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八日前-1

※この物語には以下の成分を含みません。

・転生

・俺TUEEEEEE

・ハーレム

幼い頃のオレは、まず何より生きる意味が欲しかった。

体が極端に弱い『白血アルビノ』として生を受け、その直後便所に棄てられていたところを偶々通り掛かった巡視中の兵隊に拾われて孤児院を運営していた教会に預けられた。それから六年間は外に出ることはおろか、部屋から出ることも許されない生活を送った。


オレにとっての世界は、真っ白な壁に包まれた四畳半の部屋と、本棚に置かれた本、古いラジオ、窓から見える港町の景色という映像だけだった。当時覚えてる顔なんてのは、オレを預かってくれた孤児院の牧師様と朝昼晩決まった時間に食事を運んできてくれた修道服のおばさん、たまに来る医者の三人だけだった。

外に出たい。幼心ながらに無理だと分かっていながら、思わずそう告げた日もあった。だがその度に叱られた。貴方は他のみんなとは違う、外に出たら死んでしまうと。


自分と『外』を繋いだ物は本棚に置かれていた本とラジオだった。童話や小説はまともに体を動かすことのできないオレを、物語という形で様々な場所に連れていってくれた。図鑑や辞書はオレの知らない事を沢山教えてくれた。ラジオは今『外』で何が起きているのか、どんな人がいるのかを教え、心地好い音楽をくれた。


本棚の本を全部読んだオレは、新しい本を欲しがった。『どんな本が欲しいの?』と聞かれ『どんな本でも欲しい』と答えたときの牧師様の顔は今でも思い出せる位滑稽だった。


本を読むのは俺にとっての世界を広げる楽しみだった。新しいことを知るのが何よりも楽しかった。学術書で簡単な算術を学び、哲学書で自己啓蒙をし、神話や伝承と歴史書を比べて人の考えや民族傾向を、工学概論の本で機械やプログラムについて、魔術指南書で単純な魔術を知った。だけど帝王学やある特定個人を崇める文章は嫌いだった。『偉く見せよう』とかそういう考え方が嫌いなのは今も昔も変わらない。


普通の幼児としては桁外れの知識量と考え方だが実践も経験も伴わないただの知識で、だからこそオレはそれを試したかった。


便宜上の六歳になった日、オレは初めて部屋の外に出た。筋力も余りなかったから歩行用の杖を突き、何時体調を崩して倒れるか分からなかったから傍らに医者が控えた状態でだったが、オレにとって初めての外出だった。


海風の匂いが心地好かった。降り注ぐ日の光が暖かかった。海に反射する光が眩かった。風に揺れる木の葉の音がいとおしかった。今まで知識としか持ち得なかった物に初めて実感という色がついた。


その日から、オレは意味を知りたくなった。この世の仕組みが何故こうなっているのか、命の成り立ちは、意思とは、形態の秘密は、オレがオレという形で産まれてきた理由は…。人によっては『真理』『根源』と呼ぶ絶対的な基準点が知りたくなった。


「その答えは無いかもしれない。それでも貴方は知りたいのですか?」


オレの新しい願いを牧師様に打ち明けたとき、牧師様は悲しそうな目でオレを見て言った。


「例え答えがなくても、ボクの満足できるところまで解ればいい」


当時のオレはそんな感じの事を答えた。我ながら可愛げもなければ幼くもない答えだ。


その後オレは牧師様の知り合いがいる学院に預けられた。


そして現在──────





「何で処女は人気あるのに童貞はボロクソ言われるんだ?こんな世の中おかしいだろ」

「攻め込まれたことの無い城と攻め込んだことの無い兵士のどっちが強いって話だろ。加えて言うならおかしいのは飯中に突拍子もない下ネタをかますお前だ」

たった今食べている朝食がゲロ不味くなる程の寝言に対し突っ込みを入れつつ、オレは半ば無理矢理に残ってたトマトスープと牛乳を口のなかに流し込んだ。すぐ横を通った女の視線がやたら刺々しかったのが辛いが、自分に向けられたものでないだけマシ…いや、そんな視線を向けられている目の前のバカとつるんでる時点で十分辛いか。

「…なぁ、今の女子見たか?」

…嫌な予感しかしない。

「見たからなんだ?」

「俺のこと、蔑んだ目で見てたよな」

「見てたな」


「ご褒美かな?」

「…」

『友達やめた方がいいか』と喉元まで出かかった言葉をグッと飲み込む。悲しいことにそんな簡単に止められるほどの付き合いじゃない。

「寝言は寝てる間に言え。全く、こんなアホがあと少しで世に出ると思うとオレは頭が痛いよ」

「安心しろ。こんなこと言えるのはお前と後数人位だから」

「食堂は一応公然の場なんだが、その辺はどうなんだお前」

「…ノーカン?」

「ねぇよ」

やはりこの男、一回精神病院か山奥の寺にでも放り込んだ方が…いやダメだ。患者も医者も坊さんも皆変態になって出てくるだけだ。変態の特異点の異名は伊達じゃない。


目の前のバカの名前は『ロイター・ケーニッヒ』。

通称『変態王ロイター』。

彼の祖国の尊厳のために敢えて国名は伏せるが『ケーニッヒ』という通り某国の王族の直系にあたる正真正銘の王太子殿下であり、何処ぞのアホと並び我らが学院が誇る二大問題児の一人。更に嘆かわしいことにオレの入学時からの友人であり寮の同室だ。

こいつに関しての変態武勇伝は下級生にとって伝説になっている。もちろん悪い方の意味で。例えば風呂場の女湯に入るために思い付きで高位転移魔術の術式を組み上げ発動し全裸で女湯に飛び込んだとか、錬金術で作り出したアリアドネの糸製縄を使った『地獄のタイトロープ』とか、凶悪犯罪を犯した賞金首の魔術師が学院内に進入した時何故かボンテージを着こんで犯人を亀甲縛りし挙げ句三角木馬にかけてSMを始めたりと、その変態ぶりと異常性は他の追随を許さない。まぁ追随されても困るのだが。


そしてそのド変態馬鹿の前に座り朝っぱらから下らない話を聞いているオレの名前は『アルド・ラングマン』。誇るものは片手の指ほどの数しかなく、だからと言って貶す点もさほどない、何処にでもいる青年だと自分では思っている。あくまで自分への評価なので周りからの相対評価とは違うだろう。

恐らく『髪が白くて眼が赤い、無駄に背が高く、何時も杖をついている、変な奴の変な付き人』と言ったところか。髪が白いのも眼が赤いのも無駄に背が高いのも杖をついているのも単にオレの身体的事情だ。完全に第一印象が総評になってるというのも癪である。


「…なあアルド、我が親友よ」

ロイターは突然神妙な顔で俺に声をかけてきた。

「いきなり何だよお前」

「いやぁいつものアルドなら杖やら拳やらが俺の顔面に飛んでくるはずなのだが、やけに大人しいと思ってな。また体調が優れないとか、か?」

「別にそんなんじゃねぇよ」

そこまで心配されないといけなかったか。というかオレの体調が優れないのは何時ものことで、むしろ今日は良いくらいだ。


「残り一週間で終わりと考えると、どうしてもな」

「一週間?…あぁ、そういえばそうだな」

オレが言わんとしていることを理解したロイターもまた少々声色を落としながら頷く。


オレ達は今年で二十歳で、学院の最上級生だ。七歳から長期休暇を除きずっと過ごしてきた学舎を去ると思うと、らしくないとは分かっていながらも感慨深いモノがある。


「俺は国に帰って親父がくたばるまで騎士として公務に明け暮れ、お前は地元に帰って親父さんの跡を継ぐんだったな」

「そうだな。牧師様は『自分の夢を追え』っつってたけど何かパッとしないって言うか、これが自分の進む道だって思える物がなかったから、オレに夢ができて代わりに牧師やってくれる人が出来るまでは取り敢えずな」

「ふーん。ところでお前、牧師が何するか知ってるのか?」

「知識だけだな。実践的なところは現場で学んでいくしかないだろうよ」

「…お前も大概バカだよな」

「…」

バカにバカと言われて悔しい反面、正論なので言い返せない自分がいた。

「しかしアルドよ。お前は俺と違って沢山の才能があるだろう?成績優秀で戦闘技能も魔術も優秀。悪いのは体と口だけだ」

「テスト何てのはどれだけ覚えてるかの指標を計るもんで成績だけしか計れない。戦闘技能だって体力無いせいで短期決戦になっちまう。適性がある魔術も手間の掛かる樹印系と錬金系だぜ?

あと、口が悪いは余計なお世話だ」

「人はそれを嫌味と取るのだよアルド。妬まれることの多いお前なら身に染みてるだろうに」

ロイターは尚も食い下がってくるのがいい加減煩わしくなったので、


「…戦闘技能はオレ以上、魔術に至っちゃ歴代最高の術師とまで言われてるロイター・ケーニッヒに言われちゃ世話無ぇっつうか、これ以上に皮肉なこたぁ無ぇっつうか」

取り敢えず皮肉で返すことにした。皮肉に対して皮肉しか返せない自分の語彙力と発想力の少なさには相変わらず辟易させられてしまう。

とは言えオレの言葉には嘘も偽りも謙譲の一欠片も含んでいない。何せオレはロイターに筆記の成績でのみ辛勝できているだけで、他の分野では完全に黒星なのだ。


一旦話が逸れるが、学院は中級生になると、自身の専攻科目に加えて様々な分野の中から自分の受けたい教科を選んで受けることができるようになる。

オレは『神学専攻』、つまり神父や牧師、宣教師等になるための学科にいるが、その中に何故か戦闘技能訓練や魔術も含まれている。初めは選ぶ気など毛の先程も無かったが、ロイター及び他数人の友人の口車に乗せられるままに受講しはじめ、結果的にずるずると受け続けている。『魔術を扱う牧師なぞとんだ生臭坊主だ』と自嘲しつつも、それのお陰で人並み程度に運動できると思えば無駄ではないし、幸運なことに幾つかの武器の才能もあるから嫌ってはいない。寧ろ好きの部類に入る。


だがそれも、ロイターと比べると実に寂しいものに感じてしまう。学科は『魔導騎士専攻』というあらゆる戦闘のエリートが集まる秀才コースで、ロイターはその首席で卒業することが決まってる。確か同盟軍の有名な魔導騎士にすら片手間で勝ったとか言ってた。世が世なら間違いなく覇者と呼ばれていただろうし、今の平和な世の中でも『大魔導師』と呼ばれても何らおかしくない程の男。しかも最高の血統を持っていて、男のオレでも惚れちまいそうな、眼が瞑れそうなまでの美男だ。


どうしようもないほどに変態だけど、こいつは紛れもなく『比べるのも烏滸がましい』と揶揄するしかない存在なのだ。


「…不毛だな。止めよう」

「だな。残り一週間でも一応講義はあるし、早く部屋戻って準備しねぇと」

ロイターはまだ何か言いたげではあったけど大人しく身を退いた。オレも、恐らくこいつもこれ以上は『喧嘩になるかも』と思ったからだ。オレ達の喧嘩の理由はいつもこんな下らないことなのだ。

「随分と殊勝な言い分だが、本当に出る気があるんだろうなアルド」

「出席日数も足りてるしどうせテスト返しだ。調子が良ければ出るさ」

「結局出ないにアイス一個」

「信用無ぇな…」

適当な言い訳と軽口を言い合いながらオレ達は食堂を後にした。





さっきから『学院』だの『学舎』だの呼んでいるオレ達の学校の正式名称は『同盟立学院』。同盟が運営している学院だから世界同盟立学院。何とも安直なネーミングセンスだが、世界の東西南北の国家が所属、提携、協力関係を築いたものだ。


学院の入院資格は結構厳しい。試験だったり、資質だったりもかなり問われる。『裏技』という手も無くはないが、世界中から出資されて運営してる学院に入る手段として賄賂は現実的ではない。となると残される手段は『ツテ』と『推薦』になる。因みにオレは後者でこの学院に来た。真っ当に勉強して入った奴にとっては相当邪魔だったろうけど、その分努力して見返した。


閑話休題。とにかく、東西の国家から数多くの生徒が集まっているわけだから、仮に試験などでふるいをかけても生徒の人数は途方もなく多い。更に六歳、十二歳、十八歳に入学及び編入が出来るもんだから学年が上がるほどに人数が増えていく。十二歳と十八歳とその先のタイミングで卒業することも出来るが、入学する方が多いから、総合的に学部学年が上がると人数が増える訳だ。


で、そんな馬鹿みたいに多い生徒の将来の可能性を最大限拡げるために、学年が上がるにつれて学部学科専攻が細分化されている。学部は十、そこから派生する学科は五十三、専攻に至っては正直全部は覚えてない。例を挙げるとすればオレが所属する『教育学部聖職学科神学専攻』やロイターのいる『戦闘学部総合戦術学科魔導騎士専攻』等々だ。


で、現在オレは特にやることもなくゼミの研究室に備え付けられてあるソファーの上でゴロゴロと惰眠を貪っていた。朝ロイターに講義がどうこうと宣った手前言いにくい話だが、オレは前学期の時点で卒業に必要な単位を

全部取っている。受けている講義も必修か友人に引っ張られたか個人的興味で受けている二つだけ、必修の卒業研究も先週の時点で学部発表も終わっているためやることなし。そして今日は講義もない。

誰かと話せばいいということだが、残念ながらそれも無理だ。元々そこまで友達が多くない上に同じ専攻を選んでいる同学年が一人もいない。もっと正確に言えば下にもいない。更に言えばオレの選んだ『神学専攻』は、ここ五年オレ以外の学生が選んでいない不人気専攻だ。よく潰れなかったなと素直に驚く。


何故ここまで不人気かと言えば、話はかなり昔に遡る。

オレの信仰している…正確にはオレが育った教会で信仰されていた宗教は、かつて世界で最も崇拝されていたらしい。本流は数億、分流のオレたちの宗派でも数百万はいたそうだ。


だがそれも今や昔の話。数百年前に起こった『終末』で文明が大破崩壊、死者も数十億に上った。


しかし信者は救われず、天の国も訪れなかった。最後の審判を耐え抜いた子羊たちに与えられたのは、救いではなく怒りと悲しみと虚しさだった。終末を大団円として書かれた聖典は、終末後にはただの寝物語にも劣る物へと貶められ、何時しか信者もいなくなり…本流が数万、オレの所はオレを含めてほんの数十人となってしまった。

要らなくなれば神もモノも纏めてゴミ箱にポイとは随分即物的だが、以上が本専攻に人がいない理由だ。


「…つっても、流石に朝から寝れないか」

『惰眠を貪ること』とは言ったが熟睡は出来ない。昨日徹夜した訳でもなく、八時間きっちり寝てるのだ。眠気など襲ってくるわけもない。せいぜいが目を閉じる程度だ。


図書館にでも行こうか?あぁダメだ。興味があって読んでない本なんて禁書指定の魔道書しか残ってない。あんなものロイタークラスの才能がないと脳をレンジに突っ込むのと同じだ。


なら修練場はどうだ?この時間なら空いてるかもしれないが…いや、止めよう。鉢合わせたら面倒なのがいるかもしれない。気が乗らない戦いほど無益なものはない。

食堂は…いやいや、流石に腹一杯だしそもそも開いてないだろ。

「…仕方ない」

溜め息を一つ吐き、オレは再度目を閉じた。やることが無いときは安静にするのが、我が身にとって一番だと、自分に言い聞かせながら。

『書きたいものを書きたい』というお題目で始まった物語の1話でしたが、ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。


さて主人公のアルド君。生まれがやたらと酷いのは何故かとネタバレにならない程度に申し上げれば『ダイス神のお導き』です。というか名前のある登場人物の性格以外はほぼ全てダイス振ってます。


ダイスを振っている理由ですが、物語というのはナマモノで、ある程度プロットや予定を決めていても予定外な方向へ迷走し出すものなのです。


『ならば初めから運任せにしてしまおう』。


これが本作品のサブコンセプト。結局運命の女神様には何人足りとも勝つことはできないのでしょうね(人はそれを推敲不足という)


それっぽく理由を言うのなら『キャラクターだって生きているのだから云々』と言えちゃいますけど、そういう建前は抜きです。


勿論主軸となる物語の世界観、舞台設定、重要人物の設定には一切ダイスを用いておりませんし、手抜きもしません。元々私が『設定』を考えるのが好きなのもあります。


さてこんな拙い物語ではありますが、お付き合いいただければ大変嬉しく思います。感想やご指摘を戴ければ胸が高鳴る思いです。でも誹謗中傷は勘弁願います。


次回の公開は大方一週間後です。良ければお付き合い下さい。

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