表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

犯人は田中2

作者: てこ/ひかり

 「ちょっとすいません、人を探しているのですが」

 「はあ」

 「貴方が、田中さん?」

 「そうですけど…」


 月曜の朝。私が通勤していると、普段は人気のない通りに数名の男達が屯っていた。無視して脇を通り抜けようとする私を、サングラスにスーツ姿の男達がそれを制して何やら尋ねてきた。


 「すいません…私、急いでるので」

 「まあまあ。おい皆、いたぞ」

 「へえ、こいつが」

 「こ、こいつ?」

 「通り魔事件の、田中容疑者?」

 「と、通り魔!?容疑者!?」


 背の高い数名の男達が私を取り囲み、物珍しいものを見るような目でじろじろ眺めた。私は混乱した。一体何を言ってるんだこいつらは。初対面でいきなり人を犯罪者呼ばわりとは、あまりにも無礼すぎる。第一、私には彼らの言う犯罪に全く身に覚えが無かった。


 「申し遅れました。私達はこういうものです」

 「け、警察の方でしたか…!」


 男の一人が取り出した黒い手帳に、私は思わず身じろぎしてしまった。いくら潔白だとはいえ、警察に声を掛けられたら緊張せざるを得ない。だが、彼らが何故私の前に現れたのかは一向に分からなかった。もしかして、全く別の事件の犯人と顔が似ているとかで、誰かと間違えているのではないだろうか?


 「いえ…そういうことではございません。貴方が犯人なんです」

 「犯人だって?い、一体何の!?」

 「ですから、通り魔事件のですよ。ここ、北通り13人殺傷事件の」

 「馬鹿な!?」


 私は絶句した。あり得ない。私が通り魔?そもそも、この通りで通り魔事件が起こったというのか?毎日通っているが、全く気がつかなかった。


 「あり得ません!私が!?一体いつ、私が人を刺したっていうんです!?」

 「ああ、それは、今からなんですよ」

 「はい…!?」

 「此処だけの話…私達は24世紀に創設された、『時空2課』の者なんです」

 「タイムトラベル…といえば、貴方は信じてくれますかな?」

 「私たちは、未来から来た時空警察です」

 「貴方はこれから1時間後、この通りで13人もの人間を刺して回るでしょう」

 「でしょう、って言われても…!」

 「見てください、これ。明日の朝刊です。貴方が一面で載ってますよ。そしてこれが、200年前の明日回収した凶器です」


 そういって、男は新聞と出刃包丁を取り出し私に見せた。1月8日…見覚えのある景色の写真…そして、無表情で虚空を見つめる私の顔写真…どす黒い血のこびりついた出刃包丁を手渡され、私は背筋が凍りついた。


 「ふざけるな!捏造だこんなもの!わ、私が通り魔だなんて!」

 「落ち着いてください、田中さん」

 

 こんな馬鹿げたことに、落ち着いていられるものか。


 「私を捕まえに来たんですか!?」

 「いえ…実はそこなんですけど。24世紀でも議論されているのですが、現時点では貴方はまだ犯罪を起こしていない。だからまだ、我々も手を出すわけには行かんのです」

 「私は…私は通り魔なんてしたくない!」

 「ええ。分かっています。ですがこれはもう、確定した未来ですから。貴方が事件を起こさなければ、それはそれで未来が変わってしまうことになる」

 「本来は死ぬべき人が生き残ったり、起こるべきことが起こらなかったり」


 私は出刃包丁を取り落とした。私が犯罪者になることは、もう決まっていることだというのか?嫌だ…絶対に私は人を刺し殺したくない。


 「じゃ…じゃあ、私を逮捕してください!何処かに監禁するとか!犯罪を未然に防ぐのが警察の仕事でしょ!?」

 「いいえ。貴方をきちんと歴史通り犯罪者にすることが、我々の務めです」

 

 気がつくと、私は男達に取り囲まれていた。


 「いるんですよねえ…我々警察が来ると、犯罪なんてしたくないなんて駄々を捏ねる困った人が」

 「でも犯罪が起こらなきゃ、歴史が変わってしまいますから」

 「それにね、ぶっちゃけた話、どうでもいいんですよ。二百年前に誰が死のうが。貴方、どうですか?江戸時代に侍に斬られた人の話を聞いて、何を感じますか?」

 「観念しろ、田中」

 「お前が犯人だ」

 「た…助けてくれぇ!誰か!『殺され』させられるぅ!!」


 サングラスの男が私を羽交い絞めにした。目の前のもう一人が落ちた出刃包丁を拾いなおし、ゆっくりとその柄を私に向けて差し出した。私の助けを呼ぶ悲痛な叫び声が、人通りの少ない路地に空しく響き渡った…。








 『……さて、次のニュースです。今朝7時ごろ、北通りで通り魔事件が発生した模様です。犯人はすでに取り押さえられていますが、被害者は13名にも及ぶとの発表がありました。犯人は、『どうしても逮捕してくれなかったから、彼らを刺して回った』などと意味不明の供述をしており…」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 許可をいただいたので(笑) 田中さーーん!!? 最後のオチは下手なホラーよりホラーですね。殺すのも、殺されるのも嫌ですが、まさかこうなるとは。
2016/01/21 19:12 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ