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トライ・ステップ! -this story is game fantasy-  作者: 豚煮真珠
QUEST6. 絶望と希望の玉手箱
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厄介者

「お願いします。ここにいたこと、お母さんには言わないでください……」


 テオが手を放すや否や、塰の女性の娘があなたとテオに懇願した。

 松明が照らす二重の目が涙を溜めており、娘はふとした拍子に泣き出しそうである。


「嬢ちゃん、とりあえず名前は何て言うんだ?」

「あっ、セ、“セルマ”、です……」

「セルマか。()れちまいそうなほど良い名前だな。オレの名はテオ、よろしくな」

「は、はい。テオ、さん、ですね」


 塰の女性の娘・セルマが、テオの名を復唱した。

 セルマが自分の名を褒められ、落ち着きを少しだけだが取り戻す。


「そんでセルマ。おまえ、なんだってこんな暗い所に一人でいたんだ? この奥には危ねえ生きモンがうようよいるって話だぞ?」


 テオがしゃがみ、セルマと目線を合わせて訳を訊いた。

 へらへらした様子はなく見つめ、小さな子と接する姿に限れば一端の男に見える。


「……あの、お母さんに、絶対に言いませんか?」

「おう、絶対に言わねえ。信じろ」

「じゃ、じゃあ、信じて言いますね。お母さんが大切にしていた指輪、この洞窟の中で失くしちゃったんです……」


 消え入りそうな声でセルマが話した。これを聞いてあなたとテオが納得する。


「亡くなったお父さんとの結婚指輪で……。すごくキレイで、ちょっと付けて見たくなったんです。それでこの洞窟の中で隠れて付けてたんですけど、おととい、落としちゃって……」

「そうか。セルマ、綺麗な物を好むお前の気持ちはよく分かる。オレも綺麗な女は好きだしな。でも、お母さんに内緒なのは頂けねえ」

「い、言うんですか!? さっき言わないって言ったのに!」

「早とちりするな、言わないさ。でもな、別に指輪くらいお母さんに言えば付けさせてもらえるんだ。お母さんが大切にしている物を盗み出すような真似が、オレは気に入らねえって言っているんだ」

「そんな。盗むなんて、そんなつもりは」

「……セルマ、オレが今から言う事、自分の立場にしてよく考えろ。おまえが大切にしている物はあるか? あるだろ、きっと」

「……はい、ありますけど」

「それがいつもの場所から急に無くなっていたらどうする? 誰かが持ち出した、あるいは盗まれたって思うだろ? お前はそれと同じことをやっているんだ、お母さんに対してな」

「は、はい。そうかも、そうかもしれません」

「フフッ、そう気を落とすな。ここで()ったのも何かの縁だ、オレが見つけてやる」

「えっ、わたし、お金持ってませんよ……」

「おいおい、どうして金の話になる。金なんてとらないさ、安心しろ」

「本当ですか」

「当たり前だろ。ま、今後こういう真似は二度とするな。ヒトの立場に立って考えられるイイ女になれ。いいな?」

「はい。……もう、しません」


 意外であった。あなたに接するときとは反して、彼は道理をセルマが納得するように説いた。

 頼もしくも感じ、この落ち着きようを見たあなたは、本当にあのヘラヘラした少年なのか、などと疑ってしまう。


「どうよ師匠。今のオレ、中々イケてただろ?」


 無駄にアピールするテオを見て、やはり彼だった、などとあなたが残念がる。


 さて、こんな小さな子が一人で洞窟の中にいた理由。母親の指輪を探していたのだろう。

 また初め、この子はあなたとテオから逃げようとしていた。これも人づてで母親に、娘が汀の洞窟で何かをしている、と知られたくなかったのだろう。

 昨夜はあなたたちに何か言いたそうにしていた。彼女のような小さな子が、金のことを気にしていた点からもあなたが、戦士の自分たちに指輪の捜索を頼みたかったが、金がないから言えなかったのか、といった旨をセルマに問う。


「そ、そうなんです。わたし、お金持ってないから……」

「師匠、手間かけさせて悪いけど、一緒に捜してくれ。セルマ、指輪を失くした場所に案内してくれるか?」

「は、はい!」


 セルマの案内で、あなたとテオが洞窟の奥へ進む。

 テオの履くレザーブーツ「ブルブーツ」が砂に足跡を付ける。これは去勢されずに育った雄のウシの皮を使った丈夫な靴で、やはり良い物である。

 曲がりくねった内部をしばらく歩き、二手に分かれた分岐を左に進むと、

「へえ、洞窟の中にこんな所が」

 その光景にテオが感嘆する。あなたとテオが、僅かに陽が射す広めの空間に着いた。

 天井に隙間が認められ、ここなら指輪の輝きが映えるだろう。また、壁のフジツボは下方に限られており、モンスターもいない。

 ただし、大小様々な石がごろごろしていた。歩きづらいほどで、ここで小さな物を落とせば発見は困難だろう。

 子供が困っている。セルマに松明を渡したあなたが、戦士の義務としてテオと共に指輪を探し始める。


 ***


 一刻ほど探したが、指輪は見つからなかった。

 大きな石を下ろすあなた。テオは重たい物を上げ下げする作業に慣れていないようで、先程からへばっていた。

 腰を押さえるテオに、あなたが溜め息を吐きながら考える。光る物だ。それだけに目立ち、カニか何かが抱えてしまったのかもしれない。そうでなくとも水が流してしまったのかもしれない。

 砂が湿ってきた。浸水が始まっている。あなたとテオ、そしてセルマが洞窟の外へ出る。


「あの、テオさん、戦士さん。一緒に捜してくれて、ありがとうございました」

「いや、礼を言うならこちらの方だけに言ってくれ。オレは何も役に立てなかった。ごめんな、指輪を見つけてやりたかったんだが」

「いえ! とんでもありません! わたし、明日は奥を、探してみます……」

「お、おい! そりゃダメだセルマ! 奥は危険だと知っているだろ!?」

「でも、指輪見つけないと、お母さんが……」

「バカ! おまえに何かあった方がお母さんもっと悲しむぞ!?」


 厄介なことになった。セルマが明日は奥を探す、と言った。

 既に述べているが、先にあなたたちが捜した空間より奥は、モンスターが控えている。また浸水の件もある。

 しかし、今の思い詰めている彼女にそれを言って聞くだろうか。あなたとテオは所詮他人だ。母親の指輪を失くしたという事は、今の彼女にとってとても重大な事なのだろう。

 痛い目を見なければ分からず、あなたとテオがいくらやめろと言っても、きっとこの子は一人で探しに行く。


「分かった、分かったセルマ! 明日オレも奥へ行ってやる! だから一人で行こうなんてバカは絶対に言うな!」


 彼一人ではあまりにも心(もと)ない。こうしてあなたも、明日は指輪を探しに洞窟の奥へ行くこととなった。

 そして時は過ぎ、没鶏の時を迎えた夕暮れ時――。


「……で、このチャラ男がキミに付いて来たってわけね」


 ワラビが事情を理解し、軽く溜め息を()いた。

 あなたはテオを連れ、ニライカナイにて二人と合流していた。


「チャラ男ってなんだよ。ワラビ、オレはいつだってマジな男だぜ」

「うっさい。私の名前を馴れ馴れしく呼ぶな」

「なあアンタ。あたしたちだけでよくないか? こんな(やつ)いたって邪魔なだけだろ」

「おいおいジュリア、つれねえこと言うなよ。一緒にいればきっとオレを見直すぜ。意外なところで役に立つのが、このオレだからよ」

「……チッ」


 サザエを焼くジュリアが舌打ちをした。

 ジュリアの意見ももっともだ。だが、明日の捜索をセルマと交わしたのは主に彼である。彼がいなければセルマは納得しないんじゃないか、といった旨をあなたが伝える。

 それにこのテオという少年、洞窟の入口で動転したセルマを落ち着かせている。戦闘では役に立たないだろうが、いま彼が言ったとおり、彼は思ってもいないところで役に立つかもしれない。


「ほらほら、サザエ焼けてきたから食おうぜ! よろしくな、ワラビ! ジュリア!」


 テンションの高い彼に、二人が嫌そうな顔を露骨に浮かべた。

 昨日の彼は蚊帳の外だったが、今日はあなたが連れてきた。水着姿の二人と改めて顔を付き合わせたことが、彼を(たかぶ)らせているのだろう。

 連れて行くのは今回だけであり、今ばかりは我慢してもらおう、などとあなたが思う。ちなみに、彼が今ほじくっているサザエの代金はあなたたち持ちであり、彼は一リリィも払っていないことが二人の怒りに拍車を掛けている。

 彼は、金を持っていなかった。


「まあ、コイツはどうでもいいけど、セルマちゃんが困ってるなら助けてやらないとな」


 子供好きなジュリアはまだ乗り気だった。しかし、

「えー。お金(もら)えないし、武器も()びるじゃん」

 ワラビはそういった面ではシビアで、金にならない点と武具が錆びる点を懸念する。

 確かに(さび)は気になる。あなたたちはこの島に来る前、武具に錆止めを入念に施している。そして洞窟に入るにあたり、もう一度錆止めを施す気だが、それでも海水を(じか)に浴びれば錆は免れないだろう。

 しかし、もう決まったことだ。明日は指輪を探しに汀の洞窟へ行く。セルマと約束を交わした為に、これを破ることは戦士として許されない。

 金にならないことも、戦士なら時としてやらなければならないのだ。けれど、

「錆落とすの大変だよ? ジュリアの(いしゆみ)と鎖もそうだし、キミの剣と(よろい)もそう。いま聞いた話じゃ指輪絶対に見つからないだろうし、もー疲れるだけのような気がするよ……」

 憂鬱な顔を浮かべるワラビ。


「ねえキミ、指輪、まず見つかんないよね? その場合どうするの?」


 今も働いているセルマや母親に聞こえないよう、ワラビがあなたに顔を近付けて訊いた。

 この問いの答えは決まっている。ワラビの言うとおり、セルマには可哀想だが指輪は見つからないだろう。

 あなたは、明日探しても見つからなかった場合、娘が指輪を失くした旨を母親に告げようと考えている。

 明日はセルマを諦めさせるためなのだ。奥に行ったところで指輪はもう無い、と分からせるべく。


「ふうん。ま、しょうがないなあ。最近戦ってないし、付き合ってやりますか」

「ヘヘッ、ワラビ、そう暗い顔ばっかするなよ。きっと見つかるさ。なっ、師匠!」

「だから私の名前を呼び捨てで呼ぶな。はっ倒すよ?」


 馴れ馴れしいテオに(いら)()つワラビのよそで、あなたは(ひそ)かに洞窟を探検する良い口実ができた事を喜んでいた。

 普段ならこの二人、目的もなしにダンジョンなど近付かない。だから今日、あなたは一人で洞窟へ向かったのだ。

 胸が密かに躍る。明日はあなたの冒険心が満たされるときだ。もちろん皆の身に何も起きぬよう、十分に気を払わなければならないが。


「ところでさ、テオ……君、だっけ? きみいくつなの?」

「ああ、聞いて驚くな、十六だ」

「じゅう」

「ろくぅっ!?」


 テオの年齢に二人が立ち上がった。


「年下じゃねえかこんにゃろう!」

「ナマイキ! “さん”を付けなさいよ!」


 ジュリアにサザエの殻を投げつけられれば、ワラビに殴られ。昨日に引き続き今日も、少年テオが二人に絞られた。


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