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歯車が回りだす

さて、美形貴族様が目を覚まして、数刻が経った。

その間、水を飲ませたり体を起こすのを手伝ったり、かいがいしく世話をしていた。主にムウファが。



「ああ…こんなに水がおいしいなんて」

「普通の水ですよ」

「ふふ…そうだね、でもなんだか生き返った心地がするよ」

「あー、まぁ確かに死にかけていましたからね。気持ちは分からなくもないかも」

「…やはり僕は死にかけていたんだね。ここは…トレンタの町の近くかな…?」

「はい、ここはトレンタの町から馬で半日ほどの、テンの村近くの魔石採掘の森です」



貴族様とムウファの会話を無言で見つめる私。いや、本当に…美形ってすごいな。ムウファも相当な顔面偏差値だから、二人が寄り添うと数倍のキラキラが。。。



「おいクリスなんだその目」

「まぶしい!」

「何言ってんのお前…。それより、この人さっきの俺らの話聞いてたみたいだけど、どうする?」

「………さて、どうしようか?」

「はじめまして?君が僕を助けてくれたようだね。本当にありがとう。君に心からの感謝を…」

「いや、大丈夫です。お礼などは不要ですので、どうぞわたしたちのことはお忘れになってください」



間髪入れずに貴族様の言葉をさえぎってこちらの要望を伝える。いや、だってこの人、本当にやっかいな…面倒事のにおいがする。目を合わせれば、綺麗な顔から少し悲しそうな気配がするけどそんなのかまっていられない。ムウファからも咎める目線が飛ぶけど気にしない。


「わたしたちは貴方に何も望むことはありません」

「僕のことは何も聞きたくない?」

「…」

「クリス君は正直だね。……でも、ごめんね。さっきの話、聞こえてしまった。聞いてしまったら、なかったことにはできないよ」

「……」


もう一度ごめんねと言って、貴族様は自分のことを指して言った。



「僕の名前はルドルフ・アウシュグスト。この国の第3王子だ」



私とムウファは、かなり面白い顔をしていたらしい。少し目を見開いてからクスクス笑って、この国の王子だという貴族様はなおも続けた。


「知っているとは思うけど…今この国にはね、僕を合わせて3人王子がいる。もちろん第1王子のルパンド兄上が第1王位継承者だね。父はまだまだ存命で、その治世は君たちも知っている通りだと思う。そこまで悪くはないけれど、革新的ではない、そんな感じかな?…まぁ、その父上がいつ王位を譲っても良いと豪語するくらいに、ルパンド兄上は優秀な方なんだ」


この王子様は本当に、兄のことが好きなようだ。とても優しい顔をして兄王子のことを語った。

この頃にはもう、私はあきらめて聞く姿勢に入っていた。だって、一番のトップシークレットを止める間もなく最初に言うんだもん。この人。王子だとか口が裂けても言っちゃだめでしょ。こんな何処とも知れない森で、誰とも知れない私たちなんかに。策士なんだろうなぁ~ああ、教会の魔法の先生(笑顔で私にもう来るなと仰った)と同じ人種(腹ぐr)のにおいがするよ。。。


「でもね、どんな世の中にも、やっぱりいろんな考えの人がいるから…ルパンド兄上よりも、第2王子であるルイネイル兄上のほうが王に相応しい、と語る重鎮がいるんだよ」

「あぁ、よくある家督争いですか」

思わずといった風に、ムウファが口をはさんだ。そういえば風の噂で、第1王子よりも第2王子の母親の方が身分が高いのだとか何とか…聞いたことがあるような無いような…。


「君たちは年の割に本当に賢いんだね。…ごめん、言い方を変えよう。そう、家督争いの真っただ中なんだ、今まさにね。とても愚かなことだとは思うけれど。そして僕、第3王子の母は平民なんだ。癒しの力を持っただけの、普通の人なんだよ。だから継承権は一番低い。今の王族の中では下から数えた方が早いくらいに」


王子は少し咳き込んで、また水を飲んだ。そういえばこの方は先ほど目を覚ましたばかりの重症人なのだ。気丈に振る舞うから、忘れてしまいそうになるけど。


「でも僕にはこの容姿が、そして治癒の力が強く表れた魔力がある。これはね、王位を継ぐ者にとっては、陣営にぜひとも欲しい力なんだって。何せ僕は…自分で言うのも恥ずかしいけれど…癒しの象徴で、王都の民衆からの支持は絶大なんだ」


「「………」」


すごい。少しはにかんで、頬を染めるルドルフ王子の破壊力といったら。すごいとしか言いようがないな。


「ムウファ、鼻血出すなよ」

「出すか!バカ言うな!」


こそこそ話す私たちを華麗に無視し、王子は続けた。


「さて、僕は当然第1王子陣営に加わると公言しているのだけれど、そうすると第2王子陣営は面白くないよね。そんな思惑が色々絡んで、結論として僕はトレンタの町に視察に赴いたところで殺されかけたっていうわけなんだ」


とても淡々と話をされているけれど、これ王族暗殺未遂の話だよね?え?そんなことまで平民の中でも底辺にいる村人に話す?話しちゃっていいの?


「…王子のたくらみが怖すぎるんだけど」

「ああ、これはもう、父さんにも隠し切れないなぁ…」


ムウファは遠い目をしている。村長、ものすっごい怒るだろうなぁ…その時は私は絶対ムウファと一緒にいないようにしよう…。


他にも色々と、一通り私たちに秘密を暴露して、スッキリしたのかすがすがしい表情でまたもや王子は爆弾を落とした。



「ムウファ、クリス。まだ君達からちゃんと自己紹介もされていないのに、こんなことを言ってごめん。……でも、僕と一緒に来てほしい。僕に力を貸してほしい」



もはや、私たちは開いた口がふさがらなかった。



「僕はね、自分の側近に力が無い。王位から遠い僕にはろくな戦力が無いのに、今回のことで半数は死んだだろう。………でも僕は戻らなければいけないんだ。ルパンド兄上に、必ず戻ると約束したんだ。」


ムウファが私の手をぎゅっと握りこんだ。

私は、ただただムウファに申し訳ないなと思っていた。あの時森で王子を助けると決めたのは私だった。ムウファはまさに、巻き込まれた形になってしまったのだ。


「目覚めた時から、ムウファの魔力の大きさは感じていた。君はまだ子供だというのに…王都でもトップ争いができるほどに火力が強いね。僕も一応魔力は大きい方だから、それくらいのことはわかる」


王子だってまだ子供だ。なのにこの威圧感はなんなのだろう。

ムウファが汗をかいているのが分かる。王子は本気だ。それを感じ取ってしまったのだ。


「訓練すれば必ず王宮でも通用するようになるだろう。そして…クリス」


王子はまっすぐ私を見た。重症を負っているとはとても思えない、強い瞳だと思った。


「魔石を通して他人に魔力を渡すことができる。。。これは、いまだかつて聞いたことがない能力だよ。王子の僕でも、本当に耳にしたことが無いんだ。そんな君を、僕は他に渡す気にはなれない」


私も掌に汗をかいていた。これは間違いなく、私たちの人生を180度変えることになる言葉だった。


「君たちにとって利となるものを今の僕は何も持っていない。だけれどそれでもどうか、その力を貸してほしい。僕と一緒に来て欲しい。この通りだ」



この時王子はきっと焦っていたのだ。側近はほとんど殺され、自分も森に追いやられて瀕死の重傷を負った。何とか目を覚ましてみれば、消息を絶ってからひと月程が経ってしまって。そして、王都に帰るには何もかもが足りないというのに、どこがどう繋がっているか分からない権力者は心から信用することができないのだから。

そこへ、何のしがらみも持たない、でも少しの能力を持った子供が居たのだ。利用したいと考えるのは仕方がないことだと思う。それでも私たちに命令するのではなく伺いを立ててくれるあたり、母が平民だというのが大きいのだろう。今はその身以外に何も持たない王子ができることのなかで、最大限の誠意を見せてくれているのだ。



私たちはというと、一国の王子に頭まで下げられ、身動き一つ取れないでいた。

この国の頂点にいる人に何が言えるというのか。その願いを断ることはおろか、言葉すらも発することができないでいた。


しばらくの間、誰も何も言わなかった。それでも少し間が空いてやっと、ムウファが口を開いた。


「頭を上げてください。恐れ多いことです」

「君たちは僕の部下ではない。協力者だ。敬語はいらないよ」

「王族様が何をおっしゃるのか。……先ほどのお話、俺はお受けしましょう。」

「!!本当かい…!!」

「でもクリスは無理です。こいつは本当に魔力が少ないんです。魔石のことがあっても足手まといになる」

「…!」


私はいまだに何も言葉を発することができなかった。ムウファが私をかばっている。それだけはわかるが、何も言うことができなかった。


「魔石は毎月、こいつから王都に送らせるようにします。だから殿下…クリスは今は置いて行きましょう」


ムウファは強く言った。雲の上の王族に向かって。絶対に引かないという強い声色だった。



王子は少し考えるそぶりをし、


「君たちに心からの感謝と、それから謝罪を。巻き込んでしまってすまない。助けてくれてありがとう。よろしく頼む、ムウファ、クリス」


そう言ってにっこりと笑った。心から笑っているように見える王子のソレは、女神もかくやという美しさだったのだが。私はその笑顔を、ムウファを連れて行ってしまう悪魔の笑顔だと…恐れ多くもそう感じたのだった。






コメディのつもりなのに、どんどんシリアルになっていく。

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