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終末

 ザイオニア王国の太子でありながらも、その剣技は鮮やか且つ流麗で、仲間として友人として勇者が最も頼りとした()(だい)の剣士・ヒートラ。

 祖国の危機、そして信仰する神を守るため、女の身一つで敢然と魔王に立ち向かい、やがて勇者と出会って共に戦った宗教国家の姫君・ゼノビア。

 (しゃく)(ねつ)の業火を操り、天をも切り裂く雷鳴を呼び寄せ。その(たぐい)(まれ)なる(えい)()は万物の(ことわり)を知り尽くし、後に魔法の祖と(たた)えられる褐色銀髪の天才魔道士・ダビデ。

 そして、勇者・ウル。いかなる苦難にも(くじ)けぬ不屈の闘志を持ち、彼の諦めない心こそが、この世界を救った――。


 彼ら四人の英雄譚(えいゆうたん)は、今なお各地で語り継がれている。旅の吟遊詩人が楽器片手に詠めば、()かされた母親が子供に聴かせ、また、歴史の一貫として教育にも用いられている。

 ある者は歌として彼らを(たた)え、またある者は劇として彼らを演じ。絵画に小説、彫刻等々(などなど)、命を懸けた彼らの生き様を後世の芸術家はこぞって題材とした。

 特にその中でも、勇者と姫君の恋を描いた演目「()(れん)」はとても人気が高かった。端的に説明すると、恋仲で共に将来を誓い合った二人だが、様々な事情が絡み合って仲を引き裂かれてしまい、(つい)には結ばれなかった悲しい物語である。

 また、勇者と剣士の友情を描いた創作物も人気が高かった。こちらは方向性が多岐に上り、男同士の熱い友情を描いた王道な物から、妙な方向に倒錯した(たん)()主義な物まであったりする。

 話が()れたが、――人々を助けたい。そして助けを果たした後は潔く身を引く。この勇者の清々(すがすが)しい克己心は後世において(かがみ)と尊ばれ、この世に生を受けた男子なら誰でも一度は勇者という存在に憧れた。

 だが、その勇者をもってしても解き明かせなかった謎があった。それが魔王が後世に残した、俗に言う「(しゅう)(まつ)」についてである。


 ウル、ヒートラ、ゼノビア、ダビデ。この四人によって倒された魔王だが、魔王は落命する寸前、この世に大きな謎を残した。

 それは、魔王の猛攻にヒートラ、ゼノビア、ダビデの三人が倒れ、残るウルが相打ち覚悟で臨んだ一撃によって倒れた魔王が、「これより四百年後、世界は滅びるだろう」と、今わの際に予言したのである。

 魔王は高らかに笑い、間もなくして絶命した。何の当てがあって言ったのか。四人は探したが、手掛かりすら(つか)めなかった。

 やがて勇者は皆の元から旅立った。人々は皆、魔王が予言した四百年後の破滅を解き明かすために旅立ったのだと期待した。だが、その後の勇者の事跡を知る者は少ない。

 謎は謎のまま、あと三年と数ヶ月で四百年が()とうとしている――。


「……ふふっ」


 ここは宿屋の一室。勇者の末裔(まつえい)であるワラビが、終末を止める為に旅をしていることを話し、それを聞いたジュリアが堪え切れずに笑いをこぼしてしまった。


「あははっ、ワラビおまえホントかよ! 勇者だって初耳だぜ、旅立ってから東に行ってたなんてさ!」


 そして笑い転げるジュリア。腹を抱え、告白したワラビが気の毒になるほどの大爆笑である。


 ジュリアを仲間に加えたあなたたちは、ハトゥーサを北上して山間の道を歩き、再びイゾルド山の麓町、ブランジに到着した。

 以前も訪れた町だが、今日は以前にも増してヒトの往来が激しかった。実はこの宿もギリギリで、あと少し予約が遅れていたら満室となり、今夜泊まれたか分からなかったりする。

 少し高めの宿だった。だが、あなたたちは船上での一件で司直から報奨金をたっぷり(もら)っており、いま何気に懐が温かいあなたたちは「今日くらいは」とこの宿に泊まった。

 ちなみに、あなたたちは貰った報奨金を元手にジュリアの靴を買い換え、底にジュート縄を使った靴をこの街の市場で購入している。それとあなたは、またウォルナットシールドを買い直している。


「……ひぃ、あんまり笑かせないでくれよ。勇者の子孫ってのは信じるけどさ、でも終末なんて信じているヤツ初めてだ」


 一(しき)り笑い終えたジュリアがあふれた涙を手で拭う。しかし、ジュリアが笑うのも無理はなかった。

 この予言、四百年経とうとする今では誰も信じていないのだ。魔王が苦し紛れに言ったのではないか。魔王を研究する学者の中でも、そんな論調が今や主流である。

 魔王打倒後、ザイオニア王国が一度世界を統治してからは、大きな争いもなく平和が保たれている。そんな世の中にわざわざ終末を喚起し、人々の不安を(あお)るような真似をしなくてもいいだろう。

 よって、今や終末については笑い話の種にされていることが(ほとん)どである。今の世の中で終末を本気で信じている者がいるとすれば、変わったヒト扱いされるのが関の山であった。


「もういいよ。ジュリアなんてキライ」


 だがワラビは、先祖である勇者の言い伝えにより、その予言を信じている。

 ()ねたワラビがジュリアから顔を背ける。


「……え、あ、ちょっと、ワラビ」


 焦るジュリア。声を掛けるが返事がなく、ワラビはベッドに寝転んでふてくされていた。

 ジュリアは気が小さく、こういうことを(いた)く気にする。困ったジュリアがあなたを見る。

 あなたは、ワラビがわざわざ東から赴き、終末について手掛かりを探していることを知っている。だから謝っとけ、といった旨をジュリアに伝える。


「あの、ごめんなワラビ。その、笑ったりして、あたしが悪かったよ」


 ジュリアが眉尻を下げ、バツの悪そうな顔で謝った。

 だがワラビは、

「……ばあ。驚いた?」

 振り返って舌を出し、とても気にしているジュリアを笑ってからかった。


「ふふっ、笑われると思ってたから気にしてないよ。気にしてくれてありがと。ジュリア、大好きだよ」

「んだよ、気を()ませやがって、このバカワラビ」


 今度はジュリアが少しばかり拗ねる。


「ねえ、ジュリアはなんで旅に出ようと思ったの? 私の話を聞いたんだから教えてくれるよね?」

「仕方ないな。ワラビ、耳を貸せ。……アンタごめん。いつかあたしが旅してる理由を教えるからさ、どうか今は聞かないでくれ」


 ジュリアがあなたに聞こえないよう、旅の目的をワラビに(ささや)いた。

 しかし、それを聞いたワラビが、

「……はは、あははっ」

 笑いながら目を光らせ、あなたの方に振り向く。


「ねえキミ、聞いて聞いて! ジュリアったらね、未来のお婿様に()いたいから旅してるんだって!」

「ばっ、バカ! 言うんじゃねえ!」


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