泣きっ面に鬼
「皆さん、お別れですね。今までありがとうございました」
軍師マグネスが生まれた町・メンネフェルに戻り、石桶を抱えるマルコがあなたたちに別れの言葉を告げた。
頭の後ろに手を組むジュリアがマルコに尋ねる。
「マルコさん、色々とびっくり仰天な探検だったけど、論文には何て書くつもりなの?」
「そうだね。マグネスの霊に会った、なんて書いても誰も取り合わないだろうし、……ま、大学に戻ったら考えをまとめるよ」
丸眼鏡をクイッ、としてマルコが答えた。
彼が抱える石桶にはマグネスの遺骨が入っている。自分が責任もって埋める、と彼はあなたたちに告げていた。
彼に任せておけば大丈夫だろう。彼はピラミッドの地下通路で、あれだけ危険な目に遭っても逃げ出さず、あなたたちを照らし続けた。
「そういえば、礼を言い忘れてましたね。あの時は守って頂き有難うございました」
マルコがあなたの手を取り、柔らかい笑みを浮かべて礼を述べた。
そして、マルコがあなたたち四人に振り返り、お世話になったと感謝を改めて告げる。
「論文には君たちのことも書かせてもらうよ。とても強くてキュートなヒトたちの協力を得た、ってね」
「えっ、やだ、キュートだって」
「ワラビ、お世辞だよ」
「いやいや、充分可愛いよ。今回の探検を経て僕は、君たちのファンになったよ」
「もう、マルコさんったら」
頬を押さえて照れるワラビ。その横でシスイが、
「お上手。今まで何人の女を泣かせてきたのかしら」
軽く息を吐いて言う。
このシスイだが、全身を噛まれた所為で体中に包帯を巻いている。完治には日が要るだろう。
その姿はまさにミイラ女。道行くヒト皆がびっくりしていたが、我が道を行く彼女は気にしていなかった。
「ははっ、ささやかながら応援させてもらうよ。それじゃ、お元気で」
「じゃあなー、マルコさん」
「またねー」
「達者で」
あなたたちはダレックノル大学助教授マルコと別れた。
マルコと別れ、しばらく歩いてからワラビが、
「ねえお姉ちゃん、マルコさん、私たちが勇者の子孫だって知ったら驚いたかな?」
「ふっ、そうね」
この問い掛けに姉が目を閉じて笑った。
***
メンネフェルを北上し、あなたたちはニャンフンルルに戻る。
結局、あの外道は見つからなかった。目撃情報がないことから、南には行かなかったのだろう。
まだニャンフンルルに潜伏しているのだろうか。それとも西に逃げたか、東のバルキダッカ大陸か。そんなことを考えながら、あなたが昼食をとっていると、
「あーはっはっは。おまえどんだけ姐さんにしごかれてたんだよ」
ワラビの壮絶なる過去を聞いたジュリアが大笑いしていた。
「もうホント、ちっちゃな頃は地獄の毎日だったよ。いじめられて帰ればさ、更にお姉ちゃんが蹴るわ投げるわいじめっこ以上にいじめるし」
「いじめとは人聞きが悪い、弱いあなたに稽古をつけてあげたの」
「稽古ぉ? あれは誰がどう見たって虐待よ! 正直いじめっこよりもお姉ちゃんの方が怖かったんだから」
「でも、そのおかげで、貴方いじめられなくなったでしょ。私に感謝なさい」
「相変わらず恩着せがましいね。……ねえキミ、お姉ちゃんいじめられてた私を更にいじめたんだよ? 普通のお姉ちゃんなら助けるもんだよね?」
ワラビがあなたに同意を求めた。
メンネフェルを発って復調したワラビは、子供の頃の話をあなたとジュリアに話していた。
今でこそ戦士の彼女だが、小さい頃はいじめられていたらしい。姉はそんなワラビに過酷な特訓を課し、いじめっ子を撃退できるまでに鍛え上げたようである。
「ってかお姉ちゃんが怖すぎなの。みんなお姉ちゃんのこと怖がってたよ」
「……そう、なの?」
「うん。私がいじめっこにやり返して泣かせたら、そのいじめっ子のお兄さんが一度出てきたことあったんだ。でも、私がお姉ちゃんの妹って知ったら、ものすごい勢いで逃げてったよ」
「え」
「“鬼畜シスイ”の妹かよ、とか言って。ねえお姉ちゃん、私の知らないところで何してたの?」
「……内緒」
シスイが妹から目を背けた。
シスイは顔の色を失くしてから目を背けた。今の妹の発言にショックを受けたのだろうか。
子供の頃の話だ。理由なんてあってないようなものだが、あなたがシスイに、何故ワラビはいじめられていたのか訊く。すると、
「ワラビって頭文字が“W”でしょ? うちの国では“魔利男”って職業は配管工だけど医者や建物の解体もやったりするスーパーヒーローがいるんだけど、それに対する悪役の“悪男”ってヤツがいて、そいつの頭文字もWだから、それにかけて妹はいじめられていたの」
と、よく分からない話を聴かされた。
「あたしも戦士の兄さんには随分としごかれたけど、でも、おまえには敵わねえや」
「もう鬼よオニ。私ちっちゃな頃は不幸な星の下に生まれたんだな、って本気で思ってたもん。……え、なにお姉ちゃん」
「ん」
「なにこの木刀。……え、まさか、これ」
「そう」
「ウソでしょ。家から持ってきたの?」
妹の問いに頷くシスイ。彼女は荷から二本の木刀を取り出し、それを押し付けるようにしてワラビに手渡した。
二本の木刀は、ちょうどワラビの得物である短刀くらいの長さだ。何よりも、とても使い込まれた跡がある。
そしてシスイも、更に短い木刀を両手に握る。
「長い方がよかった?」
「お姉ちゃん、もしかして」
「そう、最終審査。ワラビ、貴方が私に勝ったら旅を許す。貴方が負けたら私が連れて帰る」
姉は連れて帰ることを忘れていなかったようで、シスイがワラビに決闘を言い渡した。
これにジュリアが、
「ちょっと待ってくれよ姐さん! ワラビ立ち直ったじゃないですか!」
反発する。今更連れて帰るなど納得できない、と。しかし、
「ジュリア、これは私たち姉妹の問題。この子がこれからもやっていけるかどうか、姉である私が判断する。これに何人たりとも立ち入ることは許さない。いくら貴方と言えども」
シスイは取り付く島も与えなかった。
「……そうだね。お姉ちゃんに強くなったところ、少しは見せておかないとね」
ワラビが覚悟を決め、二本の木刀を逆手に握った。
「ワラビ」
「ジュリア、キミ、心配しないで。絶対にお姉ちゃんに勝つから」
「ワラビ、貴方がヤガミから旅立って、どれだけ成長したか私に見せてみなさい」
「うん。いくよ、お姉ちゃん!」
両者身構え、激突する姉妹。
復調したワラビに、忍ばない変人が立ちはだかった。




