表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/237

revenger

 (ひつぎ)。その大きな木箱に遺体が納められ、棺は「(ひつぎ)」に変わった。

 それから、(まき)で組んだ台の上に柩を載せ、二度と目を覚まさない命の恩人の為に、あなたたちは花を(ささ)げた。


 猟師の兄弟が湖の畔に戻った日の夕、亡くなったカイホウの葬儀が執り行われた。

 葬儀はこの国の風習に合わせ、火葬にて執り行われた。街の住民はクマの件で殆どが避難しているため、神父のいない簡素な葬儀ではあるが、この火葬に弟・カイチンから異論はなかった。

 あなたたちが少ない街の住民と共に、木棺の蓋を閉める。そして、木棺の上に山ほどの(わら)を掛け、松明を持つカイチンが台の薪に火を掛けた。

 藁の隙間から煙が上がった。やがて藁も燃え、舞い上がる火の粉と共に、カイホウの魂が天へ(かえ)る。

 また、肉体は地に戻る。陽も沈んだ頃、あなたたちを助けたカイホウという存在は骨だけになり、この骨をカイチンが砕いて欠片(かけら)(つぼ)に集めた。

 だが、左の親指にあたる骨だけは砕かずに握り締め、形見として肌身離さず持っておく、とカイチンは告げた。


 そして葬儀が終わって夜が更け、時刻は終猪の時にあたる。

 女将が営む宿のラウンジ。そこのソファーでカイチンが、槍と酒杯を傍らに置いて構えるように座っていた。

 酔っている様子は見受けられない。テーブルの上に酒杯は二つあり、一つは兄の骨を納めた壷に捧げられている。

 また、寄り添うように白黒のイヌがいて、そのカイチンの元にあなたたちが訪れる。


「あの、カイチンさん、……ごめんなさい」

「ごめんなさい!」


 ジュリアが謝り、ワラビが目をつむって謝り、そしてあなたもカイチンに謝った。

 あなたたちが元で兄が亡くなったのだ。言いたいことなど山ほどあるだろう。あなたたちはどんな罵倒でも受け入れる気でいた。

 (ほぞ)を固めるあなたたち。ところが、

「……気にすんな。それよりも、兄者の為に花を摘んできてくれてありがとうな」

 責めるどころか、逆にカイチンはあなたたちに礼を告げた。


「えっ、……怒ってないの?」

「なに言ってやがる。俺たちだって見誤っていたんだ。あのクマは、俺たち兄弟が思っていた以上の化物だったんだ。だからおまえらが気にすることじゃねえ」

「でも」

「へっ、俺は誰も恨んじゃいねえよ。あのクマだってな。俺と兄者はいつだって覚悟をもって動物を狩ってきた。それが逆になっただけのことだ。ま、こりゃ猟師の宿命ってヤツだな」


 流石(さすが)は戦士会で名を()せる男。並の戦士とは覚悟が違っていた。

 猟師は獣の命を奪って生活している。言わば肉食の野生動物と同然の日々を過ごしており、しくじれば、命が逆に奪われることを彼は猟師ゆえに理解していた。

 命の重さが分かっているからこその覚悟である。あなたたちが敬意と共に驚嘆する。もし自分が似たような事態に陥った場合、このような取り乱すことのない鷹揚(おうよう)な態度を取れるだろうか、などとあなたが思ってしまう。

 そんなカイチンが、ワラビとジュリアに振り向き、

「悪いな。お前らを脅かした俺も浅はかだった。脅かせば諦めるだろう、なんて俺は踏んでいたんだが……」

 と、()びるように告げた。


「まあ、こうなっちまった以上オレは手を引くつもりだ。お前らも戻れ。そのうちもっと(つえ)え戦士か司直が、あのクマを退治しに来るだろう」


 そして諦めるよう促すカイチン。彼はワラビとジュリアを侮辱した訳ではなかった。

 若い娘の二人を心配したのだろう。結果的にそれが挑発となり、二人に火を()け、そして兄を亡くしたことを彼は悔いていた。

 言葉遣いこそ乱暴だが、彼は、思ったより優しい。しかし本題はここからだ。

 兄を亡くした目の前の男は、今から言うエゴに必ず怒るだろう。なんて身勝手だ、まだ懲りねえのか、と。

 優しい分だけ怒る姿が想像できた。だが、このままではあなたたちの気が済まず、あなたが、そのエゴを告げる。


「ああっ!? ふざけんじゃねえぞ!」


 やはりカイチンは激昂(げきこう)した。


「何の為に兄者が死んだと思ってる!? 俺ら熊殺しの兄弟をナメてんのか!?」

「でも、あたしたちの所為でお兄さんが」

「気にするんじゃねえって言ってんだろ! このっ、駆け出しのくせに生意気いいやがって! そんなに死にてえなら、今すぐ俺が殺してやる!」


 興奮するカイチンが、傍らの槍を掴んで立ち上がるが、

「うわっ!? おいこら、“シシン”、どけっ!」

 すかさずカイチンを、「シシン」と呼ばれた白黒のイヌが飛び掛かって止める。

 そして、シシンがしきりに吠え、子ネコを抱えた女将が何事かと奥から現われる。

 カイチンが、諦めて座る。


「……チッ! お前らペーペーがあのクマに敵うわけねえだろうが! なんだ俺は、お前らの骨まで拾ってやらなきゃならねえのか! 拾えるわけねえだろ、ふざけんじゃねえ!」


 ふんぞり返ったカイチンがあなたたちに(わめ)き散らした。

 あなたたちは、カイホウの遺体を見て決心した。あのクマを、絶対に倒すと。だからあなたたちは「戻れ」と言った忠告を断り、カイチンが憤っているのである。

 カイチンからしてみれば、まさに身勝手としか言いようがない。気にするなと言っているのにあなたたちは勝手に気にして、熊殺しとまで言われる自分たちが敵わなかったあのクマを、身の程も(わきま)えずにまた倒そうなどとほざいているのだから。

 何のために兄が死んだのか。だが、いくら気にするなと言われても、戦士であり助けられたあなたたちはそれを看過できず、

「カイチンさん。あのね、私たち助けられた恩を返したい。あのクマを倒して、お兄さんを供養したいの」

 ワラビが思いの丈を訴える。

 そして、そのためには猟師であるカイチンの力が必要。カイホウを弔うためにも、あなたたちはカイチンに力を貸してくれと頼んでいた。


「だからお願い。私たちに、力を貸してください」

「おいこら、力を貸すも何も、おまえ腕吊ってんじゃねえか」

「それは問題ない。骨は折れてないし、あたしが治癒魔法を唱えている。こいつの腕はあと七日もありゃ治る」

「なんだとぉ、……お前ら、本気で言ってるのか」


 あなたたちが頷き、その頷いたあなたたちの真っ直ぐな瞳に、カイチンが押される。


「心配しないでくれ。あたしたち、次は絶対に勝ってお兄さんの(かたき)を取って見せる」

「もう油断しない。カイチンさんの力があれば、私たち、必ず勝てるの」

「なんだその根拠。あのクマに勝てる自信があるってのか? ……いや、ダメだダメだ。盾のあんたはともかく、お前ら二人がクマに勝てるとは到底おもえねえ」

「ならカイチンさん、せめてあたしたちの腕が通用するか見てから決めてくれ。それでダメだったなら諦める」


 二人の熱意に押され、カイチンが渋々折れる。


「……ふんっ、俺は厳しいぞ? ダメだと思ったら直ぐに帰すからな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ