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首都へ

 時は半年ほど前に遡る――。


「あ、あのな二人とも。今までこっから東としか言ってなかったけどさ、実はあたしの実家、“カタリナ”にあるんだ。あの三兄妹見てたら久々に母さん達の顔を見たくなっちゃってさ、ちょっとカタリナに寄って行っていいかな?」


 オアシスの町・エメローナで起きたアリの一件を終え、次はどの町へ行こうかと考えていたあなたとワラビに、ジュリアが頬を()いて照れながら申し訳なさそうに言った。

 三兄妹とはゼク家の三人を指し、親友のワラビが「なんで隠してたの」と少しムッとして言うと、ジュリアは「ごめんな、行けば分かるんだ、ちょっと恥ずかしくてな」と苦笑いして告げた。


 カタリナは、今まであなたたちが立ち寄ったシュラクにクロロ、ハトゥーサやエメローナなどが属する、共和制国家「ミネルバ」の首都にあたる。

 場所はエメローナより東、「クレッセント(かい)」と呼ばれる三日月状の大きな塩湖沿岸に位置し、産業は水産の他、湖南岸ににじみ出る原油の採掘が盛んである。

 大昔から油井が掘られていたらしく、バレル、体積を表す(たる)の意の単位だが、軽く見積もっても十億バレルは埋蔵されているのでは、と推測されている。このように水と燃料に恵まれた資源豊かな町であるが、かつてこの町はその資源が元で、戦火に見まわれている。

 四百年前、かの魔王が生きていた時代。この町は豊富な資源を狙われ、魔王麾下(きか)の大軍勢に襲われた。

 しかしカタリナの人々は、当時おりしもこの町に訪れた勇者に剣士、魔道士と共に、魔王の軍勢を退けた。街の周囲を高い城壁が覆っているのだが、その時の名残である。また、城壁内も他の街並みとは異なり、道が複雑に入り乱れている。これは侵入した魔王の兵を少しでも迷わせる(ため)の防衛策で、故にこの都市は一国の首都でありながらも、「迷宮都市」などと揶揄(やゆ)されている。

 そして、実態がいまいち不明瞭な東方は除くとして、ここ西方で唯一「魔法学校」が存在する都市である。

 魔王打倒後、この街に住み着いた魔道士が創設したらしい。()ぐ東には国境があり、国境を越えると世界一の権勢を誇る警察国家、ザイオニア王国の領土に入る。


 いずれにしろワラビの目的である終末については今のところ梨のつぶてだ。ジュリアの願いを聞き入れ、あなたたちは一路カタリナへ出発した。

 道中、あなたたちは御者に乞われ、何度か馬車から飛び降りて戦っていた。ステップには遭遇すると危険な生物が三種存在する。うち二種はあなたたちが既に倒したラフゼブラにヴァインレイヴンである。

 残りの一種は『ロック(ちょう)』と呼ばれる鳥だ。この黒い羽毛に包まれた、鉤爪(かぎづめ)のような(くちばし)を備える鳥は、鳥としては最大級の大きさを誇り、成人男性の一人くらいなら軽く覆い隠すほどの翼を持つ。

 巨大な鳥が、空から何の前触れもなく襲ってくるのだ。ただし、大きな図体が災いしてか飛行能力は高くなく、飛ぶ姿さえ発見できればヒトの目でも十分に追うことが可能ではある。

 なおロック鳥とは、元々は伝説に登場する鳥の名だ。ステップの人々からは「ルフ」と呼ばれ、あの鼻の長い巨獣ゾウを、(つか)んで巣に持ち帰った、という実に伝説らしい(いわ)れを持っている。

 そしてこの鳥の名の由来だが、この鳥は一口で呑み込めない大きな餌や硬い餌を前にすると、それを掴んで高度から岩や石の上に落とす習性を持っている。餌を砕いて呑み込み(やす)くする為だが、この鳥は岩と間違えてハゲた男性の頭に餌を落とし、それで男性を死亡させた事例があった。

 馬鹿馬鹿しいと思われるかもしれない。だが、ロック鳥の伝説にもそんな話があり、この鳥は伝承と符合した所以(ゆえん)あってこの名を冠していた。

 このロック鳥を、まずはジュリアが(いしゆみ)で射抜き、続いて落ちたところをワラビが斬ってあなたたちは倒していた。


 馬車に乗って東へ数日進むと、あなたたちは「ダブリース」という、エメローナよりはやや小ぶりな町に着いた。

 西から訪れたあなたたちは、まず街の住民にエメローナの様子を尋ねられた。この街でもアリは崇められており、西で起きたアリの出現は話題となっていた。

 アリを一目見に、最近西へ向かうヒトが後を絶たないと言う。あなたたちはつい最近まで、「うふふ」とよく笑う女王と行動を共にしていたので分からなかったが、やはり、世間を揺るがす一大事であった事を、あなたたちが改めて認識する。

 そして、司直が街を見張っていた。この街でもアリの襲撃があったのだろうか、武装した男がケルベロスの絵が描かれた大盾を提げていた。


 腹を空かせたあなたたちが街の食堂に入る。すると、冷えたレモンジュースがあなたたちをもてなした。

 砂糖水が混ぜられているのか。程よい甘さと爽やかな酸っぱさが、あなたたちの渇いた喉に染みた。

 エメローナと違う点として、この街は水に困っていない。町のすぐ近くには「ジグ(がわ)」という水量豊富な川が走り、この恵みを活かした農業が振興されている。

 乾燥に強い野菜や果実の他、ムギやモロコシの栽培が盛んらしい。また、ジグ川は(はる)か南まで続き、川を南を沿うと「ヒットアイト」という町がある。そんな話をあなたたちは店員のオバさんから聞いた。


 それから食堂から出ると、あの背中にこぶを持つ大型の動物・ラクダが、目抜き通りを我が物顔で(かっ)()していた。

 街の至る所でラクダを飼育していた。どうやらこの街はラクダを名物としているようで、口をもごもごとするラクダにあなたが、いつかのネコを敬うユーダリールにカモメ印の瓶詰を売るシュラクを懐かしむ。

 この街の名産品もある意味目を引いた。「キャメル」と言い、ラクダの乳で作ったキャラメルなのだが、それをラクダ、つまりキャメルとかけているらしい。

 製作には手間が込んだだろう。ラクダの乳は、ウシやヤギの乳に比べると加工しづらい特徴を持つ。そんなキャメルを買って食べてみると、ラクダの濃厚な乳の味が、口内でカラメルの甘味と共にゆっくりと溶けた。

 ワラビとジュリアは、キャメルの味に頬を押さえて喜んでいた。


 ダブリースに戦士会の店は存在せず、あなたたちは長居しないで東へ旅立った。

 ダブリースからは乗合馬車が走っていない。その代わりにラクダの群れ、言い換えてキャラバンが交通を担っていた。

 のっそりと歩くイメージのラクダだが、走ると意外にも速く、その速度はウマより僅かに劣る程度である。そもそもラクダは暑さと乾燥に強く、軍事利用にも適しており、「(らく)()騎兵」なんて兵種も遠国では聞く。

 ラクダに初めて乗ったワラビは、その速さに驚いていた。しかしラクダは、前後の脚を右と左それぞれで(そろ)えて歩く。この歩行を側対歩と言うのだが、ウマとは違う歩行の仕方に、ワラビは慣れないうち少し気分を悪くしていた。


 そんなラクダに揺られて二日ほど()つと、植生が僅かに変化した。

 オークやオリーブなど乾燥に強い()が立っていた。丈の長い草や潅木(かんぼく)も目に付くようになり、緩やかな気候の変遷をあなたが感じ取る。

 さらに進むと、波のようにうねる大地の上に、ぽつぽつと小屋や民家が建っているのをあなたが見かけた。

 畑を耕す農夫も見かけた。変わらないのは北のニウーチェ山脈だけで、草を切り(ひら)いた延々と、蛇行するような果てしない道を、あなたたちキャラバンはひたすら東に向かって歩いた。

 そして、ダブリースを()ってから七日ほど経った日。遂にあなたたちは首都・カタリナに到着した。


「……なにこれ」


 首都の片隅で、ワラビが口を開けてぽかんとしていた。

 あなたも面食らっている。眼前にある家は、まさに(やしき)、いや城である。以前あなたとワラビが迷子を捜しに探索したシュラク東の廃墟(はいきょ)。あれが立派になったような豪邸が目の前に建っていた。

 それだけではない。侵入者を決して許さない高い外壁。それに、訪れた者を威圧するような大きな門。

 メイドまでいる。恰幅(かっぷく)の良い中年の女性が、細やかな手つきで庭に咲く花の手入れをしている。


「だ、だから言ったんだ、恥ずかしいって」


 顔をほのかに赤らめてジュリアが言った。

 いつかジュリアの本名が、貴族みたいだ、などとあなたは思った。だが、その認識を改めた。ジュリアの実家はとんでもない資産家で、ジュリアは、本当に貴族でお姫様だった。


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