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炭鉱と人情の町

 赤い髪の女の子と出会ったあなたたちは、その子の案内で炭鉱街・クロロに着いた。

 彼女は近道を知っていた。そのおかげで夕方を迎えたあたりであなたたちは着くことができた。


「おう“ジュリア”。この辺じゃ見かけないヒトを連れてるじゃないか」

「ああ、このヒトら旅人さんみたいでさ。とりあえず“先生”の所へ連れてくよ」

「そうかそうか。あのヒトなら優しく迎えてくれるだろうからな。旅人さん、ようこそクロロへ。ま、石炭しかねえシケた所だけどゆっくりしてきな、歓迎するぜ」


 汚れたツナギをはだけさせた男が、あなたたちににっかりとした笑みを浮かべた。

 鉱夫だろう。うれしそうに手を振って去り、あなたが山の方を見渡すと、夕日に照らされた山は段状に切り開かれていて、その段の上に一つ、大きな穴がぽっかりと空いていた。

 大きな穴は坑道であることが一目で分かった。今も石炭を山盛りに乗せた手押し車を押す、手拭いを頭に巻いた鉱夫が穴から現れ、それを見て坑道に入った事のないあなたが中の様子に興味をそそられる。

 他に目を向ければ(やぐら)のような鉄塔が立っていた。また、白い煙がそこかしこで立ち上っていた。ここで採れる石炭が上質という(うわさ)をあなたは聞いていたが、煙の白さから本当のようである。


「付いて来な。まずは街を案内するよ。アンタたち戦士会を探してるんだよな?」


 赤い髪の女の子『ジュリア』の先導で、あなたたちがクロロの大通りを歩き始めた。

 しかし、大通りの割には道が整備されていない。砂利が申し訳程度に敷き詰められただけの道で、踏むとデコボコを感じた。雨が降れば水たまりがあちこちで形成されるだろう。

 あなたが街並みを見回せば、朽ちかけの板を張り合わせて壁にしたような、バラック小屋というべき家屋が隙間なく立ち並んでいる。更に屋根は板に重しの石を載せただけの粗末な物が大半で、洗濯物が路上に明け透けもなく()るされている。

 みすぼらしい街であった。あなたがハトゥーサの郊外を思い出す。しかし、あなたは()ぐに知る。懐が貧しくても心が豊かな、この街に住む人々の温かさを。


「おっ、ジュリア。矢が出来たから持ってきな」

「いつもありがと。お代はいくらだい?」

「ああ? いらねーよ。今回はサービスしてやるわ。この前ウチにコヨーテの骨くれただろ? それで作ったんだからよ」

「ジュリアちゃん、煮物を作りすぎちゃったんだ。持ってくかい?」


 話しかけられるジュリア。職人や街行くオバさん(など)から、沢山の親切を受け取っていた。

 人気があるんだな。そのような旨をあなたが感じた矢先、その親切はジュリアだけに(とど)まらず、あなたたちにも向けられた。

 東方特有の変わった格好、そして幼い容姿が年長者からの好感を得る。あなたと並んで歩くワラビが、

「可愛いわねえあなた。東から来たのかい?」

 腰の曲がったお(ばあ)さんから和やかな声で話しかけられた。

 うん、と素直に答えるワラビ。するとお婆さんは、

「そうだ、孫のために買った(あめ)なんだけど、あなたにも一つあげるわ」

 あたかも孫を慈しむような瞳でワラビに黒い飴を渡した。これを受け取ってワラビは「ありがとうおばあちゃん」とさっそく口に入れ、満面の笑みを浮かべた。


「おい、あんた腕が立ちそうだな。俺は街の戦士でケインって言う。もしこの街にしばらく(とど)まるつもりなら、あんた、今度俺と組まないか?」


 あなたはあなたで、街の戦士から共に依頼を受けないかと誘われた。

 このようにあなたたちは、大通りを歩いているうちに沢山のヒトから話しかけられた。

 みな陽気で明るかった。貧しさなどすっかり忘れているようで、排他的なハトゥーサの人々とは大違いである。


「ねえキミ、私、この街すきかも」


 ワラビはこの街を気に入ったようだ。


「あ、そうだ。まだアタシから名乗ってなかったよな。あたし“ジュリア”っていうんだ、ヨロシクな」


 赤い髪の女の子が、改めて自らの名を明かした。


 ***


 煮物を受け取ったジュリアが置きに行くため、あなたたちと一旦別れた。

 ジュリアは「直ぐに戻るから先いっててくれ」と告げた。よってあなたたちはジュリアが煮物を置きに行っている間、先に戦士会の店へ行くことにした。

 まずあなたたちは、店の職員に申し出て名簿に名を連ねた。実は依頼を受けるためには決まりとして、各支部に備えられてある名簿に必ず名と経歴を記入しなければならない。あなたたちが戦士であるという証明は、戦士会に加入したときに配られる札を見せれば可能だが、だからと言ってどの支部でも自由に依頼が受けられるわけではなかった。

 依頼は基本、街の住民が高額な料金を払って頼むもの。そんな住民からの依頼を支部の職員は余所者に任せたいと思うだろうか。なるべくなら同じ街の住民で、且つ信用のおける者に任せたいはずだ。

 戦士は依頼を受ける限り、原則として完遂しなければならない。そうでなければ戦士会の信用に(かか)わる。また、職員が依頼を受けた戦士を把握する為でもあり、把握しておかないと依頼を放り出された場合や不慮の事故で亡くなった場合などに対処しづらいのである。

 したがって各支部に同じ戦士の名が記される事がよくあり、こうして今のあなたたちはシュラクとクロロ、二つの支部の依頼を受けられることとなった。ちなみに、戦士が一度受けた依頼を特別な事情もなく放り出した場合、それ相応の損害賠償と戦士の証明、つまり札を剥奪される。


 続いて戻って来たジュリアに案内されたのは、大通りの最も奥に位置する、比較的新しい建物の教会であった。

 あなたたちが入口の扉に向かう。だが、その前に、

「ここはアタシがお世話になってる所なんだ。ここの“先生”、シスターはすごくいいヒトでね、子供たちに勉強を教える傍ら、子供たちの世話も進んで引き受けてるんだ」

 ジュリアが教会のシスターについてあなたたちに紹介した。子供に勉強を教えているから「先生」なのだそうだ。そしてかなりの美人で、「独身なのがもったいない」と嘆いてもいた。

 教会は、神を(まつ)る祭礼の場であると共に、児童の初等教育を受け持つ施設でもある。だから西方の街に必ず一つは建っている。

 余談だが、発展した都市では「学校」が初等教育を受け持つ。しかしジュリアは「お世話になってる」と言った。彼女はこの街の生まれではないのか。


「あっ、ジュリねーちゃんおかえり!」

「うん、まただけどただいま」


 入口の扉を開けると、そこは広々とした聖堂であり、立ち上がった女の子の頭をジュリアが()でた。

 聖堂で遊んでいた他の子供達も続き、わらわらとあなたたちに群がり始める。そうして、瞬く間に聖堂は喧騒(けんそう)に包まれた。

 子供達の好奇心が、客であるあなたたちに降りかかる。内、ワラビの格好を珍しがった男の子が、

「おうねーちゃん、珍しいカッコだな。東のヒトか?」

 とワラビに訊いた。


「え? そうだけど」

「マジか! “忍者”か? ねーちゃん忍者なのか!?」

「ええっ!? おねーちゃんニンジャなの!? やってやって、“シュリケン”出して!」


 途端に子供たちの忍者コールが湧き上がった。これにワラビが慌てて手を振る。


「ちょ、ちょっと、わたし忍者じゃないって。そもそも忍者なんてこの世にいないから」

「ウソつけ! 東のヒトはみんな忍者って聞くぞ!」

「ニンジャだから隠してるんだよね? でもアタシたち分かってるから!」


 ワラビが苦悩した。強く否定したいところだが、子供達の夢を壊すわけにはいかないのだろう。

 あなたとジュリアが目を合わせて苦笑する。子供達は目を輝かせ、なおも無邪気に期待していた。

 どうしよう、と困るワラビに、奥から救いの天使が現れる。


「こら、みんなやめなさい、お客さん困ってるでしょ。……ジュリア、お帰りなさい」

「ただいま、先生」


 ジュリアが「独身なのが」と言ったのも頷ける。修道服に身を包んだ彼女は、まさしく天使であった。

 肌は清らかなほどに白い。また、水色に透き通った瞳が汚しがたい厳かさを(たた)えており、さらに今の声が、聴く者を酔わせるほどに美しかった。

 ワラビはその美しさに口を開けて()()れていた。もしこのシスターの心を射止められる男がいるのなら、その男はさぞかし鼻が高くなれるだろう。

 聖女。ありふれた一言だが、それが彼女には最もふさわしい一言だった。


「初めまして。私、“シンシア”と申します」

「先生、このヒトら旅人さんなんだ」

「そうなのですか。ここまで疲れたでしょう、今お茶をお持ちしますね」


 まぶしい笑みを見せるシスターに、見ているだけで()め息が出そうなあなた。

 だが、お茶は断った。窓を見ればもう暗く、あなたたちは今日の宿を閉まる前に探さなくてはならなかった。

 急がねば。あなたが改めてジュリアに礼を言い、ワラビと共に教会を後にしようとする。しかし、

「あの、差し出がましいようですが、もしよろしければここに泊まってもらっても構いませんよ?」

 話を聞いていたシスターがあなたたちに勧めた。彼女はどこまでも優しかった。


「部屋は空いておりますので、ここを我が家と思ってお(くつろ)ぎください」


 おっとりとした笑みを前に臨み、あなたは何も言えなかった。

 全てを引きつける魅力がその笑顔にはあった。あなたたちはシスターの好意に甘えることにした。


「でもジュリアが親御さん以外のヒトを連れてくるなんて珍しいですね。初めてなんじゃないですか?」

「そうだね。うーん、なんかこのヒトたち放っておけなくてね。じゃ先生、とりあえずこのヒトたちを風呂に案内してくるよ」

「はい、いってらっしゃい」

「えっ、おフロ!?」


 ワラビが風呂という単語に食いつき、シスターとジュリアの会話に割り込む。


「ああ、ここ温泉が湧いてるんだ。浴場まで連れてくよ」

「やった! もうしばらくおフロ入れなくて参ってたんだ!」


 風呂と聞いてあなたが思い出す。街の者はみな身なりがサッパリとしていた。

 着ている物も古かったが、洗濯が行き届いていた。長い旅路を歩いたあなたたちよりもよっぽど清潔であった。

 ハトゥーサの郊外と違って水には困っていないようだ。あなたも風呂は久々であり、ジュリアに場所を教えてもらって後で旅の(あか)を落とすことにする。


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