fun shopping
「じゃあな、お前ら。縁があったらまた会おうや」
カイホウを弔う宴が終わった翌日。あなたたちは猟師・カイチン、猟犬・シシンと別れた。
ジュリアに懐いていたシシンだが、さすがに誰が飼い主かは分かっていたようで潔くカイチンに従った。ただし、「俺のこと忘れんなよ」と言いたげに、シシンは別れ際ジュリアに向かって何度も吠えていた。
ワラビとジュリアは「女将さんのこと、頑張ってね」と、最後までカイチンをからかった。これに対してカイチンは「余計なお世話だこのクソガキ」と悪態を吐き、こうして彼とシシンは、兄・カイホウが眠るイゾルド山へと戻って行った。
そのイゾルド山をあなたが見上げると、峰が仄かに白んでいる。
さて、あなたたちはこれから広大なステップ地帯に入る。
季節は寒くなる。前述しているが、ステップは空気が乾燥している所為で寒暖差が激しい。今まで以上の防寒対策をしておかなければならないだろう。
「ワラビー、こんなのあったぞ。おまえんち東の方に、こんな服着たヤツいなかったか?」
「うわっ、黄色と黒の縞模様って、……“キタロー”かな?」
「そうそれだ、キタローだ。ふふっ、ワラビ、着てみろよ? おまえが着たらきっと似合うぞ」
「えー、やだよ。そんなの着て、夜中お迎えに来られたら困るし」
「いうこと聞く善い子にしてれば大丈夫だろ。ふふっ」
黄色と黒の縞模様という、まるでクモのような柄をした目に痛い外套を、ジュリアが「へぇへぇへぇ」と妙な節の鼻唄を歌いながら棚の上に戻した。
ワラビも歌っており、店員が奇異な目を向けている。あなたたちは寒さ対策の為に、いま宿場町・ベリニの市場で、外套を探しにショッピングをしている。
このベリニという町は、あなたたちが山越えする前に訪れたブランジに似ていた。
あちらは山裾の西に位置し、こちらは山裾の東に位置する。宿場町という性格からも当然かもしれない。だが、市場の規模に限ってはブランジより大きく、半ばマーケットと言ってもいい露天商の群がそこかしこで開かれており、その露天の一つで、あなたたちはいま外套を物色していた。
これからトリスタ半島へ向かうヒト、またはあなたたちのように半島からステップへ向かうヒトで行き交うこの町は、湖より流れるイーズ川の下流に位置し、戦士会の店もブランジと同じく存在しない。
「なあアンタ。あたしこれにしようと思ってるんだけど、どうかな? 変じゃないかな?」
ベージュ色のクロークに身を包んだジュリアが、あなたに似合っているかと尋ねてきた。
答えるまでもなかった。女性にしては背が高く、その上にスラリとした体型、加えて容姿が良い彼女は、何を着ても大体サマになっている。
だから良いんじゃないか、といった旨をあなたが伝えた。すると彼女は、
「そっか。アンタが良いって言ってくれるなら安心だ。じゃあ買ってくるよ」
と、喜んで買いに向かった。
このジュリアという赤い髪の女の子、どうやら中々に、東の文化に明るい。
ワラビと気が合うのもそれが一因で、二人は「キタロー」だの「つんでれ」だの、二人にしか分からない単語を時々交わし合っていた。
マンガという娯楽の影響なのだろうか、などとあなたは二人の会話に首を傾げている。ちなみにあなたは、既に防寒用の衣類を持っているため二人の買い物を待っている。
「ねえキミ。どう? 私これにするね」
続いてワラビが、あなたの前で身を翻した。
クロークの柄は濃緑を下地に、蔦のような模様が白で描かれている。唐草模様という柄である。
よくぞこんな目立つ、且つ珍しい柄の外套を見つけたものだ。しかし、フードを被ってクロークに身を包んだ背の低い彼女の姿に、あなたはこれを何と表せば良いかと頭を悩ませた。
既視感があった。たしか、明日晴れるように、と吊り下げる東方の風習だ。そこへ購入を済ませたジュリアが戻り、その答えをパッと導く。
「あははっ、“てるてるぼうず”みたいだ」
「ええっ!? 誰がてるてるぼうずよ!」
***
馬車が蹄鉄と車輪の音を、目抜き通りに響かせる。
車輪を回す馬車が今、並走する牛車の横を駆け抜けた。だが、お先とばかりに一頭の駿馬が、歩く牛車と走る馬車の間を軽くすり抜けていった。
今、ベリニの街は大忙しであった。ヒトに荷車、ウシやウマが、忙しなく街中を駆け巡っている。これはあなたたちがクマを退治したことに因った。クマの脅威が取り払われたイゾルド交社は、直ちに山の交通規制を解除し、その所為で今まで街に詰め掛けていた人々が、山を越えようと一斉に動き出したのである。
この混雑はしばらく続くだろう。そんな目抜き通りの端っこを、外套の購入を済ませたあなたたちが歩いていると、
「あっ、武器屋だ。ねえ二人とも、ちょっと見に行こうよ」
ワラビが武器を並べている露天商を見つけ、あなたとジュリアを誘った。
「へい、いらっしゃい」
気の良さそうな笑顔を浮かべる店主のお爺さんは、ターバン、つまり頭に布を巻いていた。
行商人だろうか。浅黒い肌に白い髭を生やし、いずれにしろ街のヒトとは違う雰囲気を漂わせていた。
あなたたちはそろそろ武器を新調しようかと考えている。武器は消耗品であり、いくら手入れを怠らずとも使い続けられる物ではない。特にワラビの得物二つは、彼女自身がまめに研いではいるが、それでもワラビは最近「ちょっと切れ味が鈍っているかも」と悩んでいた。
ワラビの得物は刀だ。ここ西方で売られている店は少ないが、異国から来た商人なら取り扱っているかもしれない。
「わしゃークマ退治に手こずっていると聞いて、戦士がいっぱい来るかと思ったんだがなぁ。当てが外れちまったよ、カッカッカ」
店主のお爺さんが、くしゃっとした笑顔であなたたちに言った。
「まあ好きなだけ見とってくれ。買ってくれりゃー更に嬉しいがね」
パイプをふかすお爺さん。あなたたちが並べてある武器を見る。
やはり珍しい物が置いてあった。「シャムシール」と呼ばれる身が湾曲した剣があれば、「チャクラム」と呼ばれる外周に刃の付いた投擲用の輪があり、その他にも、どう使うんだと首を傾げたくなるような武器が色々と陳列されていた。
しかしいわゆる「通」向けな武器ばかりではなく、普通に斧や槍なんかも置いてあった。そこへワラビが、ある武器を手に取る。
「ねえおじいさん、これも売り物?」
「おおっ、嬢ちゃん買ってくれるか。これは“コピス”っつー剣でな、妙な形をしておるが、大昔によく使われていた歴史ある剣なんじゃよ」
「ふーん。ちょっと試し切りしていい?」
「ああ、ええよ」
ワラビが手に取った短剣は変わった形状をしていた。片刃で、刃が途中から「C」型に緩く湾曲していた。
突くには向かないが、斬るには向いていそうだ。そんな短剣を握ったワラビが、まずは一太刀、試し切り用に置いてある新聞の束を切る。
新聞の束はスパッと切れた。鎌で稲穂を刈り取るような感じで。
「刀じゃないからどうかなって思ったけど、割といいかも。キミ、もうちょっと切ってみるね」
ワラビが他に切れる物を探しに行った。
ジュリアは要らないのだろうか、とあなたが目を向けると、
「…………」
ジュリアはジュリアで、陳列されてあった弩を手に取り、真剣な目をして見つめていた。
やがて、弩を一頻り眺め終えたジュリアが、お爺さんに試し撃ちしてよいか尋ねる。
「なあ爺さん、このクロスボウ、……そうだな、二刻ばかり借りていいかな?」
「二刻も? まさか嬢ちゃん、そのまま持って逃げたりしないだろうな?」
「しないしない。信用できないならお金も置いてくよ」
使い心地を確かめるのに二刻も要るだろうか。それをあなたがジュリアに訊くと、
「ああ、アンタたちの剣と違ってさ、弩って複雑だろ? 信用できるまで撃ち込みたいんだ、なんせ命に係わるんだからさ」
納得する答えを得た。確かに引金を引き、思い通りに矢が飛ばないようでは買うに値しない。
しかし、新しい弩の購入は難航した。しばらく撃ったところで、ジュリアはお爺さんに「威力を弱めてもいいから、もうちょっと弦を引きやすくしてくれ」と注文した。
弩という武器、射出する所にあぶみのような物があり、それに足を入れてから弦を引っ張るのだが、その弦が固くて引っ張りづらい、とジュリアは難癖をつけたのだ。
これを受けたお爺さんは「若いくせに中々厳しいのう」と呟きながら弩を調節した。板ばねを変えたり、弦を別の素材に変えたり、と見ていて中々に面倒くさそうな作業であった。
しかも一度ではなかった。こういったやりとりを何度か済ませた後、日が暮れる頃になってようやくジュリアが納得した。
確かに弩は精密な機械だ。ジュリアの言い分はもっともである。だが、ジュリアの買い物の長さに、
「ジュリアまだー?」
あなたとワラビが些かげんなりした。
こうしてあなたたちは一風変わった二本の短剣「コピス」と、軽量のクロスボウ「ジャーハ」を購入した。




