表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トライ・ステップ! -this story is game fantasy-  作者: 豚煮真珠
QUEST4. 深淵より出づる者
54/237

twin lancer

 白旗を掲げるアリ達が、列を成してバザールに歩を進める。

 鉄の(こす)れる足音が、徐々にあなたたちの耳に響き渡り、程なくしてアリ達がアーケードに入場した。その一糸乱れぬ行進は、今までのアリとは違う規律と理性を、あなたたちを含めたオアシスの皆に感じさせた。

 ただし、武装は解除していなかった。列の先頭を歩く、アリの中で最も背の低いアリは、両の二本の腕それぞれに槍を携えている。

 次のアリが白旗、正確には白く塗装された薄い板金を掲げ、以降は剣に槍に(つち)など各々が得物を構えている。いずれにしろあなたたちを含めたオアシスの皆は、入場したアリ達に警戒を緩めなかった。

 そして、先頭のアリが、右の槍の石突を地に置き、――すうっ、と指を差す。


「勇敢な三名のヒトよ、わたくしの前にいらしてください」


 アリが女性の声で、あなた、そしてワラビとジュリアを順に指差して告げた。

 落ち着いた声であった。皆の視線が集まる中、あなたたちが互いに視線を交わしながら前へ歩み出る。

 向かい合ったあなたたちと先頭のアリ。胸部が膨らんだ鋼鉄の甲冑を纏う彼女は、長身痩躯のアリにしては僅かに幅があり、どこかヒトに近い印象をあなたたちに与えた。と、感じたのも(つか)の間、

「その実力、試させて頂きます」

 あなたの顔めがけ、急に先頭のアリが突きを繰り出した。


「キミ!」

「アンタ!」


 警戒を緩めなかったあなたが、アリの突きを寸でのところでかわす。しかし、

「やはり避けましたか。では、これならどうですか」

 アリが右二本の腕を駆使し、大きく槍を払った。

 左に立つワラビが槍をかわし、あなたが槍を盾で受け止める。だが、この戦法に、あなたは意表を突かれた。

 槍は通常両手で扱う武器だ。ヒトの身では一本が精々で、二本の(そう)(じゅつ)など聞いたことが無い。初めて(まみ)える敵を前にし、あなたは戸惑ってしまった。

 そんなあなたの隙を突き、アリが再び左の槍を繰り出す。これもあなたがかろうじて反応し、盾で防いだが、その突きの(すさ)まじい強さに腕が弾かれそうになる。


「襲われたぞ!」

「やはりアリは俺達を殺す気だ、かかれぇ!」


 その一方、あなたたちに襲い掛かるアリを前にし、周囲では人々がアリに斬りかかろうとしていた。

 しかし他のアリが、先頭のアリを守るように立ちはだかり、

「すまぬ、我々に敵意はない! 今は“女王”の好きにさせてくれ!」

 と訴え、いきり立つ人々を懸命に止める。


退()けアンタ! 撃つぞ!」


 この声を受けてあなたが退き、ジュリアが引鉄(ひきがね)を絞って矢を放った。

 目にも止まらぬ速さの尖端(せんたん)がアリに迫る。しかしそれを、アリが左の槍で打ち払い、弾かれた矢は回転して明後日の方へ飛んでいった。

 ワラビに匹敵する反応の良さにあなたとジュリアが驚くが、まだそのワラビがいる。矢を弾かれても承知の上で畳み掛けるように、

「やぁぁ……っ!?」

 ワラビが上段から斬りかかるが、これも見越したようにアリが、右の槍の穂先をワラビの面前に置いた。

 目の前に刃があって進めない。アリが、苦もなくワラビの斬撃を止めた。


「うふふ、あなたたちの力はこんなものですか?」


 あなたたちを手玉に取ったアリが、くすくすと挑発した。

 しかし、相当の手錬(てだ)れだ。矢を弾いてワラビを止めたことからも、高い実力が推し量れる。

 また、巧みな槍術もさることながら、四本の腕を十分に使う戦い方が非常に厄介だった。見ようによっては二人を相手にしているようなもので、槍という武器は長さがあり、さらに破壊力もある重量武器だ。それをこのアリは、二本も自在に振り回している。

 だが引っ掛かる。ともかく殺気が感じられない。まるで目の前のアリは、あなたたちを値踏みしているよう。

 試すと言っていた。何が狙いなのか。その真意を図りかねるあなたの傍ら、

「アンタ、ワラビ。あたしがやるから頼む」

 ジュリアが、あなたとワラビに目配せした。


「いくよ!」


 気合を入れたワラビが、頭に巻く包帯を捨て、短剣を構えてアリに切り込んだ。

 右瞼はまだ腫れているが、昨日よりかは引いている。ビヤーサと戦ったときのようにジグザクと跳びながら、アリに接近を図った。


「やらせません!」


 アリが右の槍をワラビに突き入れるが、ワラビが紙一重の差でこれをかわす。

 すかさず左の槍を向けるアリ。だが槍が迫るよりも早く、ワラビが懐に飛び込んだ。

 そしてワラビが描く斬撃を、アリが(とっ)()に黒い籠手を構えて防ぐ。この隙を逃さずあなたが狙った。

 ワラビが退くと同時にあなたが盾を投擲(とうてき)し、強引にアリの視界を塞いだ。この盾を()けるアリだが、既に詠唱を粗方済ませたジュリアが近付いており、

「飽くなき闘争の果てに! ――“(ビルス)(キルニル)”!」

 両手で兜を捕まえて電撃を浴びせ、こうしてあなたたちはアリを戦闘不能に追い込んだ。


 ***


「やはり、強い。わたくしの目に狂いはありませんでした。あなたたちの力、(しか)とこの身で覚えました」


 暫くして(しび)れが抜けたアリが、感服の意をあなたたちに述べた。

 まだ立てないようで、足を崩すアリの周りでは、ワラビが首に向かって刀を突きつけ、ジュリアも同じく弩を向けながら、(ビルス)(キルニル)によって失った血を補うべく串焼きを食べている。

 今、皆の視線は、この女性のアリに注がれている。あなたたちのみならず、オアシスの皆も、そして同族も。


「私たちが間違って斬っちゃったらどうする気だったんですか」

「うふふっ、その覚悟なくてはあなたたちの真の力を試せません。わたくしとて武芸を(たしな)んでおりますから、そう易々(やすやす)と斬られはしませんわ」


 ワラビの問いにアリが笑いながらも答えた。

 兜で隠れている為に笑顔は窺えないが、もう敵意は感じられない。それどころか、このアリが笑うと何故か気が抜けた。

 この朗らかな雰囲気を受け、二人が刀と弩を下ろす。どうやらこのアリは、あなたたちの実力を知りたくて刃を向けたようである。しかし、抜き身でそれをやろうなど正気の沙汰ではなく、あなたが息を吐く。

 それにしても、ワラビが敬語を使った。このアリが何者なのか薄々分かっているのだろう。

 女性のアリが立ち上がり、皆に向かって口を開く。


「ヒトの皆様、申し遅れました。わたくしはアリの“女王”です。この度は我が一族が、ヒトの皆様に甚大なる被害を加えたことを、深くお()び致します」


 アリの『女王』からの謝罪を聞き、人々から俄かに歓喜の声が上がった。

 守り神はやはりいたのだ。女王率いるアリ達は、ヒトを襲う同族を駆逐している。

 彼女の落ち着きある声を受け、信心深い者、特にお年寄りなどは深く(こうべ)を垂れる。しかし女王が、困ったようにそれを止める。


「ああ、皆様、やめてください。わたくし達は大した存在ではありません。それに正確には、わたくしは次の女王にあたりますから」


 少し間を置き、次代の女王が皆を見回して言葉を続ける。


「わたくし達は今日、ヒトの皆様にお願いがあって参りました。今、我が一族は二つの派に分かれています。一つはわたくし達、操られぬ一派。そして」


 次の瞬間、アリの遺体に向かって女王が槍を突き刺した。

 目を見開かせるオアシスの人々。引き抜いた穂先には、先ほどあなたが見た、黒い虫が粘液をまとって息絶えていた。


「もう一つは、この“ネジレバネ”に操られる一派です」


 ネジレバネ。聞きなれぬ単語を聞き、人々がざわつく。

 そして女王が、再びオアシスの人々を見回し、それからあなたたちを見つめて頭を垂れる。


「お願いします。この操られる一派を滅ぼすため、どうかヒトの力を我々に貸してください」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ