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トライ・ステップ! -this story is game fantasy-  作者: 豚煮真珠
QUEST11. 往古の証人と黎明の遺産
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理想の

 (もや)のかかったけぶる青さの空が、水平線を白く(かす)めていた。

 うっすらとした日射しが照る、暑くはない陽気の下、様々な船が(あお)い海を行き交っている。あなたたちはニャンフンルルの波止場に立っていた。

 ちょうどあなたたちがエムブラと別れた所にあたる。そこでシスイが、

「ジュリア、キミ。今までありがとう。また会いましょう」

 と、別れを告げた。


「ワラビ」

「…………」

「手紙はこまめに出すのよ、サボらないで。それじゃあ、息災でいなさい」


 そしてシスイが、いつもの眠たそうな半眼で、妹にも別れを告げた。

 これに対して妹は何も言わない。それから振り返ったシスイ。視線の先には船が泊まっている。

 シスイが、船に乗り込もうとしている。


「ワラビ」

「……ねえジュリア、代わりに言って」

「断る。あたしが言ったって聞かないし、第一おまえが言わなきゃならないことだろ。……ほら」


 ジュリアが突き放すことで言えない親友を励ました。


「……お姉ちゃん!」


 意を決して大声で呼んだワラビの声に、シスイが振り向いた。

 妹を見つめるシスイ。この姉にワラビが、思いの丈をぶちまける。


「なんで行っちゃうのよ! 一緒に来てよ!」

「…………」

「私たち姉妹でしょ! これからも助けてよ! 私、カッコばっか付けてるヘンジンのお姉ちゃんに来て欲しいの!」


 妹の願いに、姉は無言であった。

 静かな波の音が響き、(いそ)の匂いが(かす)かに香る。これを見兼ねたジュリアが、

「姐さん、ワラビがこう言ってんです、一緒に行きましょう」

 と、強情なシスイのために助け舟を出した。


 そもそもこの経緯だが、今朝になってシスイは突然あなたたちに別れを告げた。

 妹を頼む。こんな事をシスイは前から言っていたため、あなたとジュリアは予感していた。が、この別れにあなたたちは全く納得していなかった。

 彼女は強い。研ぎ澄ませた戦いの勘は歴戦の戦士に並び、また、その身の軽さは風に乗って揺蕩(たゆた)う落葉のようだ。

 流石は勇者の子孫でありワラビの姉である。それにハンターとして培った知識は得難いものであり、彼女はピラミッドでの幻覚を軽く看破している。

 何よりもジュリアが懐いている。彼女とジュリアの連携は、短い間ながらも抜群に息の合ったものとして完成している。妹のワラビは言うまでもなく、その存在は大きな助けとなるだろう。

 まだまだ彼女にはいて欲しかった。だからあなたとジュリアは反対し、(とど)まるように言った。

 しかし、あなたとジュリアでは彼女の意志を変えられなかった。だから妹のワラビに託し、そして、姉妹ゆえに遠慮していた姉への想いをワラビが吐いて今に至る。


「……それは、できない」


 シスイがジュリアに言ったが、その俯きながら告げた様子は明らかに逡巡(しゅんじゅん)していた。

 脈はあると見ていいだろう。すかさず食い下がるジュリア。


「なんでさ? 一緒に行きましょうよ」

「…………」

「姐さんワラビ大好きじゃないですか。ワラビの前じゃ表に出さないけど、実はワラビが可愛くてかわいくて仕方がないんですよね?」

「…………」

「素直になりましょうよ、我慢する必要なんてありませんって。一緒に行きましょう、姐さん」

「……ジュリア、貴方、言うようになった。ちょっと憎たらしい」

「そりゃどーも。へへ」


 シスイの嫌味にジュリアが笑った。

 そう、シスイは妹を愛している。難民街でワラビに抱き付いた麻薬中毒者に対し、凄まじい怨みを込めて暴行を加えたことは記憶に新しい。

 何故そんなにも妹を愛しながら、妹と離れる道を選ぶのか。


「でも、できない。私はこの子にとって、理想の姉でなければならないの」

「理想の、姉?」

「ジュリア、貴方、“A”兄さんを知ってる?」

「“A”兄さん? え、もしかして、“マッスルマン”の?」

「そう。“なまたまご”先生が生み出した、私が最も尊敬し、心の師と仰ぐお方。私はワラビにとってのあの方であろう、と心に決めてるの」

「確かにあの兄弟が一緒にいることないですね」

「分かったでしょ? べたべたするばかりが姉妹ではない。だから私は、この子と一緒にいれないの」

「ははっ、姐さんらしいや」


 己のポリシーを貫くために、シスイは迷いながらも断った。

 ジュリアが「しょうがないか」と諦める。あなたも諦めるのだが、一方でジュリアとシスイの話は理解できずにいる。

 シスイが、改めて妹に向く。


「でもワラビ、覚えておいて。貴方が助けを呼べば、私はいつでも駆け付ける」

「…………」

「本当に困ったときは念じなさい。この私が、どれだけ遠く離れていても、必ず貴方を護ってみせる」

「お姉ちゃん」

「脱ぐことだって(いと)わない。貴方の為なら、私はこの身などいつでも捨ててやる」

「お姉ちゃんいつも脱いでたじゃない」

「またこの子は。……ふっ」

「ふふっ」


 妹と姉が笑い合った。


「じゃ、ジュリア、キミ。また()う日まで」

「実家には手紙で伝えときますよ。変わったヒトが訪問しに来るって」

「それは余計。……ワラビ、元気でいなさい」

「うん。お姉ちゃんもね」


 こうしてあなたたちはシスイと別れた。

 あなたたちはシスイの行き先を聞いている。ひとまずミネルバに行ってジュリアの実家に赴き、妹が世話になった、と礼をしに行くそうだ。

 だからジュリアが実家に手紙を出すと言った。それからは、先祖である勇者の像に会うか考えているそうだ。

 対するあなたたちは東を目指す。遥か東、かつて魔王が本拠と定めた都、ヒルダガルへ。その為にはバルキダッカ大陸に渡らなければならず、あなたたちは東に向かって歩き始めた。


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