ブラック・ファイター
三ヶ月ぶりとかで申し訳ないです。
「あれ、これもしかして結構いけそう?勝てそう?」
回し蹴りが綺麗に入り、階段の何歩か下に落ちてしまった美咲を見ながら、仁はまたニヤついた顔になっていた。対する美咲は先にダメージを受けたことに驚き、互いに動きが止まっている。
ダメージはポイントを見る限り大したことはない。篭手についている魔法陣のお陰で、外傷はほとんどつかず、身体にダメージは通らない。自分が受けたダメージは、減ったポイントの量を確かめるか、痛みの感覚でしか知ることができないのだ(痛みの感覚も少し緩和されるが)。
「さて、俺がファーストアタックをバシッと決めたとこで、第二ラウンド行こか!!」
仁が階段を飛び降り、その勢いで拳を繰り出す。美咲はその拳を体を横に流し、一度距離をとろうと後ろに引く。仁もそれを予想していたようで、更に前に攻め入り、剣が満足に振れない距離を作り出し、インファイトを仕掛けにいった。美咲は繰り出され続ける拳を、足をかわし、いなし、後退し続ける。いつの間にか階段から廊下へと戦場が変わった。
ひたすら守りに徹する美咲に痺れを切らした仁は、少し攻撃が大振りになり始めた。それでも美咲は攻撃をせず、かわし、いなすことに専念する。
「なんや、攻めてこいよ!おもんないわ」
とうとう仁はかなり大振りの拳を繰り出した。それに合わせて美咲は剣の持ち手の部分をぶつける。拳に突き出された剣の柄は、仁のペースを崩し、更にダメージを与える絶大な効果を持つ攻撃となった。そのまま剣を振り、横腹に剣戟を加え、思い切り蹴り飛ばした。
「第二ラウンドは私の勝ちでいいよね」
ヒュヒュッと剣を払いながら美咲が地面に転がった仁に向かって言い放つ。すぐさま立ち上がった仁の顔は、驚きや怒りではなく、意外にも素直な笑顔だった。
「いや、ホンマにちょっと油断したらこれやもんな、ホンマに強いわ。じゃあ、第三ラウンドやな。お互いにそろそろ本気でやらん?」
その言葉に、美咲の目は手にしている剣のように鋭くなった。それを見て仁は最早見慣れたニヤついた顔に戻る。
「......いいよ。本気でやろう」
剣先を仁の方へ向け、まるで宣戦布告のような態度をとる美咲。対する仁の足元には、黒色の魔法陣が回転していた。
「そんじゃ、やんで。『ブラック・ファイター』」
仁の足元にあった魔法陣が強く光る。魔法陣に魔力が送られ、なんらかの作用を与えた証拠だ。そして、魔法陣が消えると同時に、仁はばっと美咲の方へ飛び出し、もう一度接近戦に持ち込もうとした。美咲も今度は間合いに入られる前に、自分の距離、つまり剣が届き、拳が届かない距離で戦おうとし、剣を突き出した。
しかし、その剣先は、「仁の右手によって」、捕えられていた。
「なっ......」
その状況でも焦らずにすぐさま剣を戻そうとした美咲の判断力は間違いなく、この学校の中でも上位に入ることができる戦闘センスの持ち主であることが解る。しかし、そうする前に間合いを詰めた仁の左の拳が美咲を捉えた。その一撃は、間違いなくさっきの回し蹴りの威力を超えている。
仁の両腕は、黒く、黒く染まっていた。指先は長い爪のように尖り、魔力が腕から漏れ出ているように見える。
「魔法......?」
その腕は魔法によって作られた物、魔法の力で強化されたものというよりかは、まるで悪魔に魅入られた人間の末路のように見えた。
両腕を黒く染めたヘアバンドの少年は、相変わらずニヤついた顔を崩さない。
「これが俺の魔法、『ブラック・ファイター』」