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トライ・ステップ! -this story is game fantasy-  作者: 豚煮真珠
QUEST6. 絶望と希望の玉手箱
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海の恵みと涼しい潮風、ほろ酔いまどろむ竜宮ノ浜

「ジュリア塰さん似合いそうだよね」

「あたしが塰さん? そりゃおまえ、あたしにもっと黒くなれって言ってんのか?」

「あっ、それもいいかも。ふふっ、一緒に焼こうよ」

「断る。これ以上黒くなったら誰もあたしをもらってくれなくなっちまうからな。ったく、色白のおまえが羨ましいよ」


 日も暮れて本日の海水浴を堪能したあなたたちは、宿の予約を先に済ませ、今から夕食を摂ろうとしていた。

 開放的なビーチである。ワラビが「砂浜にテント張ろうよ」と、あなたたちは初めビーチで野宿する気でいたが、この島では浜での野宿を禁じていた(ため)に急いで宿を探した。

 ワラビは日焼けにより肌がほんのりと焼けていた。対して元々焼けたような肌色のジュリアは、頻繁に布で体を隠していた為か変わっていなかった。

 さて、水着姿に綿布を羽織るあなたたちは、いま砂浜にて網を囲んでいる。その鉄網には、殻付きのカキが幾つも乗っている。

 ぷるっぷるの大きなカキが、パチパチと炭火で(あぶ)られ、じゅくじゅくと濁ったエキスを滴らせては弾かせている。そして、それの醸す匂いが香ばしく、あなたたちの口内が唾で満たされる。


「ワラビ、おまえのそれ、そろそろいけるんじゃないか?」

「うん、食べれそう。じゃ、いただきまーす」


 ワラビがカキをトングで(つか)み、自分の皿に移した。

 それからフォークで刺し、ほかほかな湯気を立てるカキを、ふうふうと息で冷ましてから口に運ぶ。すると、

「あつっ。でも、……ふぅ、すんごいおいしい。この濃厚な(うま)()に隠れたほろ苦さがたまんない……」

 その味を記憶に(とど)めておくかのようにワラビが目を閉じ、今まで見せたことのないうっとりとした笑みを浮かべた。


「大げさだなぁ。カキなんてウチでも食ってただろ? ……うっ、うまい。なんだこりゃ」


 続いてジュリアが、カキを口に入れて思わず口を塞ぐ。そしてあなたも、その美味さに驚嘆する。


「どうだい? おいしいかい?」


 そんなあなたたちの前に、今日の昼前に出会った塰の女性が訪れた。

 昼前と同じ格好だが、漁師が着けるような前掛けをしていた。それと胸の帯と腰巻は乾いている。

 あなたたちは宿を探している最中、この女性が宣伝した店・ニライカナイを見つけた。店自体は掘っ立て小屋のようだが、砂浜で魚介類のバーベキューを催している店だった。

 ワラビとジュリアが「おいしい」と答える。


「喜んでくれて何よりさ。ここんところさぁ、不漁が続いてたんよー」


 塰の女性が砂の上に腰を下ろし、行きずりのあなたたちに妙な(なま)りで悩みを語り始めた。

 客はあなたたちの他に、家族連れと若い男女の二組しかいない。いや、そもそも島全体に活気がない。

 何度も言うがバースデイ島は世界屈指の保養地だ。海は澄み、波は穏やか。更にこの時期なら晴天に恵まれ、温泉まで湧いている。この季節なら常に観光客がごった返しているもの。それが、まずまずしかいないのである。

 過去この島に訪れたことのあるジュリアも「何か寂しいな」と言っていた。どうやら不況に見舞われているようだ。


「三ヶ月ほど前にさ、養殖していたカキが根こそぎ食われちまった事件があったんさー。それ以来明らかに魚や貝が獲れなくて、仲間もどうしたもんかと頭を抱えてるんね」

「えっ。じゃあこの海に、島を荒らしてる何かがいるってことですか?」

「わかんにゃ。姿を見た者はおらんでね。にしても、(うわさ)が広まるのははやーだねぇ。おかげで今年は暇なんよ」


 女性が濃紫の空を仰いで()め息を吐いた。

 不況の原因は、この島の近海に貝や魚を食い荒らした何かが潜むことから始まるらしい。さらに女性は話を続け、その何かは岩をも砕く顎の持ち主とのことだった。

 カキが食われたとき、岩ごと砕いた形跡があったらしい。その跡を見て塰の仲間が(おび)えている、と女性は悩んでいた。


「でもな、今日あんたらに会って、そしたら珍しく大漁だったんよ。ホタテがいっぱい獲れたから、よかったら頼んでな」


 すくっと立ち上がった女性が笑みを浮かべ、そしてあなたたちに手を振った。

 塰の女性が「お姉さーん」と家族連れに呼ばれる。これに女性が応対し、どうやらこの店は塰の女性が一人で切り盛りしているようである。

 不意に涼しい風が吹いた。あなたが西を望む。

 暮れなずむ空。()いろの光が洩れる、西の彼方のトイノーン山をあなたが眺めていると、

「や、やっと、見つけたぜ」

 聞き覚えのある声がした。これにあなたが振り向くと、見覚えのあるバンダナを巻いた少年がいた。

 間違いない。先日カンガス・デオニズで会った少年だ。顔や服が汚れており、少年は(ひど)くくたびれている。


「あっ、この前のチャラ男」

「てめえ。あたしたちを()けてきたのか」


 怒気を(はら)んで立ち上がるジュリア。だが少年は、

「まあ暫く、しばらく。オレここまで何も食べてねえんだ」

 ジュリアを手で制した後に、ワラビが焼いていた二つ目のカキを、ひょいと(つま)み上げてぺろりと食べてしまった。

 それから、ワラビと同じように目をつむり、その(うま)さに(うな)る少年。


「うーん、マイルド。やっぱこの島のカキはうめえなぁ。……げへっ!」


 目を閉じている少年に、立ち上がったワラビが顔を思いっきり殴った。

 さらにもう一発、無言で少年の顎を打ち抜く。これに少年が倒れて失神する。まだ我慢ならぬようで、砂を蹴って顔にひっかける。

 ワラビという女の子、怒るとグーで殴ることに(ちゅう)(ちょ)がない。ゼク家のビヤーサの時も先にワラビが殴っている。

 幸い、他の客は盛り上がっていて気付かれなかった。


「何がマイルドだコイツ。私が楽しみに焼いてたの食べやがって」

「減っちゃったな。ホタテ頼もうか」


 二人が塰の女性を呼び、勧められたホタテを追加注文した。

 倒れた少年。誰にも気付かれず、小さなヤドカリが少年の体によじ登る。あなたが少し哀れに思う。

 砂浜に(かがり)()(とも)され、それから待つことしばらく。


「お、お待たせ、しました」


 ホタテを抱えて現れたのは塰の女性ではなかった。歳にして十ほどの、小さな女の子だった。


「わっ」

「すっげえ可愛い」


 子供大好きなジュリアの目が光る。ワラビもその可愛さに驚いている。

 女の子は、長い黒髪をツインテールに束ね、白いワンピースを着ている。そして丸めな顔に据わる二重の上目遣いが、とてもいじらしくてキュートである。

 この子も肌が日に焼けて黒い。店の手伝いをしていることから、塰の女性の子供だろうか。


「ホタテ、網に乗せますね」


 女の子がトレイの上のホタテをトングで掴み、たどたどしい手つきで網に乗せた。

 明らかに慣れていない。その危なっかしさからジュリアがトレイを引き取る。


「ああ、いいよ、いい。あたしたちが自分でやるよ。貸して」

「あ、ありがとうございます」

「ねえ君、あのヒトの子?」

「はい、お母さんです」


 ワラビが「あのヒト」と塰の女性を指し、それに女の子は可愛らしい声で答えた。

 女の子の返事に二人が和む。けれど女の子は、あなたの風体、それとあなたたちの荷物に目を向けていた。

 女の子はもじもじと悩んでいた。そしてあなたたちに尋ねる。


「あの、もしかして、お客さん戦士ですか?」

「え、うん、そうだけど」

「……そうですか」


 ジュリアの返答に、女の子は再びもじもじとした。

 あなたたちが首を(かし)げる。女の子は今し方まなじりを決したように尋ねた。

 悩む女の子が、働いている母親をちらちらと(うかが)い、言うべきか言わないべきか迷っている。だが、

「……何でも、ありません。ゆっくり楽しんでってください」

 結局なにも言わず、あなたたちの前から立ち去った。


「どうしたんだろう」

「何か言いたそうだったな」

「後で()いてみたらどうだ? 母親を気にしているようだったしな」


 いつの間にか復活していた少年が、平然と二人の会話に混ざっていた。

 少年の巻くバンダナの上では、先のヤドカリが誇らしげにハサミを上げており、それをあなたがつい気にしてしまう。


「てめえ。なにしれっと話してんだ」

「まあ待ってくれ。腹が減っては話もできぬ、ってな」


 少年は懲りていなかった。今度はジュリアが焼いていた、バターを乗せたホタテをぺろりと食べてしまった。


「うん、ホタテも絶品だ。()むとじゅわっと(あふ)れる貝柱の旨味が、バターの風味と合わさって、……こいつはたまらねえ」


 満足した顔で口内を解説する少年をよそに、ジュリアが近くにあったロープをつかみ、

「ぶっ殺してやる……っ!」

 素早く少年の首に巻き付け、怨念のこもる()で絞めた。

 白目を剥き、再び失神する少年。そして、

「……あ、これ、もしかしたら使えるかも」

 ロープを解いたジュリアが、新しいスキル「窒息」を覚えた。


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