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 左翼が回復し、満を持して真朱の怪鳥が両翼を燃やした。

 そして、今まで痛めつけられてきた鬱憤を晴らすように、真朱の怪鳥が燃え盛る両翼を大きく払った。

 放射線状に(ほとばし)る炎の波。あなたは盾で防ぐことが出来たが、後ろのワラビとジュリアは退()かざるを得なかった。よって、あなたと二人の距離が僅かに空く。

 この距離を怪鳥は好機と見た。あなた一人になるのを見計らった怪鳥が、胸を反らして身の毛もよだつような叫び声を、空に向かってけたたましく放った。


「なっ、燃えた!? ワラビ、まずい!」

「うん!」


 怪鳥がなりふり構わない攻勢に出た。その全身を燃やしてあなたに突っ込む。

 まさに火の玉の如き姿で果敢に距離を詰め、その四本爪の足を、あなたが盾を構えているにもかかわらず乱打する。さらに体を押し付け、盾ごとあなたを焼こうとする。

 防ぐのは容易(たやす)かった。だが、かなりの(りょ)(りょく)があり、その衝撃から威力の強さが推し量れる。

 また、燃える体を押し付けられては、いくら盾が炎に強くともいつまで持つか分からない。焦げ始めた木の臭いに、あなたが焦りを覚える。


「アンタッ、退()け!」


 助け舟が来た。ジュリアの声を受けてあなたが下がる。

 すかさず放たれた一本の矢。だが、駆け引きを分かってきたのか無理押しせず、怪鳥は飛び退()いて矢をかわした。

 後ろに退いたあなたのそばにはワラビがいたが、

「此の凍える辺獄(リンボ)で……」

 ワラビは魔法を放てずに苦い顔をしていた。

 怒りに任せて攻撃を続けていれば、矢を喰らい冷気を浴びていた。状況を冷静に判断できるほど、怪鳥が戦いに順応しつつある。


「……またっ! キミ、気をつけて!」


 そして怪鳥が、再び両翼を激しく燃え上がらせた。

 また炎の波を放つのか。あなたが防御を固める。しかし、今度は少し違った。怪鳥は左翼と右翼でそれぞれ、

「おいワラビ! 今度は違う、来るぞ!」

 後ろの二人を同時に狙った。

 炎の波が二人を襲う。これにどちらを守るべきか判断が遅れ、あなたが炎の波を見過ごしてしまう。

 距離のある状態で放たれた炎の波を、喰らうほど二人は鈍くない。だが、怪鳥はそれを承知の上で次なる一手に打って出た。


「あっ、また飛んだ! ジュリア!」

「分かってる! チョロチョロすんじゃねえ、この鳥野郎!」


 二人が炎の波を避けている間に、怪鳥が跳躍、高く舞い上がった。

 翼を広げ、ゆっくりと落下する怪鳥。その広げた翼にジュリアが矢を放つが、先ほどは一方的に喰らっていたジュリアの矢を、怪鳥は左翼を払って軽く叩き落とした。

 そして、あなたと二人の間に、怪鳥が軽やかに着地する。と思えばすかさず怪鳥が、その燃える翼を甲板に向けて払う。

 炎は横に大きく広がり、怪鳥は炎の壁を形成した。さらに怪鳥が、ワラビとジュリアの間に向けても翼を払い、もう一つ炎の壁を形成する。


「ねえジュリア! キミ! 大丈夫!?」

「あたしは大丈夫だ! ワラビこそ無事か!?」


 真朱の怪鳥は気付いたのだ。あなたたちの連携こそが最大の脅威であると。

 だから分断を図った。あなたたちをそれぞれ炎の壁で隔て、一人ずつ始末しようと目論んだ。

 まず怪鳥は、あなたにターゲットを絞った。後ろの二人はあなたを崩せば容易く倒せると踏んだからだ。

 あなたこそが要。そう推知した怪鳥が、一人となったあなたに改めて向き直る。


 まずは蹴り。それから両翼を最大限に燃え上がらせ、炎の大剣と化した翼を怪鳥があなたに打ちつけた。

 炎の大剣は、まさに炎を浴びせられたようだった。盾越しでも伝わる焼けるような熱波を、あなたが歯を食いしばって耐える。

 怪鳥は止まらなかった。次は燃える翼を広げ、あなたに至近距離から炎の波を浴びせる。

 炎の波は無尽蔵に続いた。燃える左翼と右翼を交互にあなたへ振り、この止まらぬ炎をあなたは、盾を構えて防ぐのが精一杯だった。


 間もなくして、あなたの(まと)う板金の鎧が熱を持ち、あなたの服が燃え、あなたの髪が焼ける。

 敵の猛攻にあなたの身はじりじりと焦がされていた。しかし怪鳥は猶も止まらず再び炎の大剣を振り、これにあなたが頼みとする盾が燃えてしまった。

 盾がメラメラと燃え上がる。そこへ、怪鳥が回し蹴りを打ち込み、防げなかったあなたが膝を落とす。

 跪いたあなた。これを見て怪鳥が両翼を広げる。

 燃え盛る両翼であなたを包もうとした。これで終わりだ、と真朱の怪鳥が勝利を確信した。だが――。


「聖痕を、示せぇっ! ――“氷獄葬(コキュートス)”!」


 次の瞬間、ワラビの氷葬(キュート)とは比べ物にならない冷気が、白い突風を伴って怪鳥を覆った。

 あなたも少し巻き添えを喰らった。熱かった体が急激に冷え、その寒暖差にあなたが身を震わせる。

 誰かは分かっていた。こんな強烈な魔法を唱えられる者は一人しかいない。


「やれっ! やるんだおまえ! 仕留めろ!」


 息も絶え絶えにクライブが、甲板に拳を打ち付けた格好で叫んだ。


「あっ! キミ、大丈夫!?」

「アンタ! ……よくも! 喰らいやがれ!」


 白き突風が晴れ、霜漬けとなった怪鳥の背に、駆けつけたジュリアが至近距離から矢を放つ。

 さらにワラビが背の刀を抜き、怪鳥の背を斜めに斬る。背からは真っ赤な鮮血が噴き上がった。

 そして、何とか立ち上がったあなたが、焼け朽ちた盾を放り捨てる。

 それから両手で剣を握り、悶える怪鳥の胸を、渾身(こんしん)の力で真一文字に切り裂く――。


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