入学
四月。まだ少し大きめな制服に身を包み、少し不安そうな、しかし楽しそうな表情を見せる、恐らくは新入生であろう学生達が朝の桜の並ぶ道を歩いていく。
赤城大雅もそんな新入生のうちの一人なのだが、他の新入生達と違う点がある。
不安そうな、いや、何かを諦めたような顔をしているのだ。
彼の身に着けている制服は、日本魔法学高等学園のものである。日本の魔法学校の中でもトップレベルの軍人や学者を排出する、正に若き魔法使いの憧れの学校でもある。また、魔道局が管理する世界最大級の魔道書保管庫、通称「天空の図書館」が校内にあることもあり、世界から注目を浴びている学校だ。別名、「天ノ都」。
当然ながら入学基準も高く、入学する学生もエリート揃いだ。しかしそんな中、大雅の魔法のセンスはゼロに等しかった。
とある事情により入学の決まった魔法学校。大雅にとってはこれからの三年間が地獄に思えた。
「マジで憂鬱だ......」
大雅はこれから始まるであろう魔法実技系統の授業を考え、げんなりするのであった。
天ノ都は日本の幾つかある魔法学校の中でも、特に戦闘や戦略等、軍人としての実戦的な内容が濃い学校だ。校舎もそういった実戦等で使われることも多いらしく、廊下やグラウンド、中庭等が普通の学校と比べてかなり大きめに作られている。それは玄関も例外ではなく、登校してきた大雅を早速驚かせた。
とりあえず上履きに履き替え、掲示されている魔法陣に書いてあるとおりに体育館へ進む。魔法のセンスがなくとも、魔法を見る事は誰にでも可能だ。
広い廊下を長々と移動し、渡り廊下へと差し掛かる。周りは期待に胸を膨らませる、これから同級生となる男女で溢れている。これから体育館で始まるのは入学式だ。
体育館へ入ると、唐突に大雅の体を魔法陣が包んだ。どうやら入学者の確認らしい。魔法陣が大雅の席を図と番号を示し、大雅は用意された椅子へ座った。二列縦隊らしく、隣にはまだ誰もいない。恐らく同じクラスで、出席番号が一つ違いか、はたまた二、三十違いだろうと勝手に想像していた。
大雅の席は一番前だ。ふと後ろを見ると、既に八割程の生徒が着席している。改めて見回して感じたが、体育館も相当な広さだ。
そんな風に周りを観察していると、隣の空いていた席が埋まった。長い黒髪はウェーブがかかり、大きな猫の様な目。あどけなさは残るが、綺麗な顔立ちをしていた。少し緊張した顔をしながら、大雅の方を見て、笑みを浮かべる。
「隣ってことは、同じクラスだよね。よろしくね」
そんな言葉を笑顔と共に受けながら、大雅はこの女も魔法のレベルが高いのか、と考えつつ、よろしく、と少し笑みを作り答えた。
そして間もなく、入学式が始まる。お決まりの校長先生の話が始まり、大雅は(恐らく他の生徒もだろう)退屈になり始めた。この校長先生、魔道局の中枢にも籍を置く、日本の魔法界を牽引する立場の人間らしいが、話は普通の校長と同様、相当長かった。
そして次に生徒会長の話。こんな学校だ、生徒会長はさぞかし真面目で「できる奴」なんだろうと考えていた大雅だったが、出て来た生徒は髪の毛を染めた、背の高い男だった。
「新入生の皆さん、ご入学、おめでとうございます。この学校では、毎日放課後に全校生徒での実戦演習があります。先輩達も全力で皆さんを潰しにかかるので皆さんもせいぜい押しつぶされないように頑張って下さい、以上」
あまりにも短い、少し学校側にも喧嘩を売っているのではと思うような生徒会長の挨拶が終わった。周りもあんな適当な挨拶があるとは思わなかったのだろう、ざわざわとし始める。大雅も、隣の女子も少しキョトン、としていた。
その後は特に何も変化の無い、普通の入学式が続き、そのまま各教室へと移動となった。次は担任らしき教師が前に出て、生徒達を先導する。
大雅達も自分達の教室へと案内され、各々の席へとつく。先程まで隣だった女子は前になっていた。出席番号だったらしい。
「えー、先生は大橋良明と言います。詳しい自己紹介は後でするとして、まずは皆の自己紹介をお願いします。名前、趣味、得意魔法などなどを、一番の青葉さんから」
赤城大雅の、魔法学校としての一日目が始まった。