調子に乗りました
魔法の基礎を学ぶことは許されていたけれど、結局私は一人で鍛錬を続けていた。
というのも、魔石のこともあるが、防御の魔法のことばかりを考えているなんて他の人に知られたらまたバカにされるだろうな~と思って。ムウファも居ない今は、正真正銘、ぼっちで練習だ。さ、さみしくなんかないんだからねっ!!
あ、あともう一つ。この頃になると、私の魔力についてもだいぶ自覚が出てきていた。
なぜ私が、魔石を通して人に魔力を渡すことができるのか。それはどうやら、私の魔力は人の魔力とも、周囲の、それこそ大気中の魔力とも相性がよく、混ざってしまうからだということに気付いたのだ。
そういえばゲームの『クリス』にも、魔力極少という描写は無かったから、これは予定調和だったのだろうと思うけれど、とにかく私は、今まで常に周囲に魔力を垂れ流していたのだという考えに至った。
普通はほかの魔力と混ざるということが無いので、垂れ流すとかそういう概念すら無いようなのだけど、私の場合は大気中だとか、地面だとかに魔力が吸収されてしまっているようなのだ。
それからは魔石を肌身離さず、それこそ寝る時まで身に着けてみたり、色々と魔力の操作を工夫したりして、何とか自分の体に魔力をとどめておけるようになった。まぁそれでも、フッツーの人並の魔力しか無いんだけどね。
そして使える魔力が増えたことや、寝る時も魔石を身に着けることで、かなりの速度で魔石に魔力が溜まった。
王子に秘密裏に送っているノルマを考えても結構余るようになってきたので、自分の実験に使っているのだ。
ちなみに毎月、王子からはかなり大きな魔石をいただけるようになったので、魔石難民からは脱した。大きくて色もキレイで、傷も無い立派な魔石だ。さすが王子様!!
というわけで、目下防御魔法の開発にいそしむクリスティーナ、9歳です。
「出でよ」
ボスンッ
なんというか、最初は自分の魔力を何かに変換する方法を試していた。普段みんなは火とか水とかに変換して攻撃魔法を放つわけだから、それを盾とかに変換したらどうか?と思ったのだ。
でもこれは失敗だった。盾を作るのは土魔法に特化した人にしか無理っぽい。私では盾にならない。土の塊がその場に出現するだけだった。たぶんこの塊、勢いつけてぶん投げたら攻撃魔法だよねぇ。
「うぁぁぁぁ~……」
正直煮詰まっていた。そもそも自分でも何を目指しているのかよく分かっていないのだ。師匠も無しに新しい魔法の開発なんて無謀が過ぎるんじゃね…と思えてきていた。
そんな時だった。村に巨大な雷が落ちたのは。
ものすごい音と光があたりを包んだ。
最初は攻撃魔法かと思ったがどうやら自然災害のようで、村人の悲鳴と爆風があたりを舞った。
「か、母さん………!!」
私は真っ青になって自分の家まで駆けだした。とにかく近くに雷が落ちたことしかわからないので、村の中が安全なのかどうかも判断がつかなかった。母は無事なのか、ただそれだけを考えていた。
「母さん!!!!」
「クリス!!!!あぁ~良かった!!!あんたまた一人村はずれにいて巻き込まれたんじゃないかと気が気じゃなかったよぉ!!!」
全速力で駆け抜けて家まで戻ってくると、母は家の前でわたしを待っていた。思わず駆け寄ると全力で抱きつぶされる。母も真っ青になっていたが、私の顔を見てひとまずは安心してくれたようだ。
「どこに落ちたの?!」
「それがどうやらね、村の裏手にご神木あったろう?ご先祖代々守ってくれてたあの木にね、直撃しちまったようなのさ…」
沈痛な面持ちで母が教えてくれた。1000年を超えて生きていると言われていた村の守り神の木に雷が直撃した。火はみんなで消し止めたけれど、半分が燃えてしまったようだと。ただ幸いなことに、村人のだれ一人としてけが人は出なかったそうだ。
「村のことを森の神様が守ってくださったんだねぇ……」
母はそう言って涙ぐんでいたが、私にはその時、神が降りていた。
そうか。雷を一身に受けたご神木のように、まずは魔法を私に吸い寄せることを考えるのだ。
私の魔力はだれの魔力とでも融合する。魔力操作を極めれば、魔法の攻撃ならば私の方に意識的に引っ張ることもできるんじゃないか?!
そして先ほど、村人は皆持っていた布などで頭を隠していた。
魔力を何に変換することなく、そのまま布のように見立てて体を覆ってみるのはどうか?!
魔力で作った壁に相手の魔法が当たればあとは私の魔力操作の腕次第で、吸収してしまったり、そのまま大地に流したり、どうとでもできるんじゃないのか?!
え?!これ私、やり方次第ではTUEEEEEEEEEんじゃない?!
というようなことを思いついたのである。
神は私を見捨てていなかった……!!!!!
そしてまたわき目もふらず鍛錬に次ぐ鍛錬。私には火も水も土も光も、ずばぬけて特化したような適正は無い。だから魔力そのものの操作を極めるしかない。私の強みは、ほとんどの人間が私の魔力の特性を知らないことだ。
約束の年(私が一方的に決めただけだけど)まであと1年を切った。とにかく今はこれに賭けてみようと、その時のわたしはとにかく魔力操作の鍛錬に明け暮れる毎日を送ったのだった。