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トライ・ステップ! -this story is game fantasy-  作者: 豚煮真珠
QUEST4. 深淵より出づる者
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裂帛

 忘我の女王は妊娠している。肥大した尻の為に動くことは敵わぬだろう。

 しかし、その理性を失った瞳は、確実にあなたと女王を喰らおうと捉えている。そして、

「ウゥアァァァッ! アアッ! アァッ!」

 奇声を発し、その白くて細い四つの腕を、まるで憎い者を叩きのめすかのように激しく石の床に打ちつけた。

 狂った様にあなたと女王がたじろぐ。微弱な揺れが建物内を伝い、間もなくしてあらん限りで叩き付ける腕が、床を砕いて多数の瓦礫を生み出した。

 生み出した瓦礫の内、(てのひら)では収まらない大きな物を、現女王が軽々と掴んであなたに投げつける。


「よけて、あなた様!」


 叫ぶ女王だが、あなたが盾を構えて瓦礫を防いだ。

 しかし、一撃でもまともに喰らえば危ない。へこんだ盾と体を伝う衝撃が、その威力の強さを物語る。

 幸いにも敵はその場から動かない。後ろではワラビとジュリアが戦っていることもあり、可能なら早くけりをつけた方が良いだろう。


「……分かりました。あなた様、参りましょう」


 あなたは単純な策を女王に伝え、それに女王が(うなず)いた。

 女王があなたの後ろに付き、二本の槍を構える。そしてあなたが前進し、その後ろに隠れる女王が、身を(かが)めて後に続いた。

 あなたは自身の体を女王の盾とした。この盾に向かって忘我の女王が瓦礫を投げつける。

 瓦礫をあなたが防ぎ、この投げた隙を突く女王が、前に躍り出て母親の右肩一つを左手の槍で刺す。

 更にもう一つ、女王が右手の槍を上から振り下ろし、母親の頭を力の限り叩く。


「……ヘッ、エヘヘッ」

「なっ、どうして」

「アハ、アハハハッ!」


 しかし効いていなかった。忘我の女王は、頭と右肩から血を流しながらも甲高く(わら)っていた。

 そして代償を喰らっていた。代わりに、

「あなた様!」

 あなたが倒されていた。現女王は手にしていた瓦礫を、近付いたあなたの頭に叩き付けていた。

 敵は体勢を崩しながらの一撃であったため、あなたがすかさず立ち上がる。だが、こめかみの辺りが熱く、頭に喰らった所為か視点が定まらない。

 このおぼろげな意識のあなたを、現女王が手を伸ばして捕まえようとする。だが、その手を女王が槍で払い、あなたを庇いつつ後ろへと退()かせる。


「しっかりしてください。あなた様に倒れられたら、わたくし……」


 よろけるあなたに女王が呼びかけた。そんな様子を見てか現女王は、なおも悦に入った表情で嗤っていた。

 再び腕を床に叩き付ける現女王。()(かつ)に近づけば手痛い反撃を喰らう。


「アンタ! 女王様! 撃つぞ!」


 苦戦するあなたたちを見てかジュリアが、操られる者を討ちながらも弩を現女王に向けた。

 そして引金を引いた。ボルトとも呼ばれる短い矢が、ハヤブサの如き速さで現女王を刺さんとする。だが、

「……くっ、弾きやがった」

 現女王は反応が良く、手で払って矢を弾いた。ジュリアの援護も忘我の女王には通じなかった。


「まさか、動けないのに、こうも戦えるとは」


 息を()む女王。兜に隠れた視線に焦りが感じられる。

 敵は動けぬ割に隙がなかった。あなたと女王が、その()(ごわ)さに認識を改める。

 しかしあなたは、馬鹿げている、とも感じていた。敵の床を砕いて瓦礫を得る戦い方を。

 自傷して戦うなどいずれ破綻する。現に現女王の四本の腕は、もう赤黒く腫れて血塗れである。

 敵も生物、限界を(きた)すだろう。頭の痛みを(こら)えてあなたが、現女王の手が届かない位置まで間合いを詰める。


「アハハッ!」


 なおも嗤う現女王が、砕いて新たに得た瓦礫をあなたに投げつけた。

 しかし、女王が刺した右腕で投げた所為か、今度の投擲はそれほどでもなかった。現女王が弱っていることを、瓦礫を防いだあなたが確信する。

 あなたは、自滅を早めるのが上策と、敵に瓦礫を投げさせる気でいた。投げて手元の瓦礫を失えば、また敵は傷付いてまで瓦礫を生み出そうとする。

 敵が笑っているのも、背のネジレバネがそうさせているのだろう。きっと心の奥では痛みに悲鳴を上げているに違いない。そう信じるあなたが、盾の面を剣で打って現女王の注意を引く。

 耐え続ければいずれ敵は自壊する。しかし、そう思うように事は進まず、あなたの(たくら)みを看過したように現女王が、予想もせぬ行動に打って出る。


「……えっ!?」


 女王とあなたが驚いた。敵が一際大きな奇声を発し、なんと身重の体に構わずあなたに飛び掛かった。

 意表を突かれた。その動きは思いのほか早く、高を(くく)っていたあなたが盾を掴まれてしまった。

 そして、その血走った眼を大きく剥き、現女王が悪鬼の如き表情で盾を引き剥がそうとする。


「いけない! あなた様、今参ります!」


 盾を奪われては瓦礫を防ぐ手段が無くなる。この危機に女王が動き、右の槍を鋭く突き入れた。

 だが現女王は、それを待っていたとばかりに盾から手を離し、上体を反らせて娘の刺突をかわした。

 そのまま近付いた娘に手を伸ばす。そして娘の腕を捕まえ、引き寄せて鎧を裂く。

 現女王が形の良い唇を、まるで呑むかのように大きく開け、

「あっ、いやっ、ああっ、あああああぁっ!」

 娘が動転しながらも絶叫した。母親が、獲物を捕らえたカマキリの如く、娘の首に喰らい付いた。


「女王様!」

「女王さまぁ!」


 女王の悲鳴を聞き、ジュリアとワラビが振り向いて叫んだ。

 あなたが盾で現女王を殴りつけ、何とか女王を引き剥がす。剣を使いたいところだったが、万に一つ女王を盾にされては敵わなかった。

 ふらふらと解放された女王。その背をあなたが抱き止める。


「あなた様。心配、要りません。まだ、戦えます……」


 気丈に振る舞って見せる女王だが、その声はあまりにも弱々しかった。

 あなたが女王の首を覗く。鎧が頸当(くびあて)から胸当まで裂かれ、白き胸元まで大きく露わになった女王の首筋からは、止めどなく血が噴き出していた。

 首は命に係わる急所だ。あなたが女王を背で庇う形で後ろに下がらせる。それに食い下がる女王だが、その抵抗はアリとは思えぬほどに力無かった。


「アハハッ! ハハッ、アハハハハハハッ!」


 ここぞとばかりに忘我の女王が嗤った。手当たり次第に付近の瓦礫を、あなたと女王に投げつけた。

 女王を庇って一身に受けるあなただが、まさに滅多打ち。この狂った乱撃に盾を構える腕が痺れ、衝撃が全身を(きし)ませる。

 耐えながらあなたは反省した。飛び掛かる可能性を念頭に入れ、気を抜かなければ女王は傷付かずに済んだのだ。だから、あなたが後ろで(うずくま)る女王の壁となる。

 しかし、成す(すべ)がなかった。女王が戦えなければ、あなたは一人で目の前の狂った母親に立ち向かわなければならない。


「アンタ! あたしが行くからもう少し耐えてくれ! ワラビ、任せられるか!?」


 あなたの苦境を見てジュリアが呼びかけた。しかし、操られるアリは依然として次から次へと押し寄せていた。

 途切れることを知らなかった。一体を倒しては一体が湧き。以前オアシスが襲われた時のように、倒しても倒してもキリなく現れる。


「わ、分かった。正直きついけど……くぅっ!」

「ワラビ! ……くっ、頼むアンタ、踏ん張ってくれ! こっちを片付けたら絶対行くからな!」


 ワラビは三体を相手に苦戦していた。後ろの二人にも、あなたを助けられる余裕などなかった。

 孤軍奮闘を強いられるあなたに、瓦礫を投げ尽くした現女王が、また床を砕き始める。

 その腕は既にどす黒く腫れているが、限界を知らなかった。次々に生み出される瓦礫。今までの衝撃に体が痺れ、ボロボロのあなたが、朦朧(もうろう)とする意識のなか盾を構える。

 あなたの方が限界に近かった。底の見えぬ忘我の女王。砕いた大きな瓦礫を掴み、あなたに向けて振りかぶる。


 しかし現女王が、――瓦礫を落とした。

 すかさず掴み直そうとするが、上手く掴めずにいる。酷く腫れた手は激しく震えていた。

 間もなくして、落とした瓦礫を諦め、現女王が奇声を発しながら床を叩き始める。だが、砕けない。

 この様子を息も絶え絶えにあなたが見つめる。堪え続けて流れが変わった。あなたが諦めかけていた敵の限界、それが今になってようやく訪れた。

 おびただしい流血に構わず、現女王が叩き続け、そして(つい)に、腕がありえぬ方を向いた。それでもなお叩き続ける現女王だが、折れた腕では床を砕けなかった。


「お母様……」


 それならば、と頭を打ちつけて床を砕こうとする母親に、女王が哀れな声で呟いた。

 床を砕けず、残る手段と歯を剥いて現女王が飛び掛かる。だが、もう同じ(てつ)は踏まんとあなたがかわす。

 すると、背のネジレバネが尾を抜き、翅を振るわせた。もはや現女王を用済みとばかりに、新たな雌に種付けするべく飛び立とうとした。

 これを許すほどあなたは鈍くない。すかさず黒き剣を振るい、ネジレバネを両断した。


「アァ、ア、ア……」


 そして、ネジレバネから解放された現女王は、うつ伏せに苦しんでいた。

 あなたは以前ネジレバネが離れたアリを見ている。あの者は己の罪をしきりに謝っていた。

 だが、殺さなければならない。あなたが斬ったネジレバネが尾を挿していたことから、現女王に巣食っているのは雌だ。それに身籠る赤子は、全てネジレバネに侵されている。

 女王が、覚束(おぼつか)ない足取りで、背を露わに苦しむ母親の前に歩み寄り、

「見ていてください、あなた様」

 四本の手で槍を逆に持ち、その白き背を貫いた。


「さようなら、おかあ、さま……」


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