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トライ・ステップ! -this story is game fantasy-  作者: 豚煮真珠
QUEST11. 往古の証人と黎明の遺産
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――(ゆる)さぬ――


 壁の中央、高所に埋め込まれた顔が、あなたたちを見下ろして告げた。

 他の顔々が輪唱するように呪いの言葉を吐く。陰湿な空気がこの地下通路に充満する。

 壁は少しづつ迫っている。破壊しなければ、あなたたちは潰されてしまうだろう。


「待ってくれ! どうして僕らを閉じ込める!?」


 怯えていたマルコが勇気を奮い、壁に会話を試みた。

 避けれるものなら戦いを避けたい。何せ敵は前方を覆い尽くす壁、あなたたちは今までこのような敵と相対したことがない。

 更にシスイは消耗しており、ワラビは戦えない。しかし、話が通じる相手であろうか、などとあなたが懸念する。

 脚を震わせる彼に、中央の顔が、

「我らは師、マグネスの門弟。何人たりとも師が眠る玄室に近付けなどさせぬ」

 と、呼びかけに応じるも拒否した。


「門弟? 貴方がたは、軍師マグネスが教師だった頃の生徒で?」

「左様。我ら永久(とわ)に師の守護を誓い合いし同志」

「……何故だ? 僕たちは軍師マグネスの事績を純粋に知りたいだけだ、神聖なる霊廟を侵そうなどと考えちゃいない」

「聞く耳持たぬ。我ら師は、怠惰で無能、愚劣極まりない王族共から無き者にされんとした。故に我らは、師の守護を定めとした」

「無き、者?」


 マルコが()(げん)な顔をして訊き返した。

 壁の言葉を信じるならば、今、目の前に埋まる数々の死顔は、マグネスが軍師と呼ばれる前の教え子のようだ。

 マグネスは穏やかな人物で、歴史や数学を教えていたとは聞いている。慕われていても不思議ではない。


「師の没後、(きゃつ)ら王位に胡坐(あぐら)掻く愚か者どもは、魔王の軍勢を退けた師の功績を我が物にせんとした」

「なんだって」

「大恩ある師の生きた証を消されんとしていたのだ。分かるか、この怒りを。故に我らは(はん)(ぎゃく)し、愚か者どもを屈服させた。そうして我らは誓い合ったのだ、魂となりても師を護らん、と」


 憎悪と(おん)(しゅう)、憤怒を交えて話す壁の言葉に、あなたがこの大陸でかつて起きた反乱を思い出した。

 それは「ゲベルの(たい)()」と呼ばれ、勇者たちが魔王を打倒した数年後、ハルシエシス首都・プエネトにあった王城が炎上した事件だ。

 そもそもマグネス現る前のウシル大陸は、まさに魔王軍格好の餌食であった。侵攻する魔王軍に、当時の王を始めとする諸侯は勇んで出陣したのだが、恐将に連戦連敗を喫したらしい。

 終いには恐将の靴を()め、恭順を願い出たそうだ。そんな王侯からマグネスは存在を消されようとし、その怒りをかつての教え子と名乗る壁が語った。 

 そして壁は、ゲベルの大火の首謀者だ、とも吐いた。四百年前に起きた事件の真相、信じてよいのだろうか。


「師に近付く者は許さぬ。()(らち)(やから)よ、師への生贄(いけにえ)にしてやろうぞ」

「待ってくれ! 僕らは」

「マルコ殿、無駄。こいつらは凝り固まった怨念によって常世に止まる亡霊。話の通じる相手ではない」

「でも」

「死にたくなければ後ろに下がって。キミ、ジュリア、用意はいい?」


 崇敬する師の霊廟に侵入はした。

 それについては謝る。が、だからと言って潰される気はない、などとあなたが構える。命まで奪われる(いわ)れはないはずだ。

 迫る石壁(せきへき)(あく)(りょう)。徐々にではあるが、あなたたちとの距離を縮めている。


「あたしにはやることがあるんだ、潰されてなんかたまるかっ!」


 既に装填済みのジュリアが引き金を絞り、矢を中央の顔に放った。

 狙いは動かぬ的だ。当然、矢は額に突き刺さり、中央の顔に縦への亀裂が走る。だが、

「小娘が」

 壁に埋まる別の顔が告げ、更に別の顔が、孵化(ふか)する魚のように石壁から飛び出す。

 飛び出した死顔が大口を開け、ジュリアに噛み付かんとする。


「こっ、こいつ!」


 驚きながらも武器を持ち替えたジュリアが、鎖を払って接近する顔を叩くが、石の死顔は吹き飛ばされただけで浮遊している。

 再び襲い掛かる死顔。石、厳密にはベトンの死顔は、カタリナに現れた頭蓋骨とは違って一撃では砕けない。


「……く、堅い」


 同じくシスイも、別の飛び出した死顔を斬りつけたが、斬っても向かって来る顔に手こずっている。

 更に別の死顔が、あなたの頭上を飛んだ。そして、後方にてカンデラを持つマルコを、

「うわあっ! ……す、すみません」

 襲ったが、これはあなたが盾で庇って阻止した。

 マルコに出来る限りの(あか)りを()くようあなたが指示する。併せて剣を振り、顔の一つを砕き、

「このぉっ!」

「滅びなさい」

 ジュリアとシスイも、襲い掛かる顔をどうにか破壊した。


「……ちっ」

「くっ! 今度は二つかよ!」


 しかし、石壁に埋め込まれた顔の数は、三つ砕いた程度では()でもなく、死顔が次々に壁から飛び出した。

 シスイとジュリアに二匹ずつ、計四つの顔が襲い掛かる。そして、あなたには三つ。男の死面と女の死面二つが、石の歯を剥き出しにしてあなたに迫る。

 一つを剣で斬りつけたが、破壊には至らない。すかさずもう一つを盾で撃つが、これも吹き飛ばしただけ。

 そして、三つ目の顔が、あなたの右腿に喰らい付く。千切れるような痛みにあなたが顔を歪める。


「あっ」

「ぐっ!」


 シスイとジュリアも噛まれ、二人がその痛みに(うめ)いた。

 あなたが腿に噛み付く顔の脳天を、剣の(つか)(がしら)で叩いて何とか剥がす。ジュリアも左腕に噛み付いた顔を、壁に向かってぶつける事でどうにか放す。

 だが、シスイが苦しんでいた。右肩に喰らい付く顔を、怪我している彼女がどうしても剥がせず、

「ううっ」

「姐さん!」

 この(もだ)えるシスイに死顔が、壁から一斉に飛び出した。


「うっ、あ、ああっ」

「姐さん!」


 絶叫するジュリア。両腕で身を庇うシスイの身に、死顔が次々と喰らい付く。

 防ぐ腕に、白き脚に、細い体に。その様子は大きな果実に群がるコウモリさながらで、この()(しゅう)にシスイは成す(すべ)がなかった。

 跪いたシスイ。それでも顔は群がることを()めず、死霊が生者の体を貪っている。


「マルコさん! 火を、火を貸してくれ!」


 ゴーストには光だ。ジュリアが後方のマルコに向かって叫ぶが、この二人を別の飛び出した死顔が阻む。

 ジュリアが鎖で死顔を叩き、あなたがマルコを守る。だがこの対応に追われ、マルコから火を受け取れなかった。

 火を諦めたジュリアがシスイに(たか)る顔を鎖で撃つ。だが闇夜の(つぶて)(ぬか)(くぎ)。数の暴力を止められない。

 そして、石壁は迫っていた。あなたたちが顔に気を取られている間に壁はかなり前進しており、程なくしてあなたたちは身動き取れなくなるだろう。


「み、みなさん……」

「くっ! 姐さんを、姐さんを放しやがれ!」


 マルコが膝をつき、ジュリアが諦めずに死顔を撃つ。

 しかし、シスイは顔が成す亡者の海に溺れ、何よりも石壁が迫っていた。

 あなたが石壁に、渾身(こんしん)の力で剣を叩き付けるが、その堅さに弾かれる。

 最早打開策はない。このあなたたちの苦境を確信した壁の顔の一つが、

「師の霊廟侵し罪、悔いながら死ねい」

 と宣告した時だった。


「お姉ちゃん、動かないで!」


 この逼迫(ひっぱく)した状況を打ち砕くワラビの声に、あなたとジュリアとマルコが止まった。

 ワラビが短刀を鋭く振る。下から(すく)い上げるように描いたワラビの弧が、姉に噛み付いていた顔の一つを、迫る石壁まで吹き飛ばして破壊した。

 次々とワラビが短刀を振るい、姉に(まと)わり付く死顔を瞬く間に引き剥がす。そして、

「――“火神(アグニ)!」

 浮遊する顔の幾つかに火を浴びせ、石の死面が床に転がる。


「ワラビ! おまえ、怖くないのか」

「うん、もう平気! キミ、ジュリア、私を守って!」


 短刀を収め、背から長刀を抜いたワラビが、上段に構えて目を閉じた。

 頼りとする親友が、この土壇場で立ち直った。これにジュリアの意気が著しく上がり、

「きやがれ! 一つ残らずぶっ壊してやる!」

 水を得た魚の如く鎖を振るう。

 ワラビに襲い掛かる死顔に錘をぶつけて砕き、続いて手で浮遊する顔の頭を掴んでは、床に叩き付けて鎖で撃つ。

 更に、隙を見て自身に神通力(ウルブヘジン)を唱え、ジュリアが次々と顔を破壊する。あなたも負けじと浮遊する顔を叩き斬る。

 程なくして目を開いたワラビが、

「“一撃必殺”!」

 石壁を一直線に斬る。


「なっ、なん、だと……」


 狼狽した壁の顔。厚い石の壁が斬られていた。

 まだ断ち切るには至っていない。ジュリアが初めに撃った中央の顔の下が、中途半端に裂けた格好である。

 しかし、ここまで割れれば突破できるかもしれない。親友の一撃に続いてジュリアが、

「あと少しだ、砕けろぉ!」

 錘をひび割れに叩き付け、加えてあなたも盾で撃つ。


「す、全てを断つ剣、師より幾度と聞かされた。ま、まさか、お主たちは」


 うろたえる壁の死顔に、面を割られて顔を晒したシスイが、跪く格好のまま手裏剣を投げ付けた。

 手裏剣は深く額に命中、最後の顔が砕ける。そして、もう一度ワラビが、

「とどめだぁ!」

 真っ二つに切り裂き、石壁の悪霊を打ち砕いた。


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