汀の洞窟
翌日。清々しい空に燦々と輝く太陽。本日も快晴なり。
「海だ! 急げー!」
「待ってジュリアー!」
水着姿のジュリアとワラビが、今日もうきうきで砂浜へ駆け出した。
ゆうべ聞いた塰の女性の話も忘れ、さっそく海に飛び込む二人。先ほどジュリアが「今日は沖の方まで泳いでみようぜ」と言い、元気の良い二人は、もう沖の方へと泳いでいた。
溺れる心配は要らないだろう。二人は水泳も達者で、戦闘に魔法に乗馬と、あなたの仲間は才能にあふれている。心配が要るとすれば、まだ誰も見たことがない昨夜の「何か」とやらが現れたときである。
あなたが泳ぐ二人を見届けてから、独り砂浜を後にする。
今日、あなたは二人と行動を別にした。その理由は行ってみたい場所があるからだ。
この岩礁に囲まれた島、バースデイ島の片隅には、現地の人々が「汀の洞窟」と呼ぶ洞窟が存在する。
洞窟の入口は、大きな岩盤にぽっかりと空いた穴で、一見トンネルのようらしい。また奥は、海面の下まで続く、いわゆる海底洞窟とのことだった。
さる海賊が財宝を隠した場所として知られていた。その海賊も魔王が現るより前の話であり、保養地として開発が進んだ今ではさすがにないだろうが、それでも洞窟に財宝という響きはあなたの冒険心をくすぐった。
あなたは一目見るべく、街の人々に詳しい場所を聞いて件の洞窟へ向かった。
そして歩くことおおよそ一刻。あなたは目的の洞窟の前に辿り着いた。
街のヒトから聞いたとおり、入口はトンネルのようだった。典型的な海蝕洞で、中は暗くその様子を窺えない。
奥に侵入してみたくなるあなた。しかし、今の状態で奥へ向かうのはとても危ない。街のヒトが言うには、洞窟の奥には危険な生物、いわゆる「モンスター」が棲み付いているらしい。また、今のあなたは装備を身に着けておらず、ワラビとジュリアもいない。
今日は場所を知れただけでも良しとするべきだろう。けれどわざわざここまで歩き、その程度の収穫で帰るのも惜しかった。
せめて入口付近くらいは探りたい。そう思ったあなたが、持参した松明に火を点けて中に入ろうとする。そのとき、
「おーい、“師匠”!」
師匠というやかましい声が聞こえた。あなたが周囲に首を振り向ける。
しかし、周りには誰もいなく、どうやらあなたが呼ばれているらしい。再び「師匠!」とあなたを呼んだのは、昨日ワラビに殴られ、ジュリアに首を絞められた少年だった。
「へへっ、師匠も財宝が目当てかい? 奇遇だな、それじゃオレと見つけに行こうぜ!」
あなたに駆け寄った少年が、サルに似た笑顔を浮かべた。
島の温泉に浸かったのか、少年はさっぱりとしている。しかし、財宝とは暢気なものである。あなたが奥へ行くのは止めようと我慢しているのに。
とりあえず何と呼ぶべきか。あなたが少年に名を尋ねると、
「よくぞ聞いてくれた。オレ、“テオ”ってんだ。よろしくな、師匠!」
バンダナを被った少年『テオ』が、親指をビッと立て、よく響く声で自らの名前を名乗った。
このテオという少年。一体なにが目的なのだろう。
間違いない。この短期間で三度も顔を合わせる偶然などなく、彼はあなたを尾行している。
なぜ彼はあなたに付きまとうのか。あなたと彼の繋がりは、カンガス・デオニズで彼が一方的にあなたの手を握ったことくらいしかない。二人が目当てなのだろうか。いや、それなら二人がいま海にいることくらい知っているだろう。
そもそも師匠呼ばわりされる覚えもなく、あなたがテオに付きまとう訳を訊く。すると、
「まあ、バレてるか。いやあ、あんたからは只者じゃない雰囲気を感じるんだ。だからよ、師匠、お願いだ! どうかオレを弟子にして、オレを仲間に入れてくれ!」
ヘラヘラした顔を引き締め、同行したい、と彼が申し込んだ。
あなたが彼の顔を見る。真剣な顔付きで、一見なら嘘を言っているとは思えない。
一考するあなた。自分を慕ってくれるのは素直に嬉しいと思った。しかし、それはそれ、これはこれ。
剣の腕が確かなら検討する余地はある。だが、以前見た腕前では、仲間に加えたところで足を引っ張る未来しか予想できない。それにこの少年、ともかく信用に足らない。ヒトを見た目で判断するのは良くないが、それにしても軽薄に過ぎる。
窮地に追い込まれて一人逃げないだろうか。残念ながら彼には、そういった男気が感じられなかった。
また、弟子だの何だのは口実で、結局は二人に近付く為にあなたに近付いているのかもしれない。「人を射んとせば先ず馬を射よ」の理屈で。
そもそも素性も知れない。以上の事を踏まえてあなたが断る。
「そんなあ。師匠、オレなんでもするぜ。オレを仲間に入れりゃ絶対に得させてやるからよ。だから考え直してくれよ!」
食い下がるテオを無視し、あなたが洞窟の中に入った。
ひんやりとした洞窟内部。地面が砂の洞窟の壁には、フジツボが所々に固着していた。
この洞窟、思っている以上に危ない、などとあなたが考える。潮がないと生きられないフジツボがいるということは、この洞窟、満潮時は水に浸かるということだ。
全て水に沈むかもしれない。あなたが壁や天井を隈なく調べるが、幸いにもフジツボの固着は壁の下方に限られていた。
洞窟の入口付近は砂が浸かる程度の浸水で済むことが分かった。しかし奥は分からず、もっと探るなら入念な調査と準備が必要、などとあなたが思案していると、
「おい師匠!」
なおもあなたに付きまとっていたテオが大きな声を上げ、あなたの肩を揺すった。
あなたが振り向くと、テオは前を指していた。
すかさず前を向いた瞬間、白と黒の何かがあなたの前を横切り、この何かをあなたが逃してしまう。
再びテオの方に向いたあなた。だが彼は、
「師匠、捕まえたぜ!」
あなたが逃した何かを捕まえていた。
テオが捕まえたそれはヒトだった。しかも小さな子で、振り切ろうとする後ろ姿には見覚えがある。
白いワンピース。長い黒髪のツインテール。そして、日に焼けた褐色の肌。
「あっ……」
女の子が、あなたを確認して驚く。
塰の女性の娘。この暗い洞窟の中で、あなたとテオが何故か会遇した。




