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七日前-1

今回も短いですが読んでいってください。

「…んん」

妙な息苦しさを覚え、寝ぼけ眼で目覚まし時計に目を向ける。時刻は午前3時。普段から早起きを心掛けてはいるけど、これは流石に早過ぎるし、ただ起きただけなら息苦しさ何て覚えるはずもない。まだ靄の晴れない思考を一所懸命に廻らせながら周囲を見る。


散らかった部屋。破れた札。机の上の分厚い本。対面の空のベッド。誰かの手。


…誰かの手?ハハッ誰かの手って誰のだよ。この部屋に入れるのはこの部屋の鍵を持っているオレとロイターだけで、ロイターは隣のベッドに…あぁ成る程成る程、この手はロイターのか。確か昨日の夜にベッドの周りにセーフゾーンを築いた気もするけど、その核たる術符が破れてるってことは時間が許す限りで作った対侵入者用捕縛陣が短時間で破られたということだ。


ならば背後で寝息をたてているのはロイターと言うことになる。何かスッゲェ嫌な予感がするが、とにもかくにも後ろの馬鹿をオレの寝床テリトリーから叩き出さなければならん。


と言うことで目の前にある手を掴み、


「…テメェは何をしてるんじゃボケェェェ!」


時間も忘れてベッドの外から対面の壁に向けて投げ捨てた。見事な背負い投げだ。柔道なら間違いなく一本だ。


が、この動きのお陰で頭が冴えた。そして昨日ロイターが言っていた事を、机の上の本…魔導書を見た瞬間思い出した。





『なぁに安心しろ。実は最近読んだ魔導書に書いてあった性転換魔術を習得している。これで戒律を気にする必要はないぞ?』





嗚呼、神よ。貴方は何故人に業というものを与え給うたのか…。


とにかく、詰まるところ、そう、女だ。端的に言っちまえばオレがぶん投げたのは女だった。暗闇の少ない光を妖しく反射する艶やかな栗色の長い髪の、美しい顔立ちの、裸体の女だ。中身の正体さえ知らなければ是非ともしゃぶりつきたい女。ぶっちゃけ髪色以外は滅茶苦茶タイプだ。もっと薄い色だったらどストライクでどっかの怪盗みたいにダイブしていただろう。


だが中身だ。全て中身でご破算だ。


「…う…うぅぶっ!?」

「んな艶っぽい呻き声出したところでなぁオレがお前に襲いかかったりはしねぇんだよ。お前のヤられる運命は完全に自業自得なんじゃねぇか、あぁん?」


寝起きも相まってドスの効いた声で何事もなかったように寝返りをうとうとする馬鹿の頬を掴み持ち上げる。


「ま、待て待て待て待て!!単なる遊び心、悪戯心ではないか!!それにこの姿はお前の好みに合わせたはずだ!!嬉しいだろう?抱きたくなるだろう?だからその手を放すんだ!!」

「ほぉ、オレはお前に自分の女の好みを教えた覚えは無ぇんだけど、そこんところどうなんだろうなぁ?」


顔を近づけ問い詰めると、


「………」

女、いや女の姿をしたロイターは顔をそらす。目線の先はオレの机…


「テメェオレの引き出し覗いたなぁぁぁぁぁぁ!!」


頬を掴む手を上にスライドさせこめかみに写し、先程以上に力を籠める。人体から聞こえちゃいけない万力に掛けられたみたいな音も聞こえてくるが、そんなこと知ったこっちゃ無いしどうせ無傷だから気にもしない。


「ガァァァ!!放せぇぇぇ話せば分かるから放せぇぇぇ!!ていうか、俺の性癖やら好みやら事細かに知ってるくせに教えないなんて不公平ではないかぁぁぁ!!」

「うっせぇ黙れスカポンタン!!お前あそこに仕掛けてた封印術式解きやがったな!!開けようとしたら捕縛術式と思考封印まで仕掛けてたんだぞ!!」

「『魔術は万人がために』という現代で秘匿とは相変わらず古風だな。女の好みはこんなに大胆なのにィィイ!?」


更に下らないことをほざくので、オレも更に力を籠める。このまま握ってれば鉄臭いトマトジュースが出来上がりそうだ。


「それとこれとは別だろうが!!」

「何が違うというのだ!!お前も俺が不公平なのが気に入らないのは知ってるだろう!!」

「それも知らん!!オレが知られたくないこと一杯の秘密主義なのは知ってるだろうが!!それについちゃ結論付けたろ!!」

「断固抗議する!!断固抗議する!!俺は知る権利を行使するぅ!!」

「ならばオレは黙秘権を行使するぅ!!」

「認めん!!認めェェェ痛い痛い痛い!!」


それからオレと女ロイターの闘いは熾烈を極め、最終的にオレが『絶対半殺しグローブ』でメッタメタに殴り飛ばしたあと荒縄で縛り上げた上で、寮母さんに引き渡すことで終幕した。縛る作業中にロイターが色々言っていたがここでは想像に任せるとする。





時間は過ぎてお昼過ぎ。校長から事務を通じてフィナーレの在学生選抜者一覧と会場の施工図を受け取ったオレは、昨日の続きも兼ねて図書館で黙々と作業をしていた。寮か研究室でも出来ないこともないのだけれど、手元にある資料だけではどうしても情報が足りないため、魔術や兵器についての文献がたくさん置いてある図書館へと足を運んだのだ。


学院の図書館は世界で三番目の蔵書量を誇る。様々な専門書や論文を初め、文学作品、文庫本、辞典、雑誌、新聞、古文書、読める人は限られているが魔道書、終末前の技術書等々。何時だったか、この図書館の司書さんに蔵書数を聞いたことがあるけど、『名前は全部分かってるけど、正確に数えたことはないし、これからまだまだ増えるから数えるだけ無駄っしょ』と答えられた。個人的には数え切れないほどの蔵書数よりも蔵書された本を全部覚えている司書さんの記憶力の方がビックリだ。


で、その蔵書の中に『学生一覧』何て言う、個人情報保護法を彼方に吹き飛ばした本が置いてある。当然一般に公開されている本ではなく、特別な許可と『内容を漏洩した場合処罰を受ける』誓約を科された上で、漸く読むことが出来る、『魔法』を用いて作成された魔道書の最上位『魔法書』だ。内容は学生の成績、得意不得意、前科、魔術適性、学生間の人間関係、そして血筋が、大まかに、だが事細かに記してある。曖昧な表現をしているのは数人の例外があるからで、例えばオレの血筋とかだ。


逆接、それ以外は全部載っている。初めてこの本の存在を知ったときはどうやってこの本を処分してやろうかと色々画策したもんだが、流石魔法書。燃やそうが溶かそうが存在抹消を試みようが無理だった。聞いた話だが『学生一覧』に載っている情報は学生でなくなった時点で抹消されるので、あえて目を瞑ることにしよう。


ここまで言えばオレが『学生一覧』を読んでいる理由が何なのかは大体察するとは思う。在校生代表についての情報を得るためだ。


「『龍騎士』『倒』『錬金賢者』『精霊の友』『化者』…理事会も本気だなぁ。そこまでロイターに赤っ恥をかかせたいのか…」


今年の在学生側の総人数は10人。どいつもこいつもロイターに優らずとも劣らぬ話題性の持ち主達で、正直こいつらを全員同じ会場に立たせて良いのかと要らぬ考えも浮かんでしまうが、ここにフリストとメリッサのバカップルがいないだけでまだ温情だと思ってしまう。


それでも、各々が二つ名…何かしらの功績を残した学生一人一人に送られる勲章を持っているほどの手練のため、各々の戦い方が多岐に渡りすぎて膨大な量になっている。施工図と設計図やら何やらを見る限り物理的な破損や観客席への心配は考えなくても大丈夫ということは確認できたのと、『学生一覧』があるおかけでどんな戦い方をするかの傾向が見れるから、調べるべき内容は各々が使う魔術関連だけに絞りきれたけど、それでも調べる量が多いのは変わらない。


オレの魔術に対する知識は人より多いだろうけど知らないうちに勘違いしているかもしれないし、もし全く予想も出来ない使い方をされると対策もクソも無い。だからと言って何でもかんでも制限すると個人個人のパフォーマンスにまで影響を及ぼしてしまう。パフォーマンスを維持しつつ構造物への被害を最小限にする為に絶対に必要なのは、『宴』に出る学生達が『されたら困る事』と『してもらわないと困る事』を把握することだ。


「…こればかりは直接聞くか?」

「何をよ?」

「あぁん?」

意識せずに零れ落ちた独り言に返された問い掛けに内心で驚きながら、その問いを出した人の方を向くと、両手にここ二、三日に入荷されただろう経済雑誌を大量に抱えたドーズブルフが立っていた。


「相席、良いかしら?」

「良いかしらって、そりゃオレに断る理由は無ぇけど…」


言いながら周囲を見回すが、どこもかしこもガラガラで席に困ったりするとは思えない。それに今机の上はオレが資料を無造作に広げてるせいで物を置けるスペースも殆ど無い。オレの知る普段の彼女ならそもそもこの席に近付くとも考えづらいが、何かオレに用があったのだろうか。


「ありがとう」


ドーズブルフは一言礼を言ってからオレの対面の椅子に腰かけた。何でわざわざオレの前に座ったのかと理由も気になるところだが、自分から突っ込むのも何か違う気がするので、一旦オレは彼女が話しかけてくるまで待つことにした。


が、それから刻々と時間だけが過ぎ去るばかりで彼女は一向に話しかけてこなかった。基本的に雑誌に視線を釘付けにし、時たま顔をあげて何かを言いかけたかと思えば思い止まりまた雑誌に視線を戻すという、何とも微妙な、煮え切らない行動を繰り返していた。


彼女の抱える問題はそんな相談しづらい事なのだろうか、それともオレにはしづらいだけなのかは知らんが、そんな行動を続けられるとこっちの気が散ってしまう。


「…なぁ、ドーズブルフお前─」

「ラングマン君」

『オレに何か用か』と尋ねる前に、ドーズブルフは漸くオレに話しかけてきて、更に続けた。


「これから一緒に、お茶でもどうかしら?」

遅れた理由『私の中の●樫が…』

お久しぶりです。

歳が増すほど年末の忙しさが増していくのは、辛い反面楽しいものですね。それで更新を遅れさせるのは別問題なんですが、これについてはネタ切れと語彙力不足なのです。


アルド君と学院が誇る魔法少女レオンティエンちゃんのお茶会メインの次回の更新は12/25を予定しております。

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