最後の仕事③
長くなったので二回に分けて更新いたします。お気をつけくださいませ。短く纏めたいのに技術不足で纏められなくて、毎度終わる終わる詐欺をしていて申し訳ないです。。
ここからの事はあっという間すぎて、実はあまり詳しく覚えていない。ただひたすらに魔石に魔力を込めていたことくらいで、他に思い出すことと言えば仲間たちとの会話だろうか。あの時は何をそんなに焦っているのかと自分でも疑問に思う位、魔石の事に没頭していたのだけど、それもやっぱり予定調和だったんだなぁ。ゲームの進行に必要不可欠な『クリス』の大仕事だったんだから。
「ふぅん。キアラ、ね。あれ以来会うことも無かったからスッカリ忘れてたぜ。ちっと調べてみっか」
「あ、あんまり無理なことはするなよ!」
これは王宮で私に与えられている部屋での会話だ。私もここ何年かで、自分から人に頼ると言うことを少しずつ覚えた。特にアランに対して、自分と対等であり同志であり頼もしい仲間として何でも相談するようになった。ムウファや王子やクリフォードさん達には、彼らが忙しすぎてとても相談ごとを持ちかけられないという理由もあったのだと思うけれど、それを差し引いたって私はこの、そばかすの散った生意気そうな顔の、でも身内にはひたすら優しいことを知っている…アランという少年が大好きで、心から信頼していたのだ。
『アラン』という人物は、ゲームには一切影も形も出てこない。まぁ、主人公目線で学園に入ってからの日々の中に、アランが出られるタイミングは無いからかもしれないし、アランがいたら話がそう簡単には進まなかったからなのかもしれない。だってアランがもし味方に居たとしたら、ゲームのように主人公に頼らなくたって、王子やクリフォードさん達が危険に陥るわけが無かったと思うんだ。それくらい、アランというこの友人は頭が良くて行動力もある、頼りになる人物なのだ。
「おめーに言われたくねェよばーか…ンな事よりその魔石についてだけどよ、魔力補充の当てはあんのか?」
「ん~…こんな立派なもんが手に入ると思ってなかったからな…ま、気合で」
「だと思ったぜ…。お前ホンット考え足りねーよな、頭悪くねェくせによ」
「ぐっ…ホントの事いうなよ…傷つくぞわたしだって!」
「ハッ…今モリーに魔石組召集させてっから、少しゃ俺らに託せ」
「え?」
「一人で抱えんな。数で攻めればなんかいい案も出るだろ」
「アラン…!!でも大丈夫。これ、わたしが一人で仕上げたい。仕上げなきゃならない気がするんだ」
「…?ンならムリにとは言わねーけど、一応アイツら助手に使ってやってくれや。勉強にもなンだろ」
「おぉ、それなら喜んで!」
出会った時にはいつも不機嫌そうにしていたその顔も、今では少し優しげになった。万年欠食状態から脱して、艶の良くなった茶色の髪に、はちみつ色の瞳が大きい目、丸みを帯びた頬は彼を幼く見せるけれど、その頭の中では人の何手も先を考えていることを私は知っている。
「あ、あと俺ァちっと国外に出ることになったからよ、これ持っとけ」
「ん?あ、これもしかして…コムか?」
「ああ。試作で何セットか作ったからな。それのお披露目かねてモンタナ商会に着いてくんだよ。で、これァ俺のとセットになってっから…なんかあったらぜってーに呼べ。分かったか?」
「あ、うん…でもこれ、貴重なんじゃないのか?」
私の手には、アランが初めて私たちに見せたあの杖よりも少ししっかりとした飾りや絵柄のようなものが入っていた。これ、国を相手に売るモンなんだよね…。絶対にただの平民の小娘の持つモンじゃないよな。私が手にジットリと汗をかきながらそう言うと、途端にアランは呆れたような顔をする。
「ばぁか。お前だって原作者みたいなもンだろ。…あー、言い方変える。たまに孤児院のヤツらの様子みてコレで知らせてくれや」
「あ~!うん、それなら了解!任された!」
私の納得しやすい理由を付けてくれたんだってすぐに分かったけれど、中々顔を出せなくても孤児院の事をずっと気にかけているのは私も同じだったから、すぐさま頷いた。アランは苦笑して、私の頭をボスボスと叩いて足早に部屋を出て行く。いつの間にか、アランの手が私の頭を包めるんじゃないかってくらい大きくなっていて驚く。細身で、身長だって私と変わらないくらいなのに、掌はとても大きい。なんていうか、最近孤児院のヤツらが成長しているのを見ると本当にうれしくて、これってもしかして母性か…?!とか言っていたら、カリンさんに鼻で笑われたのを思い出した。
モンタナ男爵について王宮に来たついでに私の所に寄ってくれたアランも、相当忙しかったようで、話すことができたのはほんの一瞬の時間だった。それでもこの時にアランがくれたコムは、私と孤児院の仲間たちとの絆のようにも感じられて、以後私の宝物となるのだ。