続く戦い
鉄と鉄の重なり合う音が、鉄火を交えて弾け飛ぶ。
隙を見せた者から、容赦なく肉が切り削がれ、この酷なる運命を前に皆が抗っている。
「ぐはっ、く、クソッたれっ! こんのアリ共がぁっ!」
「ああっ! お、俺、あ、きら、斬られたのか? やべえよ、死にたくねえよ、助けて、くれ……」
ある者は傷付けられて憤怒し、またある者は傷付けられて絶望する。
突如として現れた三体のアリの襲来。それを発端として開かれた戦いは、いつしかオアシスの戦士とアリによる合戦の様相と化していた。
アリ達は途切れることなくぞろぞろと、このバザールに押し寄せた。今夜、町の存亡に関わる危機となった。このような事態を一体だれが想像できたであろう。
「……ゴフッ」
アリが吐血した。湧くように現れるアリの一体を、あなたが剣で突き刺して葬った。
そして少し退き、汗を拭うあなた。街の若い女性が戦うあなたの為に飲み水を持ってきた。
いま街の人々は、この南北に入口を持つアーケード内に避難していた。つまり、人々はバザールに立て籠もり、その入口を塞ぐような形で戦士たちが対応している。
戦士たちは二手に分かれた。あなたたちは南のゲートを、ゼク家の兄妹と母親は北のゲートにあたっていた。
「おい小僧! 無茶すんな!」
「心配は無用さ! 俺が街を守るんだ、喰らいやがれっ!」
戦況は悪くない。今も駆け出しの歳若い戦士が、ベテラン戦士の諫止を振り切り、前に躍り出てアリに剣を突き立てた。
倒れるアリ。全身を甲冑で固めるアリだが、幸いにも強い訳ではなかった。力は有るものの動きが鈍く、関節部にあたる甲冑の隙間を狙うことは駆け出しでも可能であった。
また、アリに指揮官がいないことも幸いした。統率が全くとれておらず、敵はただ疎らに攻め寄せて来ている。
陣を組むことも一斉攻撃を仕掛けることもなかった。しかし、キリがなく、いくら倒しても倒してもアリは次から次に現れる。
「うわっ!」
「ほれ見ろ、言わんこっちゃねえ! 後ろに下がって傷を治してろ!」
先ほど一体を仕留めた駆け出しが軽傷を負い、それにベテランが身の程を弁えろと叱った。
そしてベテラン戦士がアリを倒す。だが肩で息をし、疲労の濃さが見て取れる。
それでも弱音を吐くわけにはいかないと、ベテランが疲れを押して立ち向かう。黎虎の時を迎えただろうか。物量に任せたアリの波状攻撃が、もう二刻ほどのあいだ続いていた。
「はぁ、はぁ、……このぉっ!」
「くそう、しつけえな。いつまで現れるんだコイツら!」
断ち切るワラビにも、矢を放つジュリアにも、疲れと苛立ちと焦りが窺えた。
渇いた喉を水で潤し、あなたが戦線に戻ろうとする。だが、
「う、ぉぉ……」
あなたが仕留めたはずのアリが、身を震わせて呻き声を上げた。
アリが仰向けに寝返りをうつ。とどめを刺し損ねたか、とあなたが、改めて剣を喉元に向けたところで驚く。
「天」の字に寝転がるアリ。悶えるようにしてしきりに体を震わせている。そして、その懐から、なんと翅を備えた一匹の大きな黒い虫が這い出て、もう用済みだと言わんばかりにアリの体から飛び立とうとした。
その様がどこか不快だったので、飛び立つ前にあなたが、捩れたような翅を持つ黒い虫の頭部を払う。
「うぅぅ。ああ、あなたは、ヒトか……」
あなたが苦しむアリから話しかけられた。
アリは今まで野獣のような叫びか唸りしか上げなかった。言葉を喋る初めてのアリに、あなたがまたも吃驚する。
縋るようにアリが、右手を一つ上げ、そして「すまん、すまん」と、うわ言のように謝る。
「意識はあったのだ。しかし“あれ”に取り付かれると、どうしても逆らえなくなるんだ……」
程なくしてアリが吐血し、言い残すようにして息を引き取った。
先の黒い虫を「あれ」と指したのか。確かに今の虫は、まるで今死んだアリに憑りついていたようだった。
四百年ぶりに現れた守り神。それがヒトを襲う理由は、何か訳があるのかもしれない、などとあなたが考える。
そしてあなたが戦線に戻ると、ようやく終わりが見えていた。
残るアリは数にして六体。あなたが外を見渡すが、増援はなさそうである。
終わりが見えなかった戦いの終着を感じ、
「頑張れ、あと少しだ!」
南のゲートを守る皆が奮起する。
あなたも奮起した。あなたが前に躍り出て、軽く二体を葬る。
三体はオアシスの戦士たちが仕留めた。そして残る最後の一体は、ワラビとジュリアが倒した。
「や、やっと終わった」
「何とか、助かったね……」
倒れるように座り込んだジュリアとワラビ。オアシスの戦士たちは勝鬨を上げている。
しかし、南に押し寄せるアリを片付けただけだ。北の戦況は分からない。
まだ終わっていない、などとあなたが、息を吐くワラビとジュリアを起こし、北のゲートへ走ろうとするが、
「うん? おっ、おいっ! あれを見ろ!」
一人の戦士が、狼狽した様子で皆に呼びかけた。
あなたたちを含めた皆がゲートの外を望む。すると、今度は今までとは比較ならないほどのアリの大群が、こちらに向かって歩を進めていた。
「なんだよ、ぬか喜びさせやがって。何が、守り神だよ!」
「もう終わりだ。俺達に、明日はないのか……」
ある者は自棄を起こし、ある者は消沈する。
いま動ける戦士は、あなたたちを含めても十人いるかどうか。それに対してアリは、見えているだけでも五十を超えていた。
希望を見出せなかった。暗い雰囲気が立ち込め、これをまずいと思ったあなたがある決断をする。
あなたは、皆を再び奮起するべく特攻しようと考えた。あまりにも危険だが、策もない現状の今、こうでもしなければ士気が保てない。
相次ぐ戦闘で気持ちが昂っていることをあなたが自覚する。そして、あなたが吼え、アリの大群に向かって外に飛び出した。
「ちょっとキミ! なに一人でヒーローぶってんの! 」
「そうだよアンタ、あたしらを置いて行くな。……アンタ、あたしが危なくなったら、また助けてくれよ」
これに我先と続いたのがあなたの仲間で、ワラビとジュリアがあなたを追いかけた。また、
「おい! よそモンに後れをとるな! 続けえ!」
オアシスの戦士、果ては戦士じゃない者まで得物片手にゲートを飛び出した。
冷静に考えれば、ただの蛮勇である。だが蛮勇とて時として、皆に勇気を与える。
あなたの勇気は皆に届いた。後は切り込むだけ。勝算は分からない。しかし、この勢いだけは止めるわけにはいかないと、あなたが走りながら剣を抜く。
近付くアリの大群。ところが、
「ねえキミ、ジュリア! あれ、何かおかしいよっ!」
遠くからでも分かるアリの異変に、あなたたちが足を止めた。
「同士、討ちか……?」
干戈の音が聞こえ、暗闇に溶け込む黒き甲冑同士が激しく争い合っている。
アリが、アリ同士で戦っていた。これを見て街のヒト達が安堵する一方、あなたたちが注意深く観察する。
「ねえ。アリ、喋ってない?」
「ああ。動きも違う。仲間割れしてる一方は、今までとはなんか違うぞ」
目を凝らすワラビとジュリアが、争うアリの一部に異質なものを感じていた。
そうして暫くが経過し、アリが同士討ちを終える。
生き残った半分弱のアリ。その内の一体が、白い物を巻きつけた長い棒を担ぎ、
「……白旗!?」
それを振りかざしてあなたたちを含むオアシスの皆に、争う意志がない証を高らかに示した。




