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トライ・ステップ! -this story is game fantasy-  作者: 豚煮真珠
QUEST6. 絶望と希望の玉手箱
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潜行

 洞窟内を探したあなたたちだが、指輪は見つからなかった。

 岩と岩の隙間。大小問わず石の下。松明をかざして隈なく探したが、むなしく徒労に終わっていた。

 時おりモンスターに遭遇した。デモンズハートや、ユーダリールで資金稼ぎ中に狩ったデビルスターの他、傍目には岩にしか見えない大型のフジツボ「ガンモドキ」に、その姿が何故か修道士に見間違われたことから名付けられたアメフラシ「シービショップ」を、あなたたちは倒していた。

 シービショップは酸性の液体を放つ。そう強い物でもないが、テオはこれを浴びて顎から首を赤く腫らしていた。


「ジュリアさーん。首がいてえよー。治癒魔法使ってくれー」


 泣きつくテオ。あなたたちが更に洞窟を奥へと進む。

 これから踏み入れる場所は深い海の底。危険はらむ冒険をあなたが予見し、より一層気を引き締める。

 ところが、意外な光景があなたたちを待ち受ける。海水が足元まで満ちた狭い通路を進み、それから突き当たりを左に曲がると、

「えっ、外だ」

 ワラビが気の抜けた声で(つぶや)いた。曲がった先は洞窟の出口で、白い雲に覆われた空が広がっていた。


「干潟だね。アサリとか獲れるかな」


 ワラビが砂泥をぺたぺたと踏みながらあなたに言った。

 広がる干潟。見渡す限りに泥と海水が続き、所々に岩が突き出ている。

 あなたはがっかりした。汀の洞窟は海面の下まで続く、いわゆる海底洞窟との話だ。だがいま洞窟を通り抜けた感じでは、水面すら潜ったとも思えなかった。

 しかし妙である。これほどの干潟なら必ずや漁場となるはずだ。それが誰一人としてここには漁師がいない。

 洞窟にモンスターがいたとしても説明がつかなかった。あの程度のモンスターなら、腕の立つ者に頼んで駆除してもらえばよいからだ。


「ねえ、ジュリアさーん」

「もう、男のくせにピーピーうるせえな。海水で十分に冷やしただろ?」

「でも痛みが引かねえんすよ。痕になっちまうかもしれねえし、頼みますよジュリアさん」

「……ったく、しょうがねえな」

「やった。ジュリアさんよろしく」


 今まで無視していたジュリアだが、酸を喰らったテオ必死の泣き落としで遂に折れた。

 ジュリアは乞われると弱い。しかし今は乞われたからという訳ではなく、テオの首に手を当てるジュリア、この両者からは下心が透けて見えた。

 テオは鼻を膨らませていた。少年らしく、女の子に治療をしてもらう事に興奮を隠し切れていない。

 そしてジュリア。心変わりして(かん)(さわ)る男の治療に応じたのも、単にセルマのご機嫌取りだろう。証拠にジュリアは患部を見ず、機嫌悪そうにそっぽを向くセルマをちらちらと見ている。

 テオはともかく、(いま)だセルマにこだわるジュリアにあなたが呆れたその時、――異変は起きた。ジュリアが呪文を詠み始めた途端に地面が揺れ、

「えっ、な、なに?」

 戸惑うワラビ。あなたたちの踏む砂泥が、突然隆起し始めた。


「なっ、なんだ!?」

「うわっ、逃げろぉ!」


 走り出すあなたたち。盛り上がる砂と泥から逃れるために。

 そして、揺れが止んだところで後ろを振り向けば、とてつもなく大きな口を持つ、酷く醜い顔をした魚がいた。


「で、でけぇ……」

「ねえ、このアンコウ、“ムルアヅル”じゃない?」


 潰れたような(じゅう)(へん)(けい)の魚が、ぬめる(くり)(いろ)(きょ)()を振るわせる。


 『ムルアヅル』。とある地方に伝わる悪神の名で、ヒトを一度に五人()んだと伝わる。

 そんな悪神の名を冠する目の前の魚は、浅瀬をテリトリーとするアンコウの一種で、その大きな口で何でも飲み込んでしまう貪欲ぶりが恐れられていた。

 しかし、一般に知られているムルアヅルはここまで大きくない。いま目の前にいる()(たい)の横幅は、大型のサメに比肩する。


「テオ! セルマちゃんはどうした!?」


 気付いたジュリアが声を上げた。テオの手を握っていたセルマが、いつの間にかいない。

 まさか、この貪欲(どんよく)なる怪魚(かいぎょ)に、呑み込まれてしまったのだろうか。


「おいセルマ、……セルマァ!」


 顔を青くしたテオがセルマの名を呼ぶが、返事がない。

 テオが腰から名剣・デュランダルを慌てて抜き、貪欲なる怪魚の側面を、

「わああああぁっ!」

 やぶれかぶれに斬りつけようとするが、逆に尾で打たれてしまう。

 吹っ飛ばされたテオ。そして怪魚が鰭で砂泥を激しく掻き、大口を開けてテオに迫る。

 テオは逃げれなかった。仰向けに転んで身動きを取れずにいる。しかしあなたがテオの腕を引っ張り、何とか閉まる大口から救う。


「あっ、あ、あ……」


 今の大口に恐れたか。身の危険を感じたテオが、歯をガチガチと鳴らし震えていた。

 しかし、戦士でないなら仕方がない。怪魚の口には棘のような鋭い歯が無数に生えており、あのまま(かじ)られていたらテオは脚を失っていたに違いなかった。

 もう役に立たないだろう。いや、元々あなたは期待していなかった。想定の範囲内である。

 あなたが尻もちをつくテオの頬を引っ叩く。震えられていても邪魔なだけだから早く立ち上がれ、などと急かす。

 それから後ろに下がるよう伝えた。もしかしたら彼はそのまま逃げてしまうかもしれないが、それでもいい、とあなたは前を見続けた。


 さて、神話では大口に焼けた石を投げ入れ、ムルアヅルを退治したと伝わる。

 その手が使えればどんなに楽だろう、などとあなたが思う。腹の中のセルマを考慮してあなたたちは戦わなければならない。従ってワラビの火と冷気は使えず、足元に海水が満たされていることからジュリアの電撃に至っては論外だった。

 怪魚の外部のみを傷付けて倒すしかなかった。あなたが盾を前面に構え、ワラビとジュリアも小刀に鎖と、殺傷能力の低い得物を構える。


「キミ、ジュリア。私が(おとり)になる。あのアンコウを引きつけるから、その隙に叩いて」


 あなたたちの中で最もすばしこいワラビが、貪欲なる怪魚の前に躍り出た。

 鰭や尾はともかく、あの大口だけはあなたも防げない。回避に注力した方が妥当だろう。

 間もなくして怪魚が釣られるように飛び掛かる。大きな口を開けては閉じるが、その都度にワラビが引いてかわす。

 隙を見てワラビが小刀で傷付けた。しかしそう思惑通りにはならず、貪欲なる怪魚は飛び掛かる度に砂泥を周囲に撒き散らした。そのため砂泥が煙幕となり、あなたは中々怪魚に近付けず、

「くっ、狙いづれえ……」

 ジュリアも錘を思うように当てれずにいる。


「はぁ、はぁ……」


 そして何よりも焦らせるのが、干潟という地形であった。

 避け続けて息を荒くするワラビ。乾いた土の上なら容易(たやす)くかわし続けただろう。しかし、足にへばりつく海水と泥は、ワラビの動きを確実に鈍らせている。

 早く何かしらの手を打たなければ、ワラビが怪魚に捕まる。だから剣を抜いたあなたが、飛び散る泥を無理に押し通り、怪魚の足となっている鰭を斬る。


 ()(ごた)えはあった。泥の所為(せい)で目視できないが、確実に鰭を斬っただろう。

 しかし、怪魚がぐるりとあなたに向き、暗闇の口内をあなたに見せる。


「キミ!」

「アンタ!」


 あなたが剣を捨て、盾を上に構えて閉まる口を防いだ。

 危なかった。(とっ)()に剣を放って盾を上げなければ、まるかじりにされて首と胴体が離れていた。

 盾を支えるあなた。しかし、とてつもなく苦しい。怪魚の上顎が耐えるあなたを容赦なく押し潰す。

 あなたの力を上回る怪魚の咬合(こうごう)(りょく)。あまりにも辛く、あなたが膝を落としそうになるが、

「師匠!」

 この声を聞いてあなたがハッとする。逃げたと思っていたテオが側に現れ、あなたを支え始めた。


「うおおおおぉっ!」


 あなたと共に盾を持ち上げるテオ。何とか食われずに済んだ。

 二人になったことで幾分か余裕ができ、あなたが横のテオを垣間(かいま)見る。そこにはジュリアに泣きついていた情けない顔はなく、ただ必死で一生懸命な男の顔が存在した。

 存外に根性があった。あなたが軽薄だと思っていたテオを見直す。そして、あなたの仲間がこの機会を逃すはずがない。

 いま怪魚は、あなたとテオを喰らわんとするばかりに隙を(さら)しており、

「ここだぁっ!」

 ジュリアが振り回した鎖の錘を、貪欲なる怪魚の脳天に打ちつけた。


 上から押し潰す力が抜け、あなたとテオが大きな息を吐いた。

 下がれば怪魚の頭がへこんでいた。ジュリアの一撃が怪魚の頭蓋を割ったようである。

 あなたたちとテオは何とか貪欲なる怪魚に勝利した。しかし、まだセルマがいる。

 早く助けなければ。ワラビが怪魚の腹に小刀を入れようとしたとき、

「うっ、おおおぉ!?」

 テオが慌てて身を引いた。ちょうど怪魚が現れた辺りの砂泥がまた隆起し、その中から泥だらけのセルマが登場した。


「えっ? な、なんですか、このおっきなアンコウ」


 セルマがぐったりとした怪魚を見てきょとんとする。どうやら怪魚が現れた際に転んだのか気絶し、そのまま泥の中に埋もれていたようである。

 子供らしい暢気さにあなたたちがほっとする。そう言えば、などとあなたが、セルマの母親である塰の女性が不漁に悩んでいた話を思い出した。この怪魚が食い荒らしていたのだろう。

 ひとまず、何事もなくて良かった。(あん)()するあなたの心中を(しり)()に、セルマが、

「もしかして、テオさんがやっつけたんですか! すっごーい!」

 目を輝かせてテオに抱き付いた。

 大いなる勘違いだが、テオがいなかったら危ないところだったのであなたは黙っておくことにした。けれどジュリアは悔しそうに歯噛みしていた。


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