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a reincarnation girl

 階段を上り終えたあなたの耳を、甲高い音がつんざいた。

 上り終えた先にはゴーストが待っていた。これといった攻撃手段を持たないあなたは、廊下を駆けて振り切ることにした。

 幸いゴーストは追って来なかった。不快な高い音も併せて遠くなる。先にワラビが炎で消し飛ばしたことから、もしかしたら松明の火が有効だったかも、などとあなたが考える。

 振り切った勢いのままに廊下を走ると、先程の腐った床の前に戻った。空いた穴から遠ざかって慎重に進む。

 突き当たりを右に曲がった。すると、西館の塔に入る扉の前に着いた。穴からここまでで分岐はなく、この中にワラビと迷子がいるのだろう。

 あなたが扉を開け、塔の中に入る。


「あうっ!」


 しかし響いたワラビの悲鳴。扉を開けたあなたの目に飛び込んで来たものは、今まさにワラビが倒された光景だった。

 すかさず立ち上がるワラビ。だが、よろめいて(ひざまず)き、

「おねえちゃん!」

 苦しむワラビを小さな男の子が心配する。この尻をついて震える男の子こそが迷子だろう。


「だいじょうぶ、問題ない、よ……」


 ワラビが痛みを(こら)えながら迷子に返事した。

 迷子が松明を持つ円形の空間。ワラビが(にら)む視線の先には、なんと石造りの像が二本の足で立っている。


「カカカッ、四百年ぶりの(しゃ)()も地に()ちたもんだのう。貴様のような小娘が我を倒そうなど片腹痛いわ」


 石像は笑っていた。石の(くちばし)を小刻みに動かして。

 カラスのような造型の頭部。その左右には二本の角を付け、石の体には(たくま)しい肉体が模されている。

 指の先は鋭利に(とが)っており、背にはコウモリに似た大きな翼が付いている。その姿はまさに悪魔をかたどった彫刻、『ガーゴイル』そのものである。


「仲間が現れおったか。……ほう、中々骨のありそうな(やつ)だな。だがこの石の体に、その剣が通用するかな?」


 あなたに気付いた石像が、あなたが抜いた剣を一瞥(いちべつ)して告げた。

 二対一でも意に介していない。石像は己の有利を信じて疑わず、無機質な石の表情からは余裕を読み取れる。

 しかし、確かに石像の言うとおりだ。石の体には剣が通じないだろう。そしてそれはワラビも同じ、刀はおろか火も冷気も、石の体の前では無力。

 どのようにして迷子を逃し、それから自分たちも逃げるべきか。あなたが窮余の一策を練るが、

「待ってたよ! キミ、私を守って! あいつから私を守って!」

 ワラビは諦めていなかった。その瞳は戦う意志を失っていない。

 向こう見ずなところがある彼女だが、無茶をやるような子ではない。しばらく共に旅をしてそれが分かっているあなたは、ワラビを信じて賭けることにした。

 そうして、悠然と歩み寄る邪悪な石像を前に、あなたが盾を構え、ワラビを(かば)うような形で立ち塞がる。

 あなたが後ろのワラビを見やると、ワラビは上段に構え、目を閉じていた。先の魔法を唱えた時と同じく、精神を集中している。


「カカッ、その娘に何を期待しているかは知らんが、我が前に立ち塞がるのなら貴様の魂から()らってやろう!」


 石像が右足を上げ、回し蹴りを繰り出した。

 肉弾戦を仕掛けた石像。あなたが蹴りを盾で防いだが、その重い衝撃に腕と体が(きし)む。

 息()く間もなく石像が、その鋭い爪であなたを裂かんとした。これをあなたが剣で打ち払ったが、衝撃を殺し切れず手首に鈍い痛みを覚えた。

 石像は石のくせに素早い。鉄の塊を打ち付けるような打撃を、ヒトと遜色ない動きで繰り出して来る。

 しかも、敵は石である。あなたから手が出せず、石像のすこぶる重い一撃一撃が、耐えるあなたの体を揺さぶり、悲鳴を上げさせる。


 そして、右足を振り上げた石像が、上げた足を(おの)のように下ろし、

「喰らえぃっ!」

 カカト落としを繰り出した。これをあなたが盾で受け止めるが、この一撃はとてつもなく重く、木製の盾が壊されてしまった。

 身を守る物を失ったあなたに、すかさず放たれた石の拳。これがあなたの腹を捉え、(つち)を食らったような打撃に体が「く」の字に折れる。

 更に、石像が両手を組み、打ち下ろした両拳があなたの頭を打つ。この痛恨の一撃にあなたが膝を突き、

「カカッ、では終わりにしてやろう」

 見下げる石像が、あなたに石の右腕を振り上げる。


「……よしっ、守ってくれてありがとう! 後は任せて!」


 目を開いたワラビが、あなたに代わって前に躍り出た。

 そして、上段から割るように刀を振り下ろす。敵は石の体だが、その剣筋に迷いはなかった。

 石像が右腕を上げ、無駄と言わんばかりに防ごうとするが、

「“一撃(いちげき)必殺(ひっさつ)”!」

 ワラビ裂帛(れっぱく)の一撃が、防ぐ石像の右腕を断ち切るどころか、石の体までも真っ二つに切り裂いて、

「なっ、なにぃっ!?」

 これに驚く石像が、右肩から縦に割れた。


「バカなっ! 今の、技は……!」


 今の状況が信じられない石像。小娘のたった一撃に、己の有利を引っ繰り返されたのだから。

 左半身だけとなった石像が、音を立てて床へと崩れ落ちる。立とうとする石像だが、これにワラビが歩み寄る。


「よく(しゃべ)る石像ね。で、誰が小娘だって?」

「……クッ、カカッ、小娘。その決して諦めない()を我はよく知っている。今の技を喰らって思い出したわ」


 観念したのだろうか。石像がもがくことをやめ、ワラビの目を見上げながら嘲るように告げた。


「四百年前もそうだった、貴様によく似た眼を持つ“奴”に、我は斬られたのだ」


 回顧する石像。妙なことを語り始めた。

 四百年前などと、一体なにを言おうとしているのか。それに、「奴」とは誰のことなのか。あなたは石像が語る話に付いていけなかった。

 しかしワラビは石像の話を口を閉ざして聞いていた。そして、石像が高らかに告げる。よく知っているという眼と、その身をもって喰らった技から、己を真っ二つに切り裂いたワラビの正体を断定する。


「その(まなこ)、その技、喰らった我が間違えるはずがない。カカカ、まさか四百年経って今度はその血を引く者に斬られるとは。……小娘、貴様、“勇者”の血を引く者だろう?」


 勇者の子孫。これが普通なら鼻で笑える冗談である。

 しかし、この状況で石像がいい加減なことを言うとは思えない。それに何よりワラビが、その事を否定しなかった。

 戸惑うあなたを(しり)()に、ただ黙ってワラビが、もう一度上段に構える。


「図星か。カカ、カカカッ! 勇者の末裔(まつえい)よ、あの方が世に残した“終末”は止められんぞ!?」

「……そうね、私のご先祖様は、あの魔王を倒した勇者よ。私はご先祖様から言い伝えられてきた、その終末を止めるために現れたの!」


 ワラビが石像の首を()ねる。これで石像は沈黙した。

 勇者の子孫なんて聞いていない。そもそも彼女が旅をする理由すら知らないあなたは、何と声を掛ければいいのか分からずにワラビの様子を窺った。

 (しば)しの沈黙。そんなあなたに、

「……へへ、ばれちゃった。隠しておくつもりだったんだけどね」

 振り返ったワラビが屈託なくほほえんだ。


「でもキミなら、知っててもらってもいいかな、って思ったんだ。わたし一人じゃ倒せなかったよ。キミ、本当にいてくれてありがとう」


 ***


 そして夜が明け、あなたたちは迷子と一緒に町へ帰った。

 迷子を帰したことで依頼の報酬を受け取った。それと動く石像を仕留めた事を子供が話したこともあり、あなたたちはチョビ髭の職員からそれなりの信頼を得た。

 ワラビが勇者の子孫であることは子供に強く言って伏せさせた。また、石像の中から大きな()(はく)を見つけた。これでしばらくは旅の資金に困らないだろう。

 あなたたちはシュラクを去り、次の町へ行くことに決めた。次の町は、エルダン川を越えて街道を北西に進んだ町、「ハトゥーサ」と言う。


「石炭で有名な町だよね、ハトゥーサって。新しい出会いもありそう。さあキミ、早く行こ」


 あなたたちは、次の町へ向かって歩き出した。


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