表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/237

平和を守る義務

 ぷりぷりしていたワラビだが、よれた背広の男が何とか(なだ)めることに成功した。

 そして、タイすらしていないだらしなき背広の男が、一度(せき)払いをしてからあなたに素性を訊く。


「やはり旅の戦士か。どこも受け入れてくれんだろう。ここは金持ちの(おご)りを凝縮したような街だからな」


 あなたの回答を聞いて男は、苦虫を()み潰したような顔で言った。

 街の事情に詳しいよう。何者だろうか。あなたが逆に素性を尋ねると、

「おお、すまんすまん。まだ名乗ってなかったな。俺は“クライブ”と言う。“()(ちょく)”に勤める“(けい)()”だ」

 男がだらしない成りに似合わず姿勢を正し、敬礼してあなたたちに告げた。


 あなたが『クライブ』と名乗る男の、襟に付けられた()(しょう)(のぞ)くと、確かに三つのイヌの首を持つ伝説上の怪物、地獄の番犬・ケルベロスが(かたど)られていた。

 世界一の権勢を誇る警察国家、ザイオニア王国が設立した、「王国(おうこく)(ちょく)(ぞく)(ちょく)()(かん)」と呼ばれる組織が存在する。魔王打倒後に発足した組織で、勇者の仲間であり友人であり、そしてザイオニア王国の王でもあった剣士・ヒートラが設立した歴史を持っている。

 ケルベロスの徽章は、そこに所属している者の(あかし)となる。その力は国家権力を超え、社会公共の安全および秩序維持のためには、他国内においても所属員への干渉を許さない。

 まさに世の悪を滅ぼす(ため)にある王国直属の警察機構、それが「司直」であり、そしてクライブと名乗るこの男は、司直に属する捜査員、つまり「刑事」なのである。


「えっ、司直ってあのザイオニアの? やだ、わたしたちの商売敵じゃん」


 司直と聞いてワラビが驚き、そして懸念した。

 ワラビが言うとおり組織の性質上、司直は戦士会と競合する立ち位置にいる。戦士会の理念である治安の維持。これが司直の掲げる名目と大きく(かぶ)っており、具体的には犯罪者や災害など民の生活を脅かす存在を、戦士会と司直のどちらもが取り締まっているのである。

 それでも今までは、持ちつ持たれつでお互い上手くやってきた。そもそも戦士会の方が歴史が古く、魔王打倒以前より存在する。

 しかし、最近の司直は急進的な考えの持ち主が多く、戦士会など要らんとばかりに幅を利かせている。実際に今のザイオニア王がそのような考えであり、「戦士会など不要」とまで公に発言していた。

 そのため、昔はどの街にもあった戦士会の店も、最近は営業が立ち行かずに街から消えつつある。


「おい娘、商売敵とか言うな。これも時代の流れと言うヤツだ。官民の立場から考えてみろ、金次第で動く野郎に平和を委ねたいと思うか?」

「むぅー、そうかもしんないけど……」

「俺たち司直は民から税を貰っている以上、平和を守る義務がある。お前たち旅人がこの国で夜盗などに襲われず安心して旅できるのも、俺たち司直が睨みを利かせているからなんだぞ?」


 刑事の反論にワラビが言い(よど)む。その通りでぐうの音も出なかった。

 戦士会は所詮組合である。戦士一人ひとりに権利があり、極端な話、本部からの強い命令とて戦士は断ることができるのだ。

 司直は大きく違った。司直に所属する者は王国から給与を貰っている以上、王の命令、言い換えれば世の安寧秩序は絶対なのである。

 そして給与の元を辿(たど)れば民の税に行き着く。したがって民を守る義務が司直には発生し、民にとってはどちらが安心できるだろうか。そこをクライブという刑事が突く。


「……と、すまんな。大人気ない事を言ってしまって。まあ遠路はるばる来て御苦労なのだが、この街に戦士会の店はないぞ。つい最近まであったのだがな、今はなくなってしまった。戦士会の店を探してるなら“クロロ”へ行け。あそこならあるだろう」


 クロロとは、東の山奥に形成された炭鉱街であり、そこへ行けと刑事はあなたたちに勧めた。


 ところであなたは、この悪人と言ってもおかしくない面の刑事を前にし、ふと気が付いたことがあった。

 旅人で戦士であるあなたたちを察し、クロロへ行けと案内した刑事。それにあなたが軽い礼を言うと共に、その気が付いたことについて尋ねた。

 すると刑事は、その三白眼を僅かに見開かせてから、

「……それは言えん。まあ、この街には色々あるってことだ」

 目をすがめ、否定せずあなたに答えた。


「この街の奴らが戦士会を追い出したのも、おまえみたいな奴に勘付かれたくないからかもしれんな」


 王国直属司直機関に属する刑事がいるということは、何かを暴くために捜査をしているのである。

 つまり、この街には犯罪が隠されている。あなたの慧眼(けいがん)に刑事が驚き、ワラビは「さすが」とあなたを褒めた。

 あなたたちは戦士である以上、目の前に犯罪があるのなら放っておくことは許されない。だから捜査に加わるべく、あなたが申し出てみるが、

「ほう、戦士会の奴らは金が絡まなきゃ働かんと思っていたが、おまえみたいな奴もいるのか。殊勝だなおまえ、気に入ったぞ」

 妙に気に入られてしまった。


「だが、それは断っておく。申し出はありがたいが、戦士の手を借りたとあっては俺が王になに言われるか分からん」

「でもおじさん、昔はよく戦士に捜査もろもろ手伝ってもらったって聞くよ?」

「誰がおじさんだ! 俺はまだ二十八だ! それにな、敵は少々厄介な野郎でな、正直お前らを守ってやれる自信がないのだ。だからさっさと行け、これは俺たち司直のヤマだ」


 刑事は頑として受け付けなかった。その口ぶりから察するに、相手は中々の大物のようだ。

 食い下がっても無駄だろう。こうしてあなたたちは刑事の言葉に従い、東の山奥にある炭鉱街クロロへと向かった。

 それにしてもこの刑事、二十八という若さにして王からの覚えが良いようである。再度述べるが、ザイオニア王国は世界一の権勢を誇る国家だ。言い換えれば世の(あまね)くヒトを統べているのがザイオニア王であり、その王からの覚えが良いなんて只者(ただもの)ではない。

 もちろん自分で言っているだけの可能性も否定できないが。だが、そもそも司直に勤めるのはとても狭き関門だ。適正はもちろんのこと、試験がおそろしく厳しいと聞く。

 ああ見えて出来る男なのか。ヒトは見かけに寄らないものだ、などとあなたが歩きながら思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ