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トライ・ステップ! -this story is game fantasy-  作者: 豚煮真珠
QUEST4. 深淵より出づる者
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裏切りの守り神

 始鼠(しそ)の時を迎える頃だろうか。閑散としたアーケード内に、鉈に似た物を持つ三人の影が立っている。


「ワラビ、アンタ、気をつけろ。あいつら手に何か持ってるぞ」

「うん。輝く光よ、今こそ……」


 夜中のためハッキリとした姿は窺えない。そこでワラビが火神(アグニ)を唱え、手にする松明に火を(とも)した。

 だが、松明が照らす姿にあなたたちが(きょう)(がく)する。何故(なぜ)ならば三人が、あまりにも異様な姿をしていたからだ。

 三人は一様に、騎士の如き黒の甲冑を身に纏い、黒の丸い鉄兜を被っている。

 顔は兜が隠しているため窺えない。そして、

「ちょっと待って! あの腕、どういうことっ!?」

 目の当たりにしたワラビが叫んだ。三人の肩には、細くて長い腕が二つ、つまり、計四つの腕が両肩に備わっていた。


「なあ、あたしたち、夢でも見てるんじゃねえよな……?」

「ありえない。本当に、“アリ”、なの……?」


 いざ目の前にすると、(にわ)かに信じられなかった。

 壁画が想起される。今日昼間に見た、判を押したような黒い絵の存在が、確かに今、目の前に立っていた。

 あまりにも現実離れした存在がワラビとジュリアを()(ぜん)とさせる。だが、あなただけが剣を抜き、盾を構えて三人に臨む。


「お、おいっ! アンタ、やりあう気かっ!?」

「いいのキミ!? 本当に、あれと戦うの!?」


 あなたの反応を前にして二人が狼狽(ろうばい)した。思い(とど)まった方が良いのではないか、と。

 だが、あなたは()退()けた。眼前の三人が何であれ、足元には男が倒れており、そして否定しようともしない。

 この三人が、男を斬ったと見て間違いないだろう。奴らはヒト殺しだ。そうあなたが今の状況を指し、話が通じる相手ではないと二人に強く示す。

 それでも、迷っている二人。そしてそこまでだった。迷い分かれるあなたたちの隙を突くように、黒い甲冑の三人が、鉈に似た得物を振るって駆け始めた。


「くっ、戦うしか、ないのか」


 ヒトに似ていること、それと守り神という存在が災いした。緊急時で()む無く、といった例外もあるが、基本ヒトを殺すことは法によって禁じられている。

 この国において殺人の罪は重い。そうでなくとも教義としてヒトを傷つけることはためらわれる。だからか二人が、短剣に鎖分銅と、殺傷能力の低い武器を構えた。

 しかし、殺意を持った敵にそれで敵うのか。敵は武装していることもあり、あなたが、二人の迷いを叱って断ち切ろうとするが、

「アンタッ、来たぞ!」

 そんな暇はなかった。敵の一体があなたに接近し、黒く厚い刃を振り上げた。


「アンタ!」


 叫ぶジュリアだが、――ガゥッ、と、盾に食い込んだ刃。

 敵の斬撃はワラビやビヤーサに比べれば稚拙で、あなたは難なく防いだ。

 しかし重たかった。敵は長身とはいえ、痩せた()のような体付きをしている。力があるとは思えない。

 想定外の馬力にあなたが認識を改める。そこへ、もう一体が鉈に似た得物を、斬撃を受け止めたばかりのあなたに向かって振りかぶる。


「止まれ!」


 ジュリアが振りかぶる敵の腕に鎖を絡ませた。しかし、

「うっ、わわっ!」

 鎖を絡ませた程度では敵を止められず、逆にジュリアが絡ませた鎖を引っ張られた。

 敵が矛先を変え、ジュリアを刺そうとする。だが、それをあなたが盾で殴って何とか食い止める。


「あ、アンタ、ごめんよ……」


 謝るジュリア。しかし構っている暇などなく、敵が再び繰り出す重い斬撃をあなたが剣で受け止める。

 一方、ワラビもためらっていた。もう一体の斬撃をかわすだけで、攻撃を積極的に仕掛けていなかった。

 地に落ちた松明がワラビと敵を照らす。いくら回避が得意なワラビとはいえ、斬られれば一撃で致命傷となる斬撃を相手取れば、いずれ疲れが表れ、反射神経も鈍る。

 攻めなければ事態など好転するはずがない。増してワラビは以前のケンカが原因で右目が利かず、遠近感が狂っている。

 そんなワラビが逃げ切れるはずもなかった。敵の突きに、ワラビが身を捻ってかわそうとするが、

「あっ!」

 切っ先が着物に引っ掛かり、ワラビが動きを封じられた。

 動けぬワラビの首を敵が強引に(つか)む。そして、

「あうぅっ! ううううぅっ!」

 その小さな体を持ち上げ、ワラビを絞め殺そうとする。


「てやあああぁっ!」


 だが、ワラビの危機を救ったのは、ゼク三兄妹末妹・ビヤーサだった。

 駆けつけた彼女が、素早く一体の首を斬りつけた。その軌道は鎧と兜の隙間を縫う一撃で、まさに一分の狂いもない正確な斬撃によって一体が血を()き散らしながら沈んだ。

 迷っていたワラビとは対照的である。そして()き込むワラビを、未だ鼻をガーゼで覆うビヤーサが見下して叱る。


「なに眠たいことやってんのよ。ふんっ、情けないわね」

「げほっ、……で、でも」

「でもじゃない、言い訳すんな! ねえあんたたちっ! これでクマの時の借りは返したかんね!」


 ふんぞり返ってビヤーサが、あなたとジュリアに向いて言い放った。

 自信家の彼女らしい。しかしそんなビヤーサに、あなたとジュリアを襲っていた一体が刃を向ける。


「アニィ!」

「おう!」


 気付いていたビヤーサが下の兄を呼ぶと同時、盾を構えたシャイバニが身を(てい)して妹への凶刃を止めた。

 ビヤーサは敵の刃に見向きもしていなかった。この呼吸はさすがに兄妹であり、

「今度ばかりは母さんになじられる訳にはいかないからな、うおおおっ!」

 シャイバニが汚名返上とばかりに、そのまま盾を押し付けて敵を倒す。更に、

「どけ、シャイバニ」

 すかさず上の兄スレイマンが、倒れた敵の首を槍で貫く。


「うおおあぁっ! ブッ殺してやる!」


 突如上がった野蛮な叫び声にあなたたちが振り向けば、そこには鬼の如き形相をした三兄妹の母親がいた。

 残る敵の一体に、母親が襲い掛かる。そして得物の特大バトルハンマーを、敵に渾身(こんしん)の力で打ち付けた。

 これに敵が潰れた。二本の左腕が弾け飛び、そのひしゃげた痕がとても痛ましい。

 こうして、ゼク家の戦士達によって戦いが終わった。


「ふぅ。(とし)甲斐(がい)もなく張り切っちゃったよ。しっかしこれ、どういうことだい? この姿、どう見てもアリにしか見えないんだけど?」

「うむ。長身痩躯に四本の腕。俄かには信じられんが、我々の守り神が四百年ぶりに現れたことになるな」

「そして守り神がヒトを襲った、か。……うん? すると兄貴、最近ノマドが襲われているだろ? まさか」

「早まるな。だが、その疑いは十分考えられる」


 母親と兄二人が、三つの遺体を確かめて見解を述べた。

 この騒ぎに人々が松明を持って現る。皆一様に、息絶えた守り神の姿を見て驚いている。


「アリだ、アリだぞ。四百年ぶりに現れたぞ」

「偽者じゃねえよな。本当に、いるんだな……」

「見ろよ、腕が四本あるぞ。鎧も着ている、言い伝えの通りだ」

「おお守り神様、おいたわしき姿になられて……」


 信心深い老人などは、守り神であるアリの無残な姿に心を痛めていた。

 あなたが懸念する。成り行きがどうであれ、ゼク家の戦士達は守り神を(あや)めた。だが、それも取り越し苦労に終わる。


「なんでアリが死んでんだ? ゼクの戦士が殺したのか?」

「バカ言ってんじゃねえ! 確かにやっちゃあいるが、あのヒトらが理由なく殺すワケねえだろ! それに見てみろ、アリも鉈持って、家畜売ってた男が殺されてるじゃねえか」

「俺達の守り神であるアリが、ヒトを襲ったっていうのか」

「昔話じゃあアリは、ヒトに友好的だったんじゃねーのかよ。とんでもねえ(うそ)だったんだな」

「何の為にじゃ。わしゃ認めん、……認めんぞ」

「嘘じゃあ、守り神様がヒトを襲ったなぞ、うそじゃあぁ……」


 思い思いに述べる街の人々だが、大体はアリが、ヒトを襲ったという事実に(ひど)く落胆していた。

 同時に、守り神を殺しても責められないことから、街の人々がゼク家へ寄せる信頼が推し量れる。もし自分たちだけだったら、すんなりとは許されなかっただろう、などとあなたが(あん)()する。

 古代より伝わるヒトならざる者「アリ」。彼らは守り神として崇められてきた。だが、その約四百年ぶりに姿を現した守り神は、皆の期待を大きく裏切る形での登場となった。

 そもそも何故アリが、今この時になって現れたのか。皆目見当が付かない。

 あなたが遺体を目で調べてみるが、その腕がフェイクという訳でもなさそうだった。


「ま、何にせよよかったぜ。あんたらが無事でよ」

「我々は格好悪いところを君達に見せたままだったからな」


 シャイバニがにっかりとした笑顔を、スレイマンは僅かに口角を上げてあなたたちに言った。

 あなたたちが兄二人と母親に礼を述べる。しかし、一人外を眺めていたビヤーサが、

「あっ、あにぃ! そと、外!」

 慌てふためく様子で指を差し、アーケードの外を見ろ、と言う。


「な、なんだいありゃあ……」

「クッ、まだ終わってねえようだな。おい誰か! 早く戦士会に行って、この街の危機だと伝えてきてくれ!」


 外の様子を眺め、シャイバニが街の人々に呼びかけた。

 黒光りする影が、闇のあちこちに浮かんでいる。外では同じ黒き甲冑を着けるアリたちが、このバザールに向かってぞろぞろと歩いて来ている。

 二人は大丈夫だろうか。あなたが二人に戦えるか、確認の為に問う。

 問いに逡巡(しゅんじゅん)する二人。だが間もなくして、

「……キミ、ごめん。私、戦う。ちゃんと戦うよ」

 とワラビが言い、我が身と街を守るため、二人が迷いを捨てた眼差しをあなたに向けた。


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