猛烈ダイビング
あなたたちはカンガス・デオニズを南下し、いよいよ世界でも指折りの保養地、バースデイ島に上陸した。
上陸にあたってあなたたちは、ガイドのおじさんをカンガス・デオニズにて雇っていた。バースデイ島へは土地勘のある者がいないと渡島が困難なのである。
バースデイ島へは橋がなく、渡し舟はあるが非常に高額だ。しかし陸と島の間の海域は浅瀬で、干満時には海水が引く。
一般的にはこの潮汐を利用して島に上陸する。つまり、潮が最も引く時間を狙って渡島する。しかし潮が引いたからといってどこからでも渡れる訳でなく、あなたたちはガイドのおじさんから渡島できるポイントを教わって島に上陸した。
そしてガイドのおじさんと別れたあなたたちは、水辺に沿って南下を始めた。
なだらかに舗装された磯の道を歩くあなたたち。左手に崖のような岩山が続き、右手には海と、海から突き出た黒岩が所々で望める。
海はエメラルドグリーンにきらめき、泉のように穏やかだった。岩礁が波を遮るのだろう。しばらくしてあなたたちが、岩盤に穴を空けたような短いトンネルを潜り、まぶしい日射しに目をすがめながら歩いていると、
「あっ、塰さんだ」
見つけたワラビが指した。銛を持った一人の女性が、澄んだ海から磯に這い上がる姿をあなたたちは目撃した。
「カッコいいね」
「ちょっと憧れるよな」
魚が刺さった銛を持つ勇姿に、ワラビとジュリアが暫し見惚れる。
カサゴだろうか、赤い魚を銛から引き抜き、そばに置く桶に放り込む女性。この白い肌着をまとって海に潜る女性を、人々は「塰」と呼んでいた。
塰とは、貝や海藻、魚などを採集して生計を立てる女性の漁師を指す。海岸沿いでしばしば見られる職業だが、とりわけバースデイ島の塰は、保養地と並んで世間に広く知られていた。
そもそもバースデイ島という島は、魔王が現れるよりも前、とある海賊が根城にしていたらしい。
島の周りは岩礁地帯、海産物には事欠かなかった。また、岩に囲まれた地形は、操舵に慣れた者でもなければ島に近付くことすら敵わなかった。
唯一の安全な上陸手段は、あなたたちも通った干潮時の浅瀬。よって守るに易く、この島の海賊には誰も手出し出来なかったらしい。
その海賊も今では滅び、バースデイ島には海賊が財宝を隠したとの謂れもある。そんなことをあなたが思い出しながら、二人と共に塰を眺めていると、
「……あっ、おーい」
塰が気付いた。あなたたちに向かって塰の女性が大きく手を振った。
あなたたちの元へ走る塰。胸を白い帯で覆い、白の腰巻を巻いていた。
近付くと背は高く、女性とは思えぬ程に逞しい。ヘソを出した腹筋は割れており、腕も脚も非常に引き締まっている。
歳は二人より一回り上だろう。そして、白い格好とは対極的に肌が黒かった。日に焦がした褐色の肌は、ジュリアよりも、エメローナのヒト達よりも遥かに焼けていた。
ただし美人だ。濡れた長い黒髪の下に座る顔は整っており、垂れた目が母性を感じさせる。
また、目のやり場に困った。胸の帯は今も水が滴るほどに濡れていて、膨らんだ胸にへばり付いた白い布が、淡く乳房を浮かばせている。
「あんたら島に遊びに来たんか? この島で獲れる貝や魚は美味いんぜ。ゆっくりしてき」
そんな己の格好を既に日常のものとしている塰の女性が、嬉しそうに白い歯を見せてあなたたちを歓迎した。
と思ったが、今になって気付いたようで、慌てて女性が胸を隠す。
「恥ずかしいとこ見られたわー。……へへっ、“マリーナ・デル・リーチ”では、ぜひ“ニライカナイ”を贔屓に。歓迎するさー」
女性が手を振ってあなたたちと別れた。
観光客のあなたたちに「ニライカナイ」という店の宣伝をしたかったようである。それと「マリーナ・デル・リーチ」とは、あなたたちが向かおうとしているバースデイ島唯一の町だ。
塰の女性が海に飛び込むのを見届け、あなたたちが再び南下を始める。
「ジュリアよりもまっくろだったね」
「あたしはチクビの方が気になってたよ。ニライカナイねぇ、見かけたら行ってみっか」
***
昼も過ぎた頃、あなたたちは前述した島唯一の町、マリーナ・デル・リーチに着いた。
保養地なだけあって宿泊施設が揃っている。また、軽食を提供する小屋の店がたくさん建ち並んでいた。
それからこの街、温泉が湧いていた。あなたたちはこの街に着いてまず、
「トウモロコシ甘くておいしい!」
「ポテトもホクホクだぞ! それに卵も黄身がとろっとろで、うん、うまい!」
温泉の蒸気で蒸した野菜や卵を食べ、朝からずっと歩きっぱなしであった旅の疲れを癒やした。
そして、腹ごしらえを済ませたあなたたちが、いよいよこの島に訪れた真の目的を果たす。
「海だ」
「ビーチだ」
広がる白い砂浜と、その向こうの碧い海に、二人が目を輝かせて言った。
マリーナ・デル・リーチは浜辺の町。沿岸の大半が磯のバースデイ島だが、南西のみ砂浜が広がっている。
海を望む二人が髪を解き、クロークのように羽織った綿布を、――バッ、と放り投げる。
「行くよジュリア!」
「おう!」
水着姿の二人が砂浜を駆け出した。二人は海が楽しみで、今日の朝から服の下に水着を着ていた。
ワラビは「ビキニ」と呼ばれる、白と水色の横縞水着を着用していた。ビキニとは、ブラジャーに似たトップスとパンツの組み合わせで、これの由来はデザイナーの名前にちなむ。
ジュリアは露出控えめで、タンクトップの下を切り取ったような赤いトップスに、黒地のスパッツに似たパンツを履いていた。
それにしても、ワラビの白い肌は相変わらず柔らかそうで、あの小さな体のどこに刀を振り回せるだけの馬力があるのだろう、などとあなたが疑問に思う。あと魔道印が見えているが、ここではそれに関して気にしてないようだ。
二人が、海に向かって猛烈にダイブする。
「うひゃあ、冷たい!」
「……ぷはっ。気持ちいい! 海、最高!」
海から顔を出し、二人が歳相応にはしゃいでいた。
「ねえキミ! すっごく気持ちいいよ! 早くおいでよ!」
「アンター! 一緒に遊ぼうぜ!」
眩しい太陽の下、碧い海に立つ二人の少女が、大きく手を振ってあなたを招いた。




