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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

リバーストーリー

青空に夕焼け

作者: 綾瀬数馬

 モノクロに似合うのはやはり紅だな、と彼女を見るたびに思う。


 そもそもとして、赤は人間が最も美しいと感じる色なのだ。夕焼けだったり、薔薇だったり、ぼやけていようがエッジが効いていようがそれに魅了されてしまう。だから自分の感性は決しておかしいものではない。


 私が話を聞いていないことに気づいているにもかかわらず、彼女は今日も一日の出来事を懸命に話している。たどたどしく喋りつつ、時折何が面白いのか一人で肩を揺らす。身長は決して低くないのに、小柄に感じられる彼女には肩あたりで切り揃えられた黒髪がよく似合っている。笑った時に肩に毛先が触れる瞬間なんて惚れ惚れするものだし、何より伏し目がちに話す彼女の表情は美しい。

 しかし、何か物足りない。例えるなら両腕があるミロのヴィーナスのようなものだ。余計なものがな過ぎると言うか、二色だけで自己完結されていて、心に来る感動がない。


 そう、赤が欠けているのだ。

 決して垢抜けてはいないけど。


 例えば、飛行機雲さながらに色白の肌に幾筋もの切り傷を入れればそれだけで十分華やぐ。打撲痕を付ければ、濃淡が付くから水彩画のような儚さが生まれる。痣なんか、時間が経てば、赤やら黄色やら黒やらに変化するので、金魚が体内を揺蕩っているようだ。浸出液で立体感を出すのだ。

 人に見せられないぐらいに、ズタズタにボコボコに傷つけて自分のものにしたい。

 成人男性であれば片手で織ることが出来そうなか細い首に縄痕を付けたい。喋ることすらままならないその小さな口からどろりとした赤黒いもの出してやりたい。爪が剥げて、赤くブヨブヨとしたものが露わになった白い指先を見てみたい。その艶めかしい足を縫合痕で縛ってやりたい。動く度に傷口が擦れて苦痛に歪むその表情が欲しい。


 そして何より――。


「――あの、秋澄(あきずみ)さん。話を聞いていますか?」


 珍しく顔を上げて、こちらを覗きこむ彼女。長く伸ばされた前髪の奥から、空よりもすんだ蒼い瞳が見え隠れしていた。


 唯一の色彩。


 本人はコンプレックスに感じているようだけれども、私は彼女の瞳がとても好きだ。


「(――その蒼から流れ落ちる涙はきっと美しいんだろうな)」


 監禁しても、痛めつけても、罰せられない方法はないかな。

 なんて、この世のどこにもないような、そんな都合の良い事を願いながら、私は今日も彼女の話し相手になるだけだった。



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