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天ノ都  作者: ありあ
8/8

赤と黒

 見たことも聞いたこともない魔法。美咲にとってそれは不意打ちであり、そしてあの黒い腕は剣すら止めることが出来るという事実は、彼女の心を揺らすには十分だった。

 チラリと篭手のポイントを見る。バックステップで勢いを殺したこともあり、予想以上にポイントは減っていない。すぐさま仁に意識を集中させ、剣を握り込む。美咲に与えられた勝ち目は、剣が届き、拳が届かない距離で戦い続けること。しかし、魔力弾等の遠距離攻撃をお互いに持っている以上、簡単に接近することすらできない。

 「だったら......」

 剣をその場で振りかぶり、目の前に赤い魔法陣が展開される。仁もニヤついた顔から真剣な表情へと変わり、いつでも飛び出せるように四肢に力を込めた。

 「ブレイズ・ハート!!」

 剣を魔法陣に向かって振り下ろすと、巨大な炎の斬撃が仁に向かって飛んで行く。コンクリートの廊下を削りながら進む斬撃は炎の獣の如く荒々しく、とても女子高生が放つ魔法、剣戟とは思えない。

 仁もその斬撃のサイズに驚き、すぐさま横に思い切り飛び退き、廊下の壁に黒い爪を使って張り付く。襲い来る熱風に当てられながら美咲の居た所を見るが、そこにあったのは黒い焦げ跡しか無かった。

 「やっば、陽動か!?」

 そう気づいた仁はすぐさま壁を蹴り、上へと逃げる。一瞬遅く、爪痕の残る廊下の壁に、砕けたコンクリートが打ち付けられた。

 「女子のやる攻撃ちゃうやろ!?アホちゃうあいつ!」

 コンクリート片で悪くなった足場に着地し、腕から魔法陣を展開させる仁。すると、右腕のブレザーの裾から、真っ黒な細長い腕がにょろにょろを顔を覗かせた。それも一本ではない。沢山の黒い腕は、地面を這い、全方向へと進んでいく。美咲を見失い、コンクリートの塵で視界が悪い為の索敵だ。

 しかし、美咲も既に次の攻撃の準備を始めていた。さっき仁が爪で壁を捉えたように、剣を壁に突き立て、柄の上に乗り、魔法陣を展開させていた。魔法陣が白く輝き、少しずつ塵が晴れていく。仁も塵が晴れたおかげで美咲を視認し、魔法陣を見て舌打ちした。

 「ホワイトエッジ!」

 魔法陣から光の斬撃が飛ぶと同時に、美咲も仁に向かって飛び出す。仁は斬撃をかわすことは不可能と判断し、両手を交差させて斬撃を受け止め、弾いた。しかし、その瞬間には美咲は仁の懐に入り込み、拳を打ち込む準備まで終えている。

 顔面に思い切りパンチを打ち込み、のけぞった仁を踏み台にジャンプ。更に魔法陣を展開して刺さったままの剣に魔力弾を打ち、刺さった剣を無理矢理抜き、着地と同時に剣もキャッチした。

 「まだだよ!」

 剣が纏う炎の勢いがどんどん増していく。美咲は剣を振りかぶり、もう一度赤い魔法陣を展開。剣を魔法陣に向かって振り下ろした。

 「ブレイズ・ハート!!!」

 さっきよりも更に大きな炎の斬撃が仁を襲う。しかし、仁は今度は避ける素振りを見せず、真っ黒な両手を合わせ、まるで竜が口を開けるように開いた。

 「デカなっても同じ魔法をみすみすと食らわんねんなぁ」

 開いた手のひらから、膨大な黒い魔力が勢いよく噴出され、斬撃を受け止める。それはまさに竜のブレスの様な威力。コンクリートを破壊するような威力の斬撃を受け止め、押し返しているのだ。

 「えっ......」

 押し返されるとは思っていなかった美咲は一瞬あっけにとられる。気が付いた時には黒い波動は目の前にまで迫ってきていた。

 「やばっ」

 すぐさま緊急回避の形で横に転がる。コンクリート片が転がっている為少しダメージを受けたが、それは小さな事でしかない。

 すぐさま体勢を立て直し、仁を見据える。真っ黒な両腕から放出された魔力の残片か、全身から魔力が滲み出ている。


 その時だった。


 「捕まえた」

 後ろから首筋に黒い爪を当てられる。目の前にいたはずの仁はどろりと溶けたように崩れ、無数の腕へと変化していく。さっき、索敵に使った黒い腕だ。

 「アホみたいに魔力使うけど、こんなことも出来る魔法でなぁ、びびったやろ?」

 にやついた笑いを浮かべながら仁が話し始める。しかし当然ながら美咲は後ろを向くことすらできない。美咲はその状況でもなんとかして打開策を考えようとしていたが、何も思いつかなかった。

 しかしその時だった。

 「あかん、魔力足りひん」

 突然、黒い爪が消え失せた。仁が維持するだけの魔力を切らしたのだ。斬撃を受け止め、押し退けるほどの魔力の波動、自分のダミーを作る魔法、魔力を使い過ぎていたのだ。

 「あー、ミスった。まあええや、楽しかったし。俺の負けでええよ、配分ミスったんは俺のミスやし」

 そう言って仁は自分の篭手を操作し始める。しばらくして、美咲の篭手に勝利を知らせるメッセージが表示された。

 「え、こんな終わり方でいいの?」

 美咲はあっけにとられた表情のまま、歩き出していく仁に向かって言葉をようやく投げる。

 「うーん、とりまこれでええや。また明日、話しよなー!

 そんな呆然とした美咲を放って、関西弁の男はにやついた顔で手を振るのだった。

ほんと亀投稿ですみません。

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