴァルツィアは、あくまで首都であって最大都市ではない。レヴァルツィアは極寒の内陸地に位置する。対するエイダラートは外洋に面し、一年を通して温暖な気候の恵まれた地に位置する。エイダラートにヒトが集まるのは必然であろう。


 まずはハレーシャン。あなたは医者からハレーシャンに着いたら、友人がいるのでまず脚を診てもらえ、と言われていた。

 それにしても、あのテオと言う少年。あなたが入院している一月の間、一度も顔を見せなかった。

 たまにセルマが入院中のあなたの元に訪れ、「テオさんはいませんか」と訊いては気を落としていた。仲間に入れてくれとか、弟子にしてくれとか。あれは全て嘘だったのか、などとあなたが思っていると、

「おーい師匠! ワラビさん、ジュリアさーん!」

 そのテオが、ものすごく黒くなってあなたたちの前に現れた。


「はあ、はあ……。よかった、間に合ったぜ」


 息を切らすテオ。彼はこの一月の間、何をしていたのだろうか。

 体が幾分か逞しくなっている。この一ヶ月何をしていたのか。あなたが尋ねると、

「いやあ、少しまとまった金が欲しくてさ、師匠が入院している間、漁師のおっちゃんらに掛け合って船に乗せてもらったんだ。どうオレ? カッコよくね? この身一つで漁師の戦場たる船に飛び込むなんてよ。毎日が生きるか死ぬか瀬戸際、サメと格闘したりしてさ……」

 したり顔で語る彼。どうやら彼はこの一月の間、遠くへ漁に出かけていたらしい。

 自己アピールうっとうしい。そう言わんばかりにワラビとジュリアが、テオを無視して先に歩き始める。


「ちょ、しばらく暫く! 頼むみんな! お礼は着いたらたくさんするからさ、オレをレヴァルツィアまで連れてってくれよ!」


 テオが二人の前に回り込み、あなたたちに土下座までして王都へ連れて行ってくれと頼んだ。


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