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トライ・ステップ! -this story is game fantasy-  作者: 豚煮真珠
QUEST6. 絶望と希望の玉手箱
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dragon slayer

 ドラゴンの炎をあなたが防いでから暫くが経過し、幼王の、長き胴体から滴る血が海を僅かに染めていた。

 幼王の首や胴体には幾つもの矢が打ち込まれている。これらは全てジュリアが撃った物であり、ジュリアはあれからも隙を見つけては弩の引金を引き、幼王に傷を付けていた。

 今のところドラゴン相手に大健闘だ。あなたたちは一人として大して傷付いておらず、幼王ばかりが傷付いている。

 しかしジュリアの矢は尽きてしまった。二十本近く刺さっているが倒れず、あとは剣か刀で、幼王を斬るしかない。


「やあぁっ!」


 口を開ける幼王の牙をかわしたワラビが、長刀を振り払った。

 切っ先が幼王の上顎を捉える。ジュリアの矢と並行してあなたとワラビは、先程からこのような調子で隙あらば斬り付けているが、あなたとワラビの斬撃は並の生物ならまだしも幼王にとってはかすり傷のような物で、決定打は与えられていなかった。

 幼王はジュリアの聖母錯乱(シギュン)を始めとした矢により、明らかに弱っている。したがっていずれはチャンスが巡るだろうが、今の調子ではいつになることか。

 長期戦は望ましくない。幼王の攻撃をかわしているあなたたちだが、喰らえば即致命傷に成り得る攻撃を、あなたたちは重圧に耐えてかわしているのだ。


「キミ。あのドラゴン、また地面を叩いてくれないかな」


 聞こえるようにと、あなたの左肩に背をくっつけたワラビが刀を構えながら言った。

 叩いてくれないかなとは、開戦直後の柱の如く落ちた胴体による攻撃を指すのだろう。このように言う事は、叩くように仕向けてくれ、とあなたに希望を出しているのだ。

 何か考えがあるようだ。誘い出すべく、あなたがまずは踏み込み、幼王の前に進み出る。


 だが、そう思惑通りにはならなかった。幼王があなたに向かって首を伸ばす。

 そして牙を剥く。喰らえば一撃で体が裂けそうな噛み付きを、あなたが横に跳んでかわす。

 跳んだ時にあなたが気付いた。今の噛み付きは開戦直後と同様であったことを。あのときの流れを()むならば、三人が固まれば敵は胴体を反らせるのでは、などとあなたは思い付いた。

 この思い付きをあなたがワラビに知らせ、後ろに立つジュリアの元まで走る。すると狙い通り、幼王が胴体を縦に仰け反らせ、これを見たワラビが手を組み指を立て、急いで呪文を唱え始める。


――“漏斗(じょうご)の底に眠る、楽園を追われし()ちた王”

  “衆生に芽生えし愛の(つぼみ)、枯らさぬ為にも神に()まほし者がいる”

  “欺く罪は償おう。鮮烈なる(おもかげ)こそ導く光、(つい)は始まりとならん”

  “()(せき)(しるべ)は禁断の接吻(せっぷん)”――


 (むち)の如くしならせた白き胴体を、幼王が地に叩き付けた。

 再び地面が揺れ、水辺では白き飛沫が高く打ち上がる。この胴体をあなたたちが避け、

「聖骸よ、再来を持して凍れる(ひつぎ)に眠れ! ――“氷獄葬(コキュートス)”!」

 突如として地吹雪が、地に突っ伏す幼王の頭を覆い隠すように吹き荒れた。ワラビが最も得意とする氷結魔法で、前方を急激に凍らせる魔法・氷獄葬(コキュートス)を唱えた。


「どうだドラゴン、参ったか!」


 のたうつ胴体。それに反して動けぬ幼王の頭を、臨んだワラビが珍しく()えた。

 策が見事に()まった。海水に皮膚の水気、それら幼王の頭部を覆う液体が全て凍りついている。

 さらに、氷が地面の岩に張り付いている。これを剥がそうと幼王がもがいているが、大樹の根の如くへばり付いた氷が、幼王の顎と頬を決して放さない。

 幼王をワラビが封じた。血を失いふらつくワラビが、

「キミ! 後はお願い!」

 あなたに(とど)めを頼む。


――“過ぎし報復の衣を再び纏おう”

  “神が与え(たも)うた、楽園(ヴァルハラ)へと臨む道。我、累々と重なる死こそ求めたり”

  “沸き立つ血潮こそ最期の調べ。いざ()えよ、(おおかみ)の一族よ”――


「――“神通力(ウルブヘジン)”! いけアンタ!」


 流石(さすが)は親友。ワラビが幼王を封じ込めたと同時、ジュリアがあなたに神通力(ウルブヘジン)を唱えた。

 神通力(ウルブヘジン)は、対象の筋肉を一時的に強化する魔法だ。また興奮作用も含まれており、あなたが充実した体の(みなぎ)りを覚える。

 戦いの終わりが見えたあなたが、盾を放って剣を両手で握る。

 断つは唯一凍りついておらず、今も刃物のように光る銀色の眼球。幼王の鋭く切れ込んだ左眼を、あなたが渾身(こんしん)の力で奥深くまで貫いた。


「わぁっ!」


 ワラビが身を強張らせる。身の毛がよだつような甲高い叫びを幼王が上げた。

 水銀に似た液体が、眼から破裂したように飛び散ったが倒れない。ならば、などとあなたが力強く剣を引き抜き、続いて幼王の右眼に迫った。

 回り込むあなた。しかし、ここで幼王に張り付く氷が、激しい音を立てて割れる。

 幼王が頭を無理やり地面から引き剥がした。そして頭を振り、これを喰らってあなたが倒される。


 すかさず立ち上がったあなただが、幼王は既に首を退()いていた。

 あなたが幼王を臨む。皮膚がずる剥け、左眼を失い、(おびただ)しき血を垂れ流し。まるで生ける死者こと「ゾンビ」の形容が、今の幼王を(たと)えるには相応しい。

 逆襲が始まる。幼王が残る右眼であなたたちを強く(にら)み、鼻孔から黒い煙を放つ。


「えっ、見えない!」

「お、おい! ワラビ! アンタ!」


 戸惑う二人。煙があなたたちを瞬く間に覆い尽くす。

 黒煙がたちまち入り江に充満し、あなたたちは視界を奪われた。そこへ、幼王が胴体を横に反らせ、しなる枝を離すが如く体を煙の中へ滑り込ませる。

 避ける(すべ)はない。煙で確認できないからだ。(さら)われるようにあなたたちが、

「あうっ!」

「うわぁぁっ!」

 横殴りの巨大な体当たりを喰らう。


 あなたは薙ぎ倒され、軽い装備のワラビとジュリアは、馬車に()ねられたが如く吹っ飛び、地面に叩きつけられた。

 誰もが痛みで立ち上がれない。しかし、この程度では幼王の怒りは収まらず、煙が晴れるや否や、幼王は既に体を縦に仰け反らせており、

「キミ!」

「アンタ!」

 顔を上げた二人が叫ぶ。柱が落ちるが如き胴体の叩きつけを、あなたが喰らった。

 幼王の皮膚は柔らかく、また仰向けでいた為に致命傷は免れた。だが、巨大な鞭で打たれたような衝撃があなたを襲う。

 四つん這いから立ち上がった二人が、痛みを堪えてあなたに駆け寄る。しかし、それを待っていたとばかりに幼王が、あなたたちに向けて口を開けた。


「ま、まずいぞ……」


 ジュリアが言ったとおり非常にまずい状況だ。あなたたちを見下ろす片目の幼王が、大きく息を吸い込んでいる。

 炎を吐く。これを浴びればたちまちに全身が燃え、あなたたちは黒焦げと化すだろう。

 海への距離も遠い。ましてあなたは全身を打たれ、立つことも(まま)ならない。

 まさに絶体絶命。間もなくして幼王の口が赤く輝き、怒れる炎があなたたちに放たれた。


 しかしあなたが上体を起こし、天乃衛士(シコノミタテ)を唱えた。

 かろうじて間に合った。右回りに散る炎。その眼前に座るあなたが目を(すが)めながら安堵する。

 そして炎を防ぎ切り、あなたが力を振り絞って立ち上がろうとする。しかし、右脚が動かない。

 そもそも感覚がなかった。これにあなたが右脚に目を向けると、先の叩きつけは右脚を強く打っていたようで、――右脚が潰れていた。


「ワラビ、このヒトを連れてけ! あたしがアイツを引き付ける!」

「うん! キミ、私に捕まって!」


 ジュリアがワラビにあなたを運ぶよう言い渡し、幼王の目を逸らすべく前へと駆けた。

 囮となるべく、痛みに堪えながら走るジュリア。だが、

「おい! こっちだ、こっちを狙いやがれ!」

 幼王は見向きもしなかった。落ちている石を投げてでも注意を引こうとするジュリアだが、そんなジュリアに構わず幼王は、銀色に光る右眼であなただけを見ていた。

 そしてあなたに向かって首を伸ばす幼王。左眼を潰したあなたがどうしても許せないようだ。

 口を開け、牙を剥いた。あなたが、肩を貸すワラビを突き飛ばし、我が身を切り裂く幼王の牙に身構えると、

「……えっ!?」

 倒れたワラビが驚き、尻をつくあなたも驚いた。大きく口を開ける幼王が、あなたの一歩手前で力なく沈んだ。


「アンタ! ……どうしたんだコイツ、急に一体」


 駆けつけたジュリアが、地に突っ伏す幼王を前に言った。

 力尽きたのだろう。流血が著しく、真っ赤な体液が直ぐに池を作った。

 ただし、眼だけは諦めていない。ギラギラと光る銀色の右眼が、息を荒げながらもあなたを鋭い眼つきで睨んでいる。

 凄まじい殺気にあなたが気圧(けお)されるが、ワラビが立ち上がり、

「とどめだぁっ!」

 長刀で右眼を貫く。

 こうして、幼王が(もだ)えた後、遂に息絶えた。


 戦いを制した。しかも相手はドラゴン、大勝利だ。

 充実感で満たされる。と、同時に疲労感が襲う。気を抜いたあなたが仰向けに倒れこみ、そのまま疲れに誘われる形で目をつむった。

 暗がりの視界。――師匠。そんな声が微かに聞こえたが、あなたを起こすには至らない。


「師匠! ワラビさん、ジュリアさん!」

「あんたら! 無事かい!?」


 意識が途絶えたあなたの外で、呼ぶ声に二人が振り返れば、テオとセルマの母親である塰の女性が駆け付けた。

 続いて洞窟からわらわらと、島の人々が各々武器を携えて入り江に現れる。大所帯だ。ざっと見積もっても三十は下らないだろう。

 呼びに行ったにしては随分と早い。どうやらテオとセルマが呼ぶ以前に、島の人々は幼王の宙に向かって吹いた炎を見たからか、既に用意していたようである。


「こ、これ、ドラゴンじゃ……」

「おい、まさかあんたら、たった三人でこれを倒しちまったのかい?」


 島の人々が、横たわる幼王の死骸に恐れ入る。しかし、

「バカ! 驚くのは後だよ! このヒト大怪我(けが)してる! 早く病院に運ばないと!」

 塰の女性が皆を制し、右脚を潰されたあなたの怪我を呼びかけた。

 間もなくして担架が運ばれ、あなたがこれに乗せられる。運ばれる間二人とテオはあなたの無事を祈っていた。


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